女性誌やテレビ、ラジオなどで頻繁に取り上げられている「古着deワクチン」。このサービスを運営しているのは東京都港区にある日本リユースシステム株式会社。
第3回ジャパンSDGsアワード特別賞をはじめとして、環境人づくり企業大賞2019最優秀賞(環境大臣賞)など数々の賞を受賞。どのようなスタンスでSDGsやサステナブルな取り組みをされているのか、広報担当の鈴木さんにお伺いしました。
※取材はリモートで実施しました。
――御社の成り立ちを教えてください。
鈴木さん:代表の山田は、当社を立ち上げる前はリサイクルショップを経営していました。その当時、開発途上国にリユース商品を輸出している日本の企業はほぼありませんでした。日本で不要になったものは、開発途上国に持っていった方が、新たな活躍の場があるのではないか。そうした想いから中古品輸出専門商社の南越商会様と桃太郎便の丸和運輸機関様にご支援をいただきまして、2005年に日本リユースシステムを設立しました。
現在は、アジア、アフリカ、中東を中心に、世界32カ国と取引を行っています。需要のあるものは、生き物をのぞいて、あらゆるものを取り扱っています。
――ホームページには捨てさせない屋とありますがどういう意味ですか?
鈴木さん:当社は、業種的にはリユース・リサイクル事業ですが、事業枠で考えると、幅広い視点が得られなくなります。一方、捨てさせない屋という視点にたてば、モノだけでなくコトについても視野が広がります。目に見えるものだけでなく、目に見えないものも、また既成の考え方では難しいことも、新たなビジネスにできれば、捨てられるものを減らすことができます。
枠を設けず、誰もやったことのない事業をこの世に創り出していくという意味で、自らを「アドベンチャー企業」とも呼んでいます。前例のないことに果敢に挑んでいくという点で、大変なこともありますが、社会をよりよい方向へ変えるという意気込みで取り組んでいます。
――その事業のひとつとして「古着deワクチン」が有名ですが、どのようなサービスですか?
鈴木さん:古着deワクチンは、WEBサイトから申し込みをして3,300円(税込)を支払うと、専用回収キットが指定先に届きます。その中に入っている大きな紙袋にはTシャツなら100枚程度、約25キロが入ります。衣類、バッグ、靴、帽子、アクセサリーなどを入れてお送りいただくと、1口につき5人分のポリオワクチンを途上国の子どもたちに届けることができます。回収した衣類などは、開発途上国に輸出し販売されています。
――この事業はどのようなきっかけで生まれたのですか?
鈴木さん:当社は、設立当初から開発途上国をメインにビジネスをしています。それらの国々では、ワクチンさえあれば助かる子どもたちの命が失われていました。そこで何かお役に立てないかと考えたときに、その国の子どもたちの未来への投資として、ワクチンを提供したいと考えました。
一方日本では、たくさんの衣類がタンスのなかで眠っています。処分したい気持ちがあるけれど、それなりの金額で買ったものをリサイクルショップにもっていくと、二束三文にしかならずためらってしまう方が多い。また、親族の遺品をリサイクルショップで処分するのも忍びなく、置いたままになっている。そうした方たちが、どうすれば気持ちよくタンスから出していただけるか。
開発途上国の子どもたちの未来とタンスのなかで眠る衣類や服飾雑貨。この二つのアンマッチな事柄を繋げるために考えたのが、着なくなった衣類と「誰かのお役に立つ」「支援につながる」という心の満足との価値交換でした。いらなくなった衣類が途上国の子どもの命を救うワクチンになれば、自分ができることで、社会を少しよくすることに貢献できる。大切な人の遺品も、子どもたちの命を救うことになるなら、気持ちよく提供しよう。そうした善の想いとワクチンを交換する仕組みとして誕生がしたのが古着deワクチンです。
この取り組みは、買い取りではなく、お客様にお金を払っていただいて衣類などを引き取らせていただいています。一見、そんなおかしな話があるかと思いますが、こうすることにより、景気に左右されずに、ワクチンを子どもたちに提供することができます。
継続して支援できるサステナブルな仕組みは、とても大切なことです。そのためには、どこかにしわ寄せがくるのではなく、関わる人が無理なく活動できることが重要です。子どもたちの命を守る取り組みだけに、一過性のものであってはならないと考えています。
――古着などが海外で販売されるまでの流れはどのようになっていますか?
鈴木さん:集められてきたものは、日本では危険物と汚れているものだけを選別をして、あとは仕分けの拠点になっている、カンボジア、マレーシア、インド等のセンターに送ります。そこで、暑い国用、寒い国用、長袖、半袖、男性用、女性用、子供用など、約170種類に仕分けしています。その国で販売できるものは現地で販売し、その国で必要のないものは、また別の国に輸出します。
例えば、東南アジアでは冬服はいらないため、それらをモンゴル等寒い国に輸出するなど、世界32ヶ国で販売されています。
日本ではなく、海外で仕分けして、さらに世界に送ることで、それぞれの国で雇用の創出につながり、貧困からの脱却につなげる取り組みとして推進しています。
――寄付だけではなくビジネスの創出にも力をいれているということですか?
