関西でお笑いといえば「よしもと」であり、おそらく全国においても大きく外れないのではないでしょうか。日本を代表するエンターテインメント企業、吉本興業株式会社(以下、吉本興業)が今回のSDGsトレジャー企業。
お笑いの会社がSDGs?と思われるかもしれませんが、2017年第1回ジャパンSDGsアワード特別賞を受賞するなど、国際機関や自治体、企業などとパートナーシップを組んで、SDGsの啓発活動を積極的に推進されています。SDGsに取り組まれるきっかけから、現在の取り組み状況まで、コーポレートコミュニケーション本部の宮本さんにお話をお伺いしました。
(オンライン取材)
きっかけは国連広報センターさんとの出会い
―――吉本興業がSDGsに取り組むきっかけは何だったのですか?
宮本さん:2016年、国連広報センターさんから「SDGs」の啓発に協力して欲しいとお声掛けを頂いた事がきっかけです。当時は、SDGsのことを知る社員もほとんどいませんでしたが、エンターテインメントを提供する企業として、社会的な役割を果たす必要があるのではないか、私たちにしかできないこともあるのではないかと言う事で、会社をあげてSDGsの推進に取り組むことになりました。
まずは、社員や所属の芸人さんのSDGsに対する認知度を高めるため、「SDGsキックオフ講演会」を開催。東京・新宿の「ルミネtheよしもと」で、国連広報センターの根本所長にSDGsについて講演をしていただきました。関西地域の社員には、YouTubeでライブ配信し、約1,000人の社員や芸人さんが参加、ここからSDGs発信の取り組みが始まりました。
―――お笑いを通じて人々に圧倒的な発信力をもつ吉本興業さんが、国際機関の国連とタッグを組むというのは、これこそSDGsのパートナーシップではないかと思いますが、具体的にどのような活動をされているのですか?
宮本さん:最初は、動画を制作してYouTubeや劇場で公演前に流すことから始めました。吉本が取り組みはじめた2017年は、SDGsという言葉すら聞いたことがなかった人も多く、認知促進のために「SDGsについて考え始めた人々」を国連広報センターさんとコラボして制作しました。おなじみの芸人さんがコンビの枠を越えて、レトロな喫茶店でショートコント風にSDGsを語る全27本の動画を劇場などで流しました。
2019年には、南海キャンディーズのしずちゃんが主演の「空飛ぶレジ袋」を制作。レジ袋が海の生態系を脅かしていることを紹介する動画を国連さんと吉本興業のYouTube チャンネルで同時公開し、その年の 「島ぜんぶでおーきな祭 第11回沖縄国際映画祭」の各会場でも上映しました。
その後、国連本部のSNS公式アカウントやイベント、日本全国の吉本興業の劇場やイベントで放映し、SNS公式アカウント等でも配信するなど、国連さんと連携しながらSDGsの啓発に取り組みました。
芸人さんは難しいことをわかりやすく伝えるプロフェッショナル
―――2017年から現在まででSDGsの啓発について、何か変化はありましたか?
宮本さん:活動を始めたときは、自主的なものが多かったですが、次第に各方面から一緒に広めていきませんかとお声がけいただくことが増えてきました。
たとえば、国連WFP協会(WFP:国際連合世界食糧計画)さんからのご依頼で「ゼロハンガーチャレンジ~食品ロス×飢餓ゼロ~」のキャンペーン動画を制作させて頂きました。昨年は「3時のヒロイン」、今年は「和牛」が食品ロスを減らすためのアクションを動画で紹介しています。
また、イオンさんとの協働で、プラスチック製レジ袋の削減と、資源を使い捨てにしないライフスタイルに向けたメッセージを発信する『イオン×よしもと みんなで #マイバッグ キャンペーン 』も行っています。
弊社が得意とするところは、難しいことをわかりやすく伝えることです。芸人さんは、話術を含めたコミュニケーションのプロ中のプロ。関心のない人にどうすれば、振り向いて笑わせるかを常に考え実践しています。社会課題や環境課題など、すこし小難しさを感じてしまうことを、わかりやすく面白く、関心のない方にもお伝えできているのではないかと思います。
そこに魅力を感じて当社にお声がけいただくことも増えているように感じています。
―――SDGsに取り組むことがビジネスにつながっていますか?
