SDGs取り組み事例

トレジャーカンパニー vol.30

  FrankPR株式会社 

会 社 名:FrankPR株式会社
所 在 地:大阪市西区
代表取締役:松尾 真希
設   立:2018年
主 な 事 業:各種雑貨、革製品の製造及び販売業務
      家具、アパレル製品及びペット用品の販売
      SDGsの導入サポート及びコンサルティング業務

ビジネスを通してバングラデシュでの女性の貧困を解決する「FrankPR」

外務省のジャパンSDGsアワードや環境省のグッドライフアワードを受賞し、ニューズウィーク日本版SDGsアワードのパートナー企業にもノミネートされたFrankPR。数々の著名なアワードの受賞から大きな企業かと考えてしまいますが、現在2人で運営されている会社です。
どのような事業をどんな思いで運営されてきたのか、代表取締役の松尾さんと、取締役副社長の菊池さんにお話をお伺いしました。

写真奥が松尾さん、手前が菊池さん

わずか2名の企業ながらSDGs関連の著名なアワードを複数受賞

――御社はどのような事業を展開されているのでしょうか?

松尾さん:現在はバングラデシュで革製品を製造し、ECサイトや百貨店などでの販売を主力事業としています。バングラデシュでの製造は現地の工場に委託していますが、当社のラインは、ほぼ現地の女性従業員で占められており、事業を通じて貧困女性の救済を大きな柱にしています。

菊池さん:こうした実績が認められて、メディアに取り上げていただくことが多くなり、2021年に第9回「環境省グッドライフアワード」環境と福祉賞を、そして2023年には第6回「外務省ジャパンSDGsアワード」外務大臣賞を受賞いたしました。さらに、2024年3月には第1回「ニューズウィーク日本版SDGsアワード」のパートナー企業としてノミネートされました。このようなアワードを名だたる企業様に混じって受賞できたことは、大変光栄なことであり感謝しています。

室内にディスプレイされている「ラファエロ」ブランドの製品

児童労働やストリートチルドレンを生み出す女性の貧困

――製造拠点をバングラデシュにされたのはなぜですか?

菊池さん:バングラデシュでは革製品の製造が盛んです。国民の85%以上がイスラム教徒であるため、1年に一度ラマダン(1年のうち約1か月、日の出から日没までの間、断食を行うイスラム教の行事)があります。ラマダン中の日中は食事ができないため、この行事が終わった後のお祝いは盛大で、大量の牛肉が食されます。そのときに出る牛皮を使って革製品を作るのです。

伝統的な儀式から出でくるいわゆる廃棄物である牛皮をアップサイクルしていることに共感するところがあり、バングラデシュに視察にいきました。

松尾さん:私は以前ハワイ大学に留学し都市計画を学んでいたのですが、そこで仲良くなった友だちにバングラデシュの人たちがいました。彼女たちはとても優秀でしたが、卒業後も祖国に帰りたくないと必死でした。

それがなぜなのか、当時はわかりませんでしたが、バングラデシュに視察に行ったときに、貧困が蔓延していて、生活が本当に大変だということが身に染みてわかりました。

バングラデシュに行く度に孤児院でボランティアもしました。なぜこの子どもたちはストリートチルドレンになってしまうのか、児童労働をさせられてしまうのか。

ラファエロが支援しているバングラデシュの子どもたち(画像:FrankPR)

何度も行っているうちに、通りに女性の姿があまり見えないことに気づきました。バングラデシュでは女性がむやみに外に出ることは良くないという宗教的な教えや慣習があり、女性が外で働くことがまだまだ一般的ではありません。

女性が外で働けないから、貧しい家庭の子どもたちは家計を助けるために、物乞いや児童労働をせざるを得ない。さらに、こうした家庭ではDV被害が深刻であることもあり、女性の貧困がさまざまな問題の原因になっていることがわかってきました。

その経験がもとになり、自分たちのためだけにお金を稼ぐのではなくて、バングラデシュの女性の貧困を少しでも減らす事業ができる会社を作りたいと、生産拠点をバングラデシュに置くことに決めました。

ほぼ女性だけの製造ラインをバングラデシュで実現

――女性の雇用に前向きな工場は見つかりましたか?