鈴木さん:寄付はもちろん大切です。子どもたちの命の危険や生きるための支援が必要な紛争国や地域では無償の寄付は大切です。
しかし、紛争が終わり経済を立て直す局面では、寄付よりもビジネスが必要になります。寄付は依存を招くことがありますが、ビジネスは自立を支援できます。当社が輸出している国々は、開発途上国が多いのですが、資本やビジネスのノウハウがない国では、安定的なビジネスを生み出すことは難しい。そうした点からも、できるだけ日本での作業を減らし、海外での雇用創出に力をいれています。
――古着deワクチンは、寄付であり雇用創出でもあるのですね。
鈴木さん:そうです。古着deワクチンに参加していただくことは、子どもたちにワクチンを寄付し、開発途上国での雇用創出にもつながることをユーザー様にご理解いただけるようになってきました。
大手企業様がCSRの一環として当サービスをご利用いただくことも増えています。KADOKAWAグループの「(株)毎日が発見」様やカタログ通販の「ハルメク」様をはじめとしたさまざまな企業様には、古着deワクチンの仕組みを使ったOEMを自社のサービスの一環として販売して頂いております。直販・OEMすべて合わせると月間2万件ほどご利用いただいております。
その結果、2021年7月31日現在で、寄付できたワクチンが3,433,883人分、再利用した衣類は、28,113,850着になりました。日本の皆さまのご厚意が、開発途上国の人的・経済的な支援につながっています。
こうした取り組みが評価されて、2019年には第3回ジャパンSDGsアワード特別賞をいただきました。また、部屋の片付けに古着deワクチンが一役かっているようで、2020年には一般社団法人ハウスキーピング協会主催の「シンプルスタイル大賞2020」の「サービス・空間部門」で金賞を受賞しました。
――もう一つ注目を集めているお針子事業もユニークですが、どのような取り組みですか?
鈴木さん:日本で不要になった着物や帯を回収。モンゴルの現地法人へ輸出して障がいがある方や貧困層の方に技術を教え独自の加工を施します。それをKimono Upcycle Cloth「ohariko」という独自の反物を製造し現地及び周辺国へ販売しております。
モンゴルや周辺国は現在でも仕立ての文化が残っています。お祭りやお正月など、大きなイベントがあると、モンゴルでは民族衣装のデールを仕立てたり、高齢者のなかには、まだ日常的に着用されている方もいるようです。伝統的なデールと日本の着物には親和性があります。日本熱が高く、リユース着物で伝統的な民族衣装をつくるというクリエイティブでアート的な要素も含んだデールが、モンゴルで注目を集めています。
国立デザイン学校ではリユース着物をデールに仕立てる授業が実施されたほか、モンゴルの高級ブランド「ZOSON」では、リユース着物を活用した商品を販売しています。今後も、扱う店舗数を増やして、お針子事業を拡大していきたいと考えています。
――お針子事業はどのようなきっかけで始まったのですか?
鈴木さん:ハンドメイドを趣味に持つ社員が、社内の環境教育を受ける中で生まれたアイデアがきっかけです。集められた着物は、一旦糸をほどいて洗濯をするのですが、普段着ている洋服のように洗濯機で簡単に洗うわけにはいきません。
ポリエステル以外の着物は縮んでしまうため、「洗い張り」という伝統技法を使って洗うことが必要になります。1000年以上前からある技法で、着物が普段着の主流だったころは、各家庭で行われていたものでした。しかし、着物を着なくなったことで、この技法を使えるのは、ごく少数の職人さんだけになりました。心身の一部に不自由がある方でも、作業をしていただきやすいように、この工程に改良を重ねて、福祉作業所で行っていただけるようにしています。
冒頭でもお伝えしましたが、当社は「捨てさせない屋」です。リユース業として考えた場合、ごく限られた職人さんしか扱えない洗い張りのような工程は省かれてしまいます。
しかし、捨てさせない屋は、目に見えない伝統技法も捨てさせないと考えて、このような手間のかかる工程も取り入れています。
いろんな立場の人やコトが関わり成り立っているお針子事業ですが、2017年の開始以来、約41万点(数値要確認)の着物や帯を再利用することができました。
こうした活動が評価されて、2019年には環境 人づくり企業大賞の最優秀賞にあたる環境大臣賞を受賞。2020年には、持続可能な社会づくりに寄与するとして、「第三回エコプロアワード」優秀賞の文化伝承型サーキュラーエコノミー賞をいただきました。
――SDGsや環境関連のアワードをいろいろと受賞されていますが、SDGsはどのようなきっかけで取り組まれたのですか?
