SDGs取り組み事例

トレジャーカンパニー vol.16

  イオン九州株式会社 

会 社 名:イオン九州株式会社
所 在 地:福岡県福岡市博多区
代表取締役社長:柴田 祐司
創  業:1972年
主な事業:衣料品、食料品、住居余暇商品、ホームセンター商品等の小売事業

イオン九州と味の素のパートナーシップから誕生した九州力作野菜・果物

「九州力作野菜・果物」をご存知でしょうか。イオン九州と味の素株式会社(以下、味の素)、農業団体等が中心となり、CO2削減の活動を通して九州の農業を元気にしようと始まったプロジェクト。味の素の工場で排出される廃棄物(副産物)を自然の力でたい肥に変え食物を栽培するこの取り組みがスタートしたのは2012年。それから7年後の2019年には第3回ジャパンSDGsアワード「SDGs推進副本部長(内閣官房長官)賞」を受賞。社会課題の解決に取り組みながら、九州の野菜や果物をさらに美味しくするこの取り組みについて、イオン九州食品コーディネーター部の福山マネージャーにお話をお伺いしました。

味の素工場の廃棄物(副産物)を自然の力でたい肥に。自然にやさしく、美味しさもアップ。

――九州力作野菜・果物とは、どのようなプロジェクトなのでしょうか?

福山さん:このプロジェクトの発端は、佐賀県にあります味の素さまの工場からの相談でした。その工場では発酵法という方法でアミノ酸を製造しています。植物からできる糖蜜を菌に食べさせるとアミノ酸を作り出しますが、それを抽出し精製して製品が出来上がります。
このプロジェクトの主人公は、廃棄される菌の死骸です。私どもでは副産物と呼んでいますが、栄養価が高く、野菜や果物を栽培する土づくりに活用することで、収穫物の糖度が上がるなどの効用があることが、実験などからわかるようになりました。そこで、副産物をまいた土で野菜・果物をつくり、お客様により美味しいものをお届けしつつ、環境にも配慮し九州の農業を元気にするバリューチェーンを作るプロジェクトとして活動しています。

素材提供:イオン九州

副産物の乾燥に家畜の糞の発酵熱を利用

――このプロジェクトが始まるまで、副産物はどのように扱われていたのでしょうか?

福山さん:この副産物は、水分含有量が50%ほどあり、濡れた粘土のような状態です。たい肥としての効用はわかっていましたが、粘土質のため、そのままでは畑にまくことができず、味の素さまの工場で、燃料を燃やして乾燥させて、チップにしてからアミノ酸系肥料として、肥料メーカーに販売されていました。しかし、この工程では燃料代がかさみ、年間600キロリットルの重油を使用するため、乾燥させずに農業に利用できないかと当社にご相談いただきました。

副産物の粘土質の菌体(画像提供:味の素株式会社 九州事業所)

この課題に対して協力農家さんに検討していただいているなかで、副産物を牛や豚のたい肥と混ぜて自然乾燥させることで、畑にまくことが可能になったとの報告を受けました。

ご存知のとおり、牛のふんは、約2~3か月かけて発酵し、たい肥(土)になります、発酵する時の温度は、約80度ぐらいになり、自然に水分を飛ばしてしまいます。その中に副産物を混ぜることで、乾燥させます。

アミノ酸発酵菌体を加えた堆肥(画像提供:味の素株式会社 九州事業所)

発酵による発熱で自然乾燥させてしまうため、燃料代はもちろんCO2の排出もなく、しかも美味しい野菜や果物ができます。地球にやさしく、美味しさにこだわったブランドができると確信してプロジェクトをスタートしました。

農家を守ることも社会課題解決のひとつ

――このプロジェクトにはどれくらいの企業や団体が関わっているのでしょうか?

