今回のSDGsトレージャーカンパニーは、ニオイについて独自の視点で長年取り組む三友株式会社。ニオイのスペシャリストである常務取締役の大崎さんに、その取り組みやSDGsとの関連について、お伺いしました。
――御社はどのような事業を展開されているのでしょうか?
大崎さん:当社は、「産業資材」、「環境資材」、「日用品」、「セールスプロモーション」という4つの事業で活動しています。特徴として、研究所を所有しており、関連会社に工場もあるため、メーカーのものづくりの視点を持ちながら、国内外で多角的な事業展開を行っている商社的機能を持つ企業です。
ニオイ物質の除去でなく、「嫌なニオイを感じにくくする」ことがコンセプト
――多角的に事業展開されている中で、特にSDGsに貢献する製品にはどういったものがありますか?
大崎さん:当社の中で、SDGsに貢献する製品として特に力を入れているのが環境資材のなかの「消臭剤」です。工場から一般家庭用まで、幅広く製造販売していますが、特徴的なのは「嫌なニオイを感じにくくする」ことをコンセプトにしている点です。
ニオイに感覚レベルがあるとして、最大が10とした時、これを0にするのが理想です。しかし、例えば3まで下げることで、不快だと感じる人がいなくなれば、0にする必要はなく、3まで下げることを目指せばいい。そのかわり設備も最小限にして、コストも環境負荷もミニマムにするというのが当社の考え方であり、それはSDGsにも通じるところがあります。
――数十年前は、今以上に悪臭を感じることが多かったように思いますが、いかがでしょうか。
大崎さん:そう感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、近年は生活環境が向上し、環境・健康意識の高まりを受けて、ニオイに関するトラブルは増えています。令和2年度、全国の自治体に寄せられた悪臭苦情件数は15,438件。ニオイの発生場所はさまざまで、各種工場やサービス産業、個人住宅など多岐にわたります。
悪臭対策として、芳香剤を使えばと考えがちですが、複数の人が集まる職場やパブリックスペースの場合、香りを拡散することで解決できるかといえば、必ずしもそうではありません。
ニオイは、育ってきた環境や固定観念など、さまざまな要因が作用するため、ある人が心地よいニオイだと感じても、他の人には不快だったりします。その空間にいる誰もが、長時間にわたり快適なのは、ニオイを意識しないこと、つまり無臭の状態です。
ニオイの観点からは、無臭の環境を作ることが、誰にとっても快適な環境と言えます。しかし、空間を完全に無臭にすることは、非常に難しいことです。
と言いますのも、ニオイ物質は約40万種類あると言われており、それらすべてに対応し消し去ることは非常に難しいからです。
最小の設備で、環境負荷とコストのミニマム化を実現
――では、どのようにして、無臭の状態を作られるのですか?
大崎さん:最初に申し上げていた通り、当社の場合、完全消臭を追求するのではなく、嫌なニオイを感じにくくする「感覚的無臭化」が重要だと考えています。
仕組みとしては、天然植物精油を主成分とした消臭剤「デオフレ」を噴霧し、消したいニオイと打ち消し合うように働きかけます。
料理に例えると、焼き魚にレモンをかけて魚の臭みを弱めたり、肉にハーブやスパイスをかけて臭みを消すのは、化学反応でニオイの成分が消えているというよりも、お互いのニオイを打ち消しあって、感じにくくしているわけです。
――どのような設備を導入する必要があるのでしょうか。
大崎さん:工場などで採用される消臭技術として、燃焼法、活性炭などの吸着法、化学薬品などを使ったスクラバー法など、さまざまな方法がありますが、いずれもそれなりの設備が必要になります。初期投資が増大し、ランニングコストもかかります。
さらには、設備を稼働させるために多くのエネルギーを必要とし、CO2の発生、消臭処理後の廃棄物の発生など、稼働の際にも環境負荷がかかることが考えられます。
当社の場合は、天然由来の原料を用いた消臭剤「デオフレ」を既設の排気ダクトや空調ラインに噴霧するだけなので、設備も小型で導入工事も簡単スピーディです。事業所や工場の外に出るニオイも、内部の作業環境のニオイも、いずれにもスムーズに対応できます。
しかも、コストもエネルギーの使用もミニマムにすることによって、環境負荷を減らし、持続的に快適な環境を保ち続けることが可能です。これは、お客様にとっても未来にとってもいいことだと考えています。
――消臭剤は、工場全体に満遍なく噴霧し続ける必要があるのでしょうか?
大崎さん:多くのお客様からも同じような質問を頂きますが、そんなことはありません。当社には20数年にわたって蓄積してきた知識やノウハウがあります。消臭剤を噴霧するのにも、効果的なポイントがいくつもありますし、一日中稼働させる必要がないケースも数多くあります。
消したい臭いに合わせて消臭剤を調合し、どこで、どの時間帯にどのように使えば効果的か、省エネの観点からも最適なご提案をさせていただけるのは、当社ならではの特長といえます。
――天然由来の原料を使用されているのはなぜですか?