松尾さん:革製品をつくる工場を一軒一軒訪ねて、女性を雇用していただけるところを探しましたが、スタートアップで実績もない企業が女性雇用の話をしたところで説得力もなく、どこも門前払いでした。

菊池さん:販売実績を作らないと交渉のテーブルについてもらえないため、実績づくりに動きました。ブライドルレザーという元々イギリス王室の馬具などに使われている素材をバングラデシュに持ち込み、3カラーの財布を数多く生産し、アマゾンに出店しました。

当社にとって、かなり大きなチャレンジでしたが、アマゾンプライムデー1日で、財布1アイテムで3,000個近くを販売し、全体で4,000個に迫る売上をあげることができました。

松尾さん:この実績を現地で伝えると、そんなに販売力があるならと話を聞いてくださる工場も出てきました。女性の貧困を解決するビジネスモデルを作っていきたいので、当社の商品は女性を中心とした製造ラインにして欲しいという要求が通るようになりました。

現在取引している工場は、女性の雇用に理解を示していただいて、当社の製造ラインはほぼ女性になっています。

ただ、ラインを管理するマネジメントのスキルは簡単には身につかないので、その部分は経験のある男性が行っています。しかし、女性のラインができてから数年が経過しているので、近い将来、100%女性だけの製造ラインが実現するかもしれません。

今では、工場全体でも女性の雇用が進み、従業員の約6割まで増えています。

菊池さん:ラファエロのバッグや財布には、スフマートという奥行きのある美しいグラデーションを表現する絵画の技法を応用した染色を施していますが、革製品で再現するには高度な技術を身につけた職人でないと難しい技です。

言い換えれば、スフマートの技術を身につけた女性職人たちは、長期にわたり継続的な雇用が見込まれるほか、仮に離職したとしても自立して生活していける技術であるともいえます。

そうしたことも視野に入れて「スフマート」を商標登録し、バングラデシュに暮らす女性のエンパワメントのためにも、さらに認知度をあげていきたいと考えています。

松尾さん:前回、バングラデシュに行った時、従業員のなかで、子どもを学校に通わせられるようになっただけでなく、三種の神器ではないですが、冷蔵庫、洗濯機、携帯電話が持てるようになったといううれしい報告もありました。

この状況が現在だけでなく、今後も続いていくように、さまざまな工夫を凝らしながら、継続的な雇用と拡大をすすめていきたいですし、ビジネスで誰かをサポートできることは、とても幸せなことだと思っています。

シングルマザーや貧困女性が働くFrankPRのブランド「ラファエロ」の製造現場(画像:FrankPR)

エシカル消費に関心のない人々がターゲット

――どのようなユーザーをターゲットにされているのですか?

松尾さん:革製品のブランドであるラファエロを発売しはじめたころから、エシカル系のブランドはありましたが、いわゆる意識の高いユーザーに販売していくことは考えていませんでした。

貧困問題の解決が先にきてしまうと、関心を持つ人が限られてしまいます。それよりは、サステナブルな活動に関心を持たない方々に、商品としてかっこいい、いい感じだと気に入っていただくことが入口であるべきだと考えています。

その上で、バングラデシュの事情を伝え、アップサイクルされた素材を使用していることや、購入していただくことでバングラデシュでの女性の貧困の解決につながることがわかると、こうした社会課題に関心を持っていただくきっかけになるのではないかと考えています。

アワード受賞後、法人からの問合せが増加

――こうした活動が認められて数々のアワードを受賞されているわけですが、どのような反響がありましたか?