福山さん:現在は、およそ60社、生産者数は約200名となりました。品種は約30種、約90アイテム以上あります。栽培面積は開始から5倍以上に拡大しています。

農業は、自然の影響を直接受けてしまいます。気温や雨量、日照時間、自然災害など、いろんなことに影響されます。しかし、市場の需要と供給を考えると、不作であっても、豊作でありすぎてもよくないのです。そのため、価格が安定せず、後継者も育ちにくいという実情があるなかで、農家さんを守ることも、大きな社会課題の一つです。

九州力作野菜・果物プロジェクトがブランド化され、支持してくださるファンが増えていけば、農家さんの経営を安定させ、九州の農業を元気にすることにも繋がります。企業や農家さんなど関わる人みんなが、メリットを得られることで九州を元気にすることができればと活動を広げています。

生鮮商品売り場の九州力作野菜コーナー(写真提供:イオン九州)

現在、九州力作野菜の品種は約30種、約90アイテム以上に(写真提供:イオン九州)

――順調に進んできているように見えますが、初めての試みでもあるため、いろいろと苦労も多かったのではないでしょうか。

福山さん:一番大変だったのは、農家さんに副産物をたい肥として使用していただくことでした。まずは農家さんに納得してもらうことが必要です。一年目は、副産物を使用した畑とそうでない畑に分けて、収穫した農産物を分析し、うまみ成分であるアミノ酸含有率を調べる実験を行いました。アミノ酸が多ければおいしいということになります。この結果を農家さんに見ていただき判断をお願いしました。2年目は結果がよかったため、農家さんは納得して全ての畑に副産物をたい肥として使用していただけました。

結果として、九州力作野菜・果物のブランドとして出荷できるまでに、2年以上かかりました。自然を相手にするため時間がかかります。

関係各社がWin-Winになる持続可能な取り組みが受賞のポイント

――2019年に、第3回ジャパンSDGsアワード「SDGs推進本部長賞」を受賞されましたが、九州力作野菜・果物のどのような点が評価されたのでしょうか。

福山さん:SDGsに取り組むうえで、環境や社会課題の解決とビジネスを両立させることはとても重要です。いくら環境や社会に良い取り組みを行っていても、それがビジネスとしてメリットがなければ、持続できないからです。

第3回ジャパンSDGsアワード授賞式(2019年12月20日受賞時)(写真提供:イオン九州)
左から味の素株式会社前九州支社 白羽弘支社長、
イオン九州株式会社 柴田祐司社長、
同・九州エリア政策G商品貢献担当 福山博久マネージャー(写真提供:イオン九州)

当プロジェクトは、味の素さまの工場のメリットとして、副産物を乾燥させずそのまま出荷できるため、燃料代が不要になり、年間600キロリットルの重油代の削減ができたこと。農家さんにとっては、おいしいブランド野菜・果物が作れること。当社にとっても、差別化した商品を地元のお客様に販売することができます。

さらに売り場では、味の素さまは、商品と九州力作野菜・果物を関連させて販売することで売り上げアップが見込めます。定期発行の情報誌にも、九州力作野菜・果物の記事の横に、味の素さまのクックドゥを使ったレシピを紹介するなど、関係各社がWin-Winになり、環境や社会課題の解決にもつながっています。

――ジャパンSDGsアワードを受賞されたことで、どのような変化がありましたか?

福山さん:ジャパンSDGsアワードに応募したのは、社内やグループ企業のなかで、九州力作野菜・果物の意識をいっそう向上させるために、受賞すれば弾みがつくのではないかと考えたからです。ありがたいことに受賞したことで、メディアへの出演や取材が増えるなど、認知度向上に役立っており、社内の評価も変わってきました。

また、当プロジェクトの取組みを大阪の一部の小学校・中学校で使われている、万博学習読本(※)で取り上げられ、SDGsの研修の中でお使いいただくなど、地域にも貢献できているようでうれしく思っています。
※万博学習読本:発行 公益社団法人 2025年 日本国際万博博覧会協会

商品の背景を伝えることによりファンを獲得

――情報誌「イオンメイト」の2021年3・4月号(Vol.15)では、九州力作野菜・果物のことが特集で詳しく紹介されていますが、お客様の反応はいかがでしたでしょうか。

隔月で発行されるフリーペーパー「イオンメイト」(写真提供:イオン九州)

福山さん:Vol.15では、延べ164件の読者コメントをいただきました。九州力作野菜・果物のコメントとして、いくつかご紹介させていただきます。

・味の素(株)での副産物を加えた堆肥を使った農作物の特集が良かったです。美味しさがアップして工場・農家・販先者・消費者みんながハッピーになる取り組みだと思いました。イオンのことがより好きになりました。(沖縄市・男性)

・SDGsに取り組む関連事業の方々に大きな期待をします。九州の農業を元気にしてもらうとともに九州の人たちが元気をもらって楽しく生きていけます。(由布市・女性)