宮本さん:弊社のSDGsへの取り組みは、ビジネスにつなげることを目的にスタートさせたわけではありませんので、意欲的に利益を求めてはいません。ただ、SDGsを広める広報活動のその先で、本業のビジネスにもつながってきていることはあります。
吉本には6,000人ほどの芸人さんが所属しています。すべての芸人さんがSDGsに精通しているわけではありませんが、マネジメントの部署とも連携して、SDGsに関心がある芸人さんには、こちらからコンタクトをとって、特技を生かした形で関われるようにしています。
また、芸人さんからも、SDGsをテーマにした企画を提案されることもあり、そういった企画は、主催イベントなどで実現させていくこともあります。そこでの新たなつながりの先に、結果としてビジネスに派生したというほうが多いのではないかと思います。
新たな企業や団体とのパートナーシップが盛んに
―――SDGsの広報活動に取り組まれてどのようなメリットがありましたか?
宮本さん:本業である通常のエンターテインメントの仕事だけをしていたら、きっと出会えなかったであろう企業様や、団体の方と出会えていることだと思います。国連さんだけでなく、WFPさんやMFCさん(海洋管理協議会)などの国際機関や自治体、イオンさんや伊藤忠さんなどの企業や個人の方も含めて、SDGsに取り組んだからこその貴重な出会いだと感じています。
最近では、東京大学さんと『笑う東大、学ぶ吉本プロジェクト』を立ち上げました。持続可能な新しい価値の創出と未来への提言を目指して、学術とエンターテインメントの積極的な対話、協働を推進する取り組みですが、SDGsの達成に向けて貢献できることを一緒にやりましょうというところからスタートしています。こうしたことも、SDGsの広報活動に取り組んでいたからこそ実現できました。
2017年から、動画やイベントの制作、配信、常設の劇場でもSDGsの啓発をするなど、常に発信をしてきたこともあり、吉本とSDGsを結び付けてイメージしてもらえることが、増えてきているようです。さまざまなプロジェクトに関して、お声がけいただくことが多くなっており、ありがたいことです。
2030年に向けて、認知から行動へ
―――これからSDGsに取り組む企業や取り組み始めた企業へのアドバイスをお願いします。
宮本さん:私どもからアドバイスできるようなことはありませんが、あえて言えば、SDGsについてそれぞれが自分の言葉で共有することではないでしょうか。
SDGsのことを軽々しく話すのはよくないとか、知らないと言って逃げてしまうことがありますが、普段、自分たちが取り組んでいる小さなことを共有するところから始めています。そこから新たなアイデアや取り組みが生まれてくるのではないかと思います。
―――SDGsに関して、これからの展望を教えてください。
宮本さん:お笑いを含むエンターテインメントは、地球の環境や国の情勢が安定しているからこそ、楽しめるものなのかなと思います。2030年以降も、人々が安全・安心な環境でエンターテインメントを楽しめる社会を実現することが、結果的に当社にとってもいいことにつながるのだと思います。
人々がSDGsを知り、行動するきっかけを作れるよう、これからもSDGsを発信し続けていきたいと思っております。
2017年から約4年にわたって広報活動をしてきて、SDGsという言葉くらいは聞いたことがあるという人が増えてきたと感じています。一方でこれからは周知から行動へとどう一歩を進めていくのかが課題です。昨年から、2030年のSDGs達成に向けて「行動の10年」と言われています。
イベントには国連広報センターの根本所長にもご参加いただき、今の世界の状況など情報共有をすすめています。さらに、いろんな分野の方々と意見交換しながら、パートナーシップを組んで、アクションを起こしていきたいと考えています。
SDGsの活動を進めるために、パートナーシップを組んで何かご一緒できるかもしれないと思っていただけたら、ホームページの「吉本興業のSDGsの取り組み」からお問い合わせいただければと思います。
また、これから社内にSDGsを浸透させていきたいとお考えの方には、SDGsをわかりやすく面白く学んでもらえる出張ワークショップやセミナーも行っております。
SDGsはみんなの目標です。2030年の達成に向けて、エンターテインメント企業として、引き続き国連とコンビで貢献していきたいと思っております。
「吉本興業のSDGsの取り組み」ホームページ
https://www.yoshimoto.co.jp/sdgs/
<取材を終えて>
これまでSDGsの達成に向けて、必要なことを考えたとき、大きく分けると2つだと思います。
ひとつは、企業や団体が地球環境や人権に配慮した持続可能な取り組みに本気で取り組めるか。そしてもうひとつは国民の「エシカル消費」や「サステナブル消費」だと思います。
国民と一言でいっても、政治や思想、宗教、嗜好、価値観などさまざま。そうした見えない枠組みを越えて、多くの人に伝えられるのは、お笑いでありエンターテインメントだと思います。
国民に直接アクセスするのが容易ではない国連と、難しいことを面白くわかりやすく伝えることのプロフェッショルである吉本興業とのパートナーシップ。これはSDGsならではの光景であるように思います。
「難しいことをわかりやすく」伝えること。
それは、SDGsの達成に向けて、また企業が持続可能性をもって発展していくために、本業と同様に重要なことであると、国連と吉本のコンビから教えていただきました。