鈴木さん:当社の企業理念は「三方よし」です。自社の利益だけではなく、取引先様や働く社員、社会や環境にも良いビジネスをすることが念頭にありますので、SDGsを意識して事業をしているというより、当社の理念とSDGsの思想がたまたま一致したというのが正直なところです。
企業として、事業を継続させていくために利益を追求することは当然のことですが、当社のSDGsの考え方は、事業のプロセスを見直していくことだと考えています。
いい取引条件を得るために関係先に圧力をかけていないか、社員に過剰労働をさせていないか、安価だからという理由だけで、環境に悪いものを使っていないかなどなど、チェックして改善しながら、利益を追求し、ビジネスを運営しつづけることが、企業のSDGsだと考えています。
プロセスを見直してできた商品は、きっと社会にも環境にも人にも配慮されたものになっていると思います。エンドユーザーの方も、安いからというだけで商品を選ぶのではなく、その商品がもつ背景をきちんと把握して、少し高くても環境にいい方を選ぶ、誰かの役に立つ、誰かを救うことにつながる商品を選ぶなど、エシカルな視点で商品を選ぶ方が増えてきていると感じています。
――アワードの受賞にはどのような効果がありますか?
鈴木さん:認知度が低い中小企業にとって、アワードの受賞は、広く知っていただく機会になるとともに、信頼感も高まるようで、大手企業様からの問い合わせや取引が増えました。名の通った企業様との実績ができると安心感が増して、さまざまな分野からもお声がけいただくようになりました。
内部的にも良い影響があります。取引先企業様のなかには、障がいをもつ方々が働く福祉作業所様があります。賞をいただいたことをお伝えすると、自分たちの関わる仕事が社会から認められたと、自信や生きがいにもつながっているようです。なかには、古着deワクチンのキットを梱包していることを積極的にアピールされている福祉作業所様もあります。そこで働く方のご家族にも安心感を与えているようです。
――プレスリリースにも力を入れておられるようですが。
鈴木さん:プレスリリースを出すことは企業のコミュニケーションとしてはとても重要なことだと考えています。こまめに発信を続けることで、テレビや雑誌などの取材も増えました。こうしたメディア系への露出は、当社の場合、一般ユーザー様への波及効果が高いです。
アワードをいただくことは企業様に対して、メディアの露出は一般ユーザー様にインパクトがあり、発信力の弱い中小企業にとっては、いずれも必要なことだと考えています。
――これからSDGsに取り組む方へのメッセージをお願いします。
鈴木さん:私見になりますが「SDGs」「サステナブル」「これって社会にとっていいよね」という言葉がすごく使われるようになってきたと感じています。これからは、社会や環境を意識した商品開発やビジネスモデルは必須になりつつあるのではないかと思います。
ユーザーの商品に対する選択基準が変われば、まだSDGsに取り組んでいない企業も、取り組まざるを得ないようになってくるのではないでしょうか。
SDGsは難しいことではなく、昔から日本にある三方よしの考え方の実践にあると思います。自分のことだけでなく、お客様や社会や環境のこと、関わる人たちのことを考えてビジネスをする。
SDGsの視点から新しい事業や新しい商品を開発するといったハードルの高いところから始めようとすると、二の足を踏んでしまいがちです。それよりも、社員はいきいきと働いているか、取引先が困っていないか、簡単に取り組めて環境に良いことは何だろうかと、身近なところの見直しから無理なく始めるのが、いいのではないかと思います。
当社が取り組んでいるのは、古着deワクチン、お針子事業だけではありません。捨てさせない屋として、これからも社会課題をビジネスで解決することに果敢に挑戦し、社会がよくなることの一助になればと、挑戦を続けていきます。
<取材を終えて>
古着deワクチンという事業は、開発途上国の子どもたちの命を救い、貧しい国々で雇用を生み出すことにつながっています。さらに、それが、家の片付けにも一役かっていて、利用者が増えているのは興味深いことです。10年以上前には、なかなか考えられなかった行動の変化が古着deワクチンでは起きています。
そこにあるのは、「ちょっと良いことをした気分」。古着を提供する対価として、お金ではなく、気分の良さを得るというのは、山陽製紙さんのPELP!(トレジャーカンパニーvol.1)にも言えること。個人にとってのちょっと良いことをした気分は、企業ではCSRに置き換えられるかもしれません。
「モノよりコト」と言われはじめてずいぶん経ちますが、ビジネスとしてその事例をお聞きすると、そういう時代が確実に来ていていることを実感。こうした新たな価値観がSDGsを推進するためのベースになっていくのだと感じた取材でした。