・「九州力作野菜・果物」特集が、カラフルでデータも分かりやすくて楽しかったです。<中略>単においしいだけではなくて、SDGsにも配慮しているものを買えるのはとてもありがたいことだと思います。(沖縄市・女性)

・九州力作野菜・果物の記事を読んでシンボルマークの意味とかイオン九州と味の素の思いを知り力作シリーズを食べるよう心がけようと思います。環境にやさしくておいしさもUPする生産方法なんてとてもすてきだと思います。農産物の品質はやはり「土」が重要なのだとわかりました。(福岡市中央区 女性)

・(情報誌を)読み始めて1年、野菜や果物が作られている背景を知り食品を見る目がかわってきました。今回はCO2削減を可能にしながら農産物のうまみ成分アップを可能にした力作シリーズのすご技が知れました。(大野城市 女性)

福山さん:まだまだたくさんのコメントをいただいておりますが、商品の背景や生産農家さんの声をお届けすることが、他の商品との差別化をはかり、安心安全でおいしい商品としてお買い求めいただいているようで、うれしいです。商品の購入がSDGsへの貢献にもつながるという環境意識の高いお客様からのコメントもいただいており、私どもの取り組みが少しずつ認知されてきているのではないかと思います。

これからは、九州力作野菜・果物を原料として、6次化商品の開発など進める事で、ブランドの商品ラインナップを広げて、プロジェクトの環を広げていきたいと考えています。

環境に関するその他の主な取り組み

――イオン九州が取り組むその他の環境活動にはどのようなことがありますか?

福山さん:大分県内の「イオン」「マックスバリュ」13店舗では、食品リサイクルループに取り組んでいます。店から出る野菜くずや消費期限切れのパン等をリサイクル業者様で堆肥に加工。イオンアグリ創造の大分臼杵農場で、その堆肥を使用して農産物を栽培・収穫し、イオン九州の店舗で販売する活動です。

この取り組みは、2021年5月に農林水産大臣・環境大臣・経済産業大臣より食品循環資源の再生利用事業計画(食品リサイクルループ)の認定していただきました。

レジ袋は、2009年から食品売場での無料配布を中止しました。2013年には環境負荷の少ないバイオマス素材のレジ袋を販売。2020年4月からは、全ての直営売場でレジ袋の無料配布を中止に。有料レジ袋の販売収益金は、地域の環境保全団体に全額寄付しています。

フードドライブでは、ご家庭で消費されずに残っている未開封の加工食品を店頭にお持ちいただき、フードバンク団体を通して、必要とする福祉団体などに無償でお届けする取り組みです。2019年7月から北九州市の3店舗からはじまりましたが、現在では九州全県で17店舗(2021年9月時点)に規模を拡大し、取り組みを推進しています。

売り場に設置されたフードドライブコーナー(写真提供:イオン九州)

当社は、地域とともに発展を目指す地域産業でもあります。ビジネスにおいて、地域での環境や社会課題の解決をすすめ、お客様に支持していただける企業として、これからも取り組みを進めていきたいと考えています。

<取材を終えて>

「九州力作野菜・果物」の話を聞きながら浮かんできたのは、SDGsの宝箱の取材で5番目に訪れた神奈川県の日本フードエコロジーセンターさんでした。こちらは、食品工場やスーパーの食品廃棄物を買い取り、豚の液体飼料に加工して販売し、ブランド豚を育て、大手百貨店での販売をサポートするというビジネスモデル。用途が家畜飼料か、たい肥の違いがあるものの、どちらも原料が食品廃棄物で、関わる企業や人がメリットを得られてループしていく循環型経済に近づいた形です。

廃棄物に価値を見出すと資源になります。さらに出来上がったものがブランド化されれば付加価値があがり、関わる人みんながハッピーになれる。取材にご協力いただいた福山さんは「われわれが原料としている味の素さまの副産物だけでなく、全国にはその地域によって酒かすなど沢山の食品廃棄物があります。それは、九州力作野菜・果物のような取り組みが別の地域でも展開できる可能性を示唆しているともいえます」とおっしゃっていました。

環境にやさしく、関わる人みんなが喜ぶこうした取り組みが全国に広がれば、農業のあり方も変わっていくのではないかと感じました。