松尾さん:アワードを受賞してからは、個人ユーザーの方だけでなく、法人様からの発注や問い合わせが増えてきました。企業のノベルティやお客様へのプレゼント用にお使いいただいています。

菊池さん:廃棄される牛皮をアップサイクルした革を使用しているとお伝えすると、サステナブル調達にもつながるためにご依頼をいただいていることも多いようです。

第三者認証機関のデカボスコアでの調査結果によると当社のレザーは通常の革製品用の牛革に比べて20%しかCO2を排出していないことがわかりました。

サステナブル調達だけでなく脱炭素にもつながる脱炭素レザーであるため、企業ロゴやブランドロゴなどの刻印が入れられるサービスもはじめました。

松尾さん:2024年3月には、第1回「ニューズウィーク日本版SDGsアワード」にて当社がパートナー企業としてノミネートされ、東京で開催された表彰式に出席してきました。

第1回「ニューズウィーク日本版SDGsアワード」表彰式会場にて(画像:FrankPR)

菊池さん:外務省のジャパンSDGsアワードと環境省グッドライフアワードをあわせて受賞した企業は2024年3月時点では当社だけです。さらに今回海外メディアからも評価していただいたことは、企業規模に関係なく、サステナブルな活動は推進できることを認めていただいたと感じています。

第9回「環境省グッドライフアワード」環境と福祉賞 授賞式(画像:FrankPR)

第6回「外務省ジャパンSDGsアワード」外務大臣賞 授賞式(画像:FrankPR)

社会課題解決の思いと事業の接点を見出すのがSDGs導入のカギ

――SDGsにどのように取り組んでいいかわからない企業や団体は、どこから始めていけばいいでしょうか?

松尾さん:SDGsは17のゴールが設定されているように、社会課題はさまざまです。そのなかで、解決したい課題、もしくは解決すべき課題を洗い出し、自社の事業との接点を探して課題を設定するのが望ましいと考えています。

SDGsは資本力のある大企業が取り組むことだと考えておられる企業様もあるようですが、決してそんなことはないと思います。逆に小さな企業だからこそ、SDGsを事業に取り込み、発信力をアップさせるチャンスでもあります。

だからこそ、SDGsの導入にあたっては、経営陣の方が腹落ちするまで、議論していただくことが最初の一歩だと思います。

菊池さん:「知恵と工夫」も大切だと思います。当社のように小さな企業は資本力もないし、かけられる労力も限られています。しかし、考え方を変えてみると、小さいからできないではなく、小さくてもできることがあるはずです。ないものを求めるよりも、いまの事業を知恵と工夫でいかに社会課題解決につなげていくかという視点を持つことも有効だと考えています。

企業のSDGs導入をサポートするサービスの拡充

――今後の展望を教えてください。

松尾さん:これからも現在の主力事業を通じて社会課題の解決をすすめていきますが、一方で、当社でできることは限られています。サステナブルな社会の実現を目指すという視点から見れば、これから取り組もうとされている企業様をサポートして増やしていくことも重要です。先ほどの話ではないですが、SDGsについて何から始めていいかわからないと二の足を踏む企業の方が、中小企業には特に多いとお聞きします。

当社では、ゼロから立ち上げきてきた経験と実績による知見をもとに、こうした企業様のSDGsの導入から運営までを伴走させていただいています。この事業にも一層注力し、SDGsに取り組む企業様を増やし、共にサステナブルな社会づくりに貢献できるように進めていきたいと考えています。

<取材を終えて>

取材のなかで松尾さんは、私たちはたまたま日本に生まれてきた幸運を忘れることなく、世界で困っている人に手をさしのべていきたいというお話をされていました。

その思いをたった2人の企業でありながら事業を通じてバングラデシュで実現されていることに、社会が驚きをもって見ていて、規模の大小にかかわらず社会課題解決に貢献できるロールモデルとして、数々のアワードが評価をされているのではないかと思います。

経験に基づいたお話は説得力があるだけでなく、ストーリー性に富んでいるため、とても興味深くお聞きすることができました。貴重なお話をありがとうございました。