SDGs取り組み事例

トレジャーカンパニー vol.29

  丸紅木材株式会社 

会 社 名:丸紅木材株式会社
所 在 地:大阪市中央区
代表取締役:清水 文孝
創   業:昭和23年
主 な 事 業:
木材製品の製造・輸出入・販売、木質建材の輸出入販売
木製玩具ブランド「IKONIH」の製造・企画・販売
木製ノベルティ・OEMの受注、生産

木を想う人を育み、人と木の豊かな共生を目指す丸紅木材

木材を燃やしてしまうのではなく、活用し続けることで炭素の固定化を推進する「カーボンポジティブ」。この考え方のもと、檜の林地残材や端材などを徹底して活用することから誕生したIKONIH(アイコニー)ブランドを展開する丸紅木材。SDGsの広がりとともに注目を集めるIKONIHやこれまでの歩みについて、営業部部長の山口にさんにお話をお伺いしました。

試行錯誤の末に完成した中国産ポプラLVLが主力商品に

――御社はどのような事業を展開されているのでしょうか?

山口さん:当社は1948年に創業しましたが、1954年の設立を契機に、南洋材原木の輸入販売を開始しました。主に家具業界向けの芯材としてジョンコン材を輸入し、九州の家具の産地、福岡県大川市などでお取り引きいただき、経営基盤を作っていったと聞いています。

取材にご協力いただいた営業部 部長の山口さん

2000年代になると、バブル景気後の落ち込みもあり、最も木材を使用する住宅の着工数が減少し、同時に南洋材を乱伐することに対して自然保護の機運も高まってきました。東南アジアの国々も少しずつ豊かになってきていて、自国の木材資源を切り売りする時代ではなくなり、市場としては勢いがなくなっていきました。

中国で継続的に植樹されている早生樹のポプラ

経営的にも厳しさを増していくなかで、現在の社長の清水が注目したのが、中国で防護林として大量に植えられていたポプラです。早生樹として知られており、植樹してから8年で伐採時期を迎えます。中国は国策としてポプラの植林を進めているので、継続的に生産できます。ただ、育つのが早い代わりに、曲がりやすかったり、個体差があったりと品質にばらつきがあり、日本で使えるレベルの商品にすることが難しい状況でした。

しかし、日本の商品レベルにまで品質をアップすることができれば商機はあると考えて、中国の工場を訪れました。試行錯誤を重ねる中、生産ラインの変更や新しい機材の導入などを工場にリクエストし、日本の市場でも受け入れられるレベルの商品を生産することができるようになりました。

皮をむき、さらにかつらむきにて単板にして乾燥させます。

単板を重ねて圧着し、LVL(平行合板)として商品化されます。

現在では、ポプラLVL(平行合板)が当社の看板商品となり、大手ハウスメーカーでは壁や天井パネルなどに使用される桟木に、大手建材メーカーなどではドアなどの建具用芯材として採用していただいています。

ポプラLVLは、間柱や建具用芯材として幅広く利用されています。

――外材のポプラLVLが主力商品となるなかで、国産材に目を向けられたきかっけは何だったのでしょうか?

山口さん:社長の知り合いで熊本在住の方から檜の産地の写真がメールで送られてきたのがきっかけです。木材として商品にならないけれど、太く立派な丸太が山に捨てられたりバイオマス燃料の木質チップにされたりしている状況があり、メール本文には「もったいない」と書かれていました。実際に檜の産地に足を運んでみると、すごい急斜面に木が生えているんです。そのため根元部分は曲がっていて商品にならないしトラックの積載効率も悪いので、そのまま山に放置されていました。

根元の部分や先の枝の部分など、木材として商品にならない部分を切り落として山に放置しているものを林地残材といいますが、これらを商品として流通できれば、「もったいない」を減らせるのではないか。私どもには当時から「社会にとって正しいことを商売にしたい」という考えがありまして、であるならば林地残材の活用をビジネスとして取り組んでみようと始めたのが「IKONIH(アイコニー)」の始まりです。

IKONIH(アイコニー)のロゴ。反対から読むとヒノキになります。

アイコニーは、ブランドとして商品展開していますが、同時に檜を商品にして使い切るプロジェクト活動でもあります。

アイコニーで使う木材の中心は林地残材を含む未利用材です。
その木材で先ずは家具を作ります。その際に端材として出たものを使って次はおもちゃを作ります。更にそこで出る端材を今度は企業様などにお使いいただく小さなノベルティや雑貨向けに使います。

ちなみに丸太から製材するときに出るおがくずも無駄にせず、独自の製法で精油を抽出して香り商品に活用しています。油を搾り取ったカスも畜舎でお使いいただくなどして、一本の檜を無駄なく使い切ることがアイコニーのプロジェクト活動です。