大崎さん:当社の消臭剤は、開発当初からほぼ天然由来のものだけを使ってきました。天然植物精油は、合成香料などに比べてコストが高くなります。
しかし、悪臭と打ち消しあうことで、そのニオイを感じにくくする「感覚的無臭化」を実現するためには、天然由来のものを使う必要があります。しかも、環境にもやさしいということで、天然由来の原料にこだわってきました。
SDGsの認識が広がってきたこともあって、天然由来の原料を使用していることを評価していただけることも増えてきました。お話をしていると面白いと笑顔になられる方も多く、こだわり続けてよかったと思っています。
従業員の定着率アップに向けてのニオイ対策
――企業のお客様からは、ニオイについてどのような相談が多いでしょうか?
大崎さん:以前は、周辺住民からの苦情への対応が多かったのですが、近年はそれだけでなく、作業環境の改善のために、導入されるお客様も増えてきています。
従来は、従業員の立場が弱く、作業環境に対する改善の声を上げづらいこともありました。しかし、今では、労働者の働き方にも注目が集まるため、作業環境を改善し、満足度を高めることにも配慮が必要です。それが、従業員の定着率アップにもつながるとして、導入されるところが増えています。
また、コロナ禍以前は、積極的に工場見学や会社見学を行う企業も増えていました。きれいに清掃してお迎えしても、内部に入った時に嫌なニオイがすると、その記憶が残ってしまい、企業イメージに悪い印象を与えかねません。地域の評判や人材採用にも影響することがあるため、屋内環境をクリーンに保つ一環としてニオイ対策をされるお客様も増えてきています。
SDGsの考え方を随所に取り入れた家庭向け除菌消臭剤「マリモ・ボール」
――家庭用の商品もラインナップされていますね。
大崎さん:家庭向けの商品もいくつか販売をしていますが、特にご好評をいただいているのが、除菌消臭剤をご家庭でおつくりいただける「マリモ・ボール」という商品です。
300ccのボトルに天然由来の除菌・消臭エキスをたっぷり含んだマリモ・ボールを入れて、水道水を注げば完成です。マリモ・ボールは3回分入っていますので、900cc分の除菌消臭スプレーとしてお使いいただけます。
この仕様にすると、たっぷりお使いいただけるのに、運送にかかるエネルギーは少なくてすみ、CO2の削減につながります。しかも、ボトルを繰り返しお使いいただけるため、プラスチックごみの削減にも貢献できます。消臭成分は植物由来のため、環境にもやさしいなど、随所にSDGsの考え方を取り入れて開発したことで、各方面から注目していただいています。
将来的には、商品のライフサイクル全体でSDGsに貢献できるものづくりを
――今後の抱負をお聞かせください。
大崎さん:製品づくりに関わるすべての面で人や環境に配慮したものづくりができればそれにこしたことはありません。しかし、コストや様々な要素を考慮すると、100%達成することは難しく、現状では50%以上SDGsに貢献できているものづくりを目指すようにしています。
その上で、将来的には、原料調達から加工、輸送、消費、廃棄という商品のライフサイクルの全ての段階に、かかわっていきたいと考えています。
消臭剤に関して、天然由来のものを使っていますが、原料となる木々や植物の育成・収穫などについての情報は、把握しきれていません。SDGsゴール12「つくる責任、つかう責任」にあるように、つくる以上は、収穫された森や自然が正しく管理されている場所なのかどうか、働く人々の人権は守られているのかどうかなどを把握し、適切な所から仕入れることも検討していきたいです。
廃棄にしても、例えばボトルが廃棄処分される際に、適切にリサイクルできる素材かどうか、分別しやすい構成になっているかどうかなど、検討していくことも必要になってきます。
そして、製品のライフサイクルの全ての段階において、SDGsの貢献度を上げ100%に近づけるように活動を推進し、ビジネスの拡大とSDGsへの貢献を両立していきたいと考えています。
<取材を終えて>
ニオイのスペシャリストとして長年活動を続けてこられた大崎さんの話の中で特に印象的だったのは、悪臭に対する独自のアプローチです。
悪臭対策をする場合、それが無害なものであれば、誰もが不快を感じない感覚的無臭化が実現できれば、元を絶つ必要はない。それよりも、効果を得ながらコストもエネルギーも廃棄物もミニマムにできれば、クライアントにとっても、従業員や地域住民、環境などステークホルダーにとってもいいことです。
私たちは問題解決を考えるときに、どうしても100か0かで考えがちです。ただ、その問題が感覚的なものである場合、ゼロでなくても、快適であればいい。それによって、周囲や環境への負荷が軽減されるのであれば、それがベターであるという考え方と実践は、サステナブルな社会を実現する上で効果的なアプローチになるのではないかと教えていただきました。
ぜひ、お越しください。