このプロジェクトで得た収益の一部は、再植林用の苗木購入や森林環境保護団体へ寄付をしています。山から得たものを山に還元するという仕組みづくりもアイコニーのテーマの一つです。

木を健全なサイクルで育て、伐採し、使い切る「カーボンポジティブ」を提唱

――日本の森林の現状について教えてください。

山口さん:脱炭素社会の実現に向けてカーボンニュートラルを推進するということが世界的に求められていることは、SDGsの普及とともに知ることが増えてきたと思います。

木は、CO2を吸収して酸素を出して、残った炭素で幹を作っていきます。木は炭素の塊ですが、これを燃やすと酸素と結合してCO2になります。木はもともと成長するときにCO2を吸収しているので、燃やしてもそれが空気中に戻るだけだから、木はカーボンニュートラルなものだと言われています。

当社はそこからもう一歩踏み込んで「カーボンポジティブ」という考え方を提唱しています。木は燃やすとCO2に戻ってしまいますが、燃やさずに商品として使えば、長期間炭素を固定できます。

固定するだけなら、木を切らずにそのままにしておけばいいのではという疑問が出てきますが、木はある時期を境にCO2の吸収量が減少していきます。ですから育ち盛りの木をすくすくと育てるためにも、伐採時期を迎える樹齢50〜60年の木は切るのが良いとされています。これは山の健康を保つためにもよくて、人工林などの山は自然にまかせるよりも人の手が加わることで持続可能になっていきます。

しかし、日本では、林業従事者の数が減ってきていて、1990年に10万人だったところが、2010年に5.1万人、2020年には4.4万人まで減少しています。国土の約67%が森林と言われる日本にあって、山に携わる人が減ってきていることで、里山が荒れてきていることが、近年の自然災害の要因のひとつになっているとも言われています。

手入れされた山は貯水池のように水をたっぷりと蓄えてくれます。しかし、荒れた山は蓄える力が衰えて、水をどんどん流してしまいます。麓では河川の氾濫や洪水が起こりやすくなりますし、土砂崩れや地滑りも起きやすくなります。土砂崩れが起きる際に、山に放置された林地残材が一緒に流され、二次災害を引き起こす要因にもなっています。

山を健全に保つためにも、もっと木や山のことに関心をもってほしい。そんな思いもあり、アイコニーのおもちゃでは、「木育(もくいく)」をテーマのひとつにしています。

親子が檜のおもちゃで遊ぶことでコミュニケーションをとりながら、木の良さにふれ、日本の木の文化に関心をもち、木が育つ森のことにも目を向けてもらえることができれば、アイコニーのプロジェクト活動にもリンクしてくると思います。

ワンランク上のクオリティを生み出す日本とベトナムのスタッフの密な連携

――アイコニーの商品はどこで作られていますか?

山口さん:素材となる檜は日本の山から切り出して当社のベトナム工場におくります。家具やおもちゃ、ノベルティの企画やデザインは、日本のスタッフが中心となって行なっています。デザイン画を描くところまで日本で行い、図面起こしから加工・仕上げまでの工程は、すべてベトナムの工場になります。日本の社員が指導にあたっていますが、デザインの意図を丁寧に伝え、現地の職人さんたちが手作業で最後の仕上げまでを担当しています。

ひとつひとつ細部まで丁寧に作られた家具

ネジきりまで施された木のボルト

日本は世界唯一の檜生産国

――檜の特徴を教えてください。

山口さん:日本の建築を眺めてみると、檜風呂や柱に代表されるように、檜の独特の芳香が昔から愛されてきました。高級な寿司店にいくと、カウンターに檜が採用されていたり、厨房のまな板にも使われていたりしますが、これは檜の抗菌消臭効果を利用したものです。

寺社仏閣に使われることも多いですが、それは耐久性にすぐれているからです。1,000年たっても強度がほとんど変わらないことが研究結果からもわかっています。

さらに、檜が生い茂るのは、世界的にみて日本と台湾だけです、台湾は1991年に国の政策により伐採が禁止されました。つまり、檜を育て、伐採できるのは日本だけであり、これは大きなアドバンテージです。

檜は世界的に見るとアジアで好まれることが多く、台湾、韓国で人気がありますが、特に韓国では数年前から檜がブームになっています。

檜の香りに癒し効果があったり、体にやさしいという話しが広まり、子ども部屋や寝室などの家具や内装材に使われたりしています。

ヨーロッパには親日の国や日本文化に関心の高い人もいますので、フランスの展示会に出展したときもかなり好評でした。

檜の良さを世界の人に知っていただければ、需要がさらに高まる可能性はありますし、そうすれば日本の山林も活性化するのではないか考えています。

檜の特徴を活かして、さまざまな業界との連携が増加

――アイコニーの販売はどのようにされているのですか?

山口さん:木や山について志を同じにする全国9つの材木店と代理店契約を結んでアイコニーを販売しています。

特にここ数年はふるさと納税の返礼品として家具やおもちゃをお使いいただくことが増えています。地域産材を使うために、岡山や和歌山、熊本など、それぞれの地域の檜を切り出して、ベトナムの工場に送ります。すべて森林組合から証明書が発行されていますので、トレーサビリティが効くようになっていて、QRコードで管理し、地域からのオーダーに応じて製作できるようになっています。

――他業種とのコラボレーションはあるのでしょうか?

山口さん:SDGsや脱炭素など、環境意識の高まりを受けて、お問い合わせいただくことが増えてきました。

檜を空間全体でお使いいただいている例としては、保育園の椅子や机、棚、床などを木質化されているところがあります。おもちゃもアイコニーを使っていただき、遊ぶだけでなく、汚れたところは先生たちと一緒にお手入れをしてきれいにするところまでを学んでいただいています。

新幹線のグリーン車に乗ると、おしぼりがでてきます。このおしぼりは大手の紡績メーカー様が納入されていますが、そのおしぼりの成分のなかに、檜の精油が採用され、袋を開けた時に広がる檜の香りをお楽しみいただいています。

ノベルティに関しましても、多くの企業様からお声がけいただきまして、飛行機のオブジェとして航空会社の機内販売にお使いいただいたり、上質のカトラリー、名札、キーホルダーなど、さまざまな商品を納入させていただいております。

檜で作られた飛行機のオブジェ

自社で考え制作する環境バイブル

――社内的な取り組みとして、SDGsやサステナビリティに関連する取り組みについて教えてください。

山口さん:SDGsという言葉自体は、ずいぶん普及してきましたが、SDGsが国連で採択された背景やなぜ今脱炭素に向けて行動しないといけないのか、そのことをよくわからないまま、言葉を使っていることが少なくないのではないかと思います。

今地球で何が起きていて、そのために世界がどのような流れになっていて、私たちはどのように行動すべきなのか。

それを、自分たちで調べ、体系的に理解をするために、現在社内で環境バイブルを作成しているところです。

流れてくる情報を鵜呑みにするのではなく、自分たちで腹落ちさせる作業をして、活動につなげていくのは、当社の特徴のひとつでもあるかもしれません。

今後、木材業界は日本で中心の産業の一つに

――最後にこれから取り組んでいきたい事業や活動について教えてください。

山口さん:子どもたちや大人の方にも、木や山林に関心を持っていただける木育の活動を進めていきたいと思っています。

最近では環境に関する出前授業を学校や施設のイベントなどでさせていただいていますが、こうした活動をパッケージ化して、我々だけでなくて、他の方にも実施していただけるような仕組みづくりを進めています。

木材産地と連携をとって、林業の現場で実際に体験していただける機会なども増やしていきたいと思っています。

林業や木材業界は、まだまだ厳しい状況にありますが、環境への配慮ということを考えたときに、今後は日本でも中心産業の一つになっていくのではないかと考えています。

業界内の活性化や連携はもちろん必要ですが、SDGsやサステナビリティがキーワードになって、異業種の方々と
パートナーシップを組んで、お互いの強みを活かしながら日本の山林を持続可能な形に変えていきたいと考えています。

<取材を終えて>

「社会にとって正しいことを商売にしたい」という志を持ち、これまで事業を継続されてきた丸紅木材様。その取り組みはSDGsの精神そのものであるように感じます。

こうした考え方は、檜のブランド「アイコニー」にも反映されています。「アイコニー」は見る人の心を優しくさせる檜のおもちゃやノベルティのブランドであり、同時に、事業として檜を使い切るプロジェクトでもあり、山林を育てるところにまで寄与するという、事業を通じて社会課題解決を行うことを実践されています。

木材業界は、地球環境への関心の高まりとともに、再び日本の主要産業の一つになっていくと、山口さんには展望を語っていただきました。それは、林業や木材業界が厳しい逆境のなか、自分たちの立ち位置を再構築し、志を持って取り組まれてきた企業だからこそ言えることではないかと思います。

市場の動向を注視しながら、独創性を大切にし、ひとつひとつ自分たちで考えて取り組まれている真摯な姿勢に魅力を感じるとともに、木材業界の明るい兆しと情熱を感じた取材でした。