20坪780万円〜という低価格・高品質の注文住宅を販売する三承工業株式会社。岐阜県岐阜市に本社を置き、新築注文住宅、エクステリア事業、メンテナンス事業などを「社会課題をビジネスで解決し、新たな価値を創造する」視点から事業を展開。2018年には建設業として初の「ジャパンSDGSアワード特別賞(パートナーシップ賞)」を受賞。さらに、2021年には「ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)」準グランプリと最優秀賞を受賞されています。全国でSDGsのセミナーや講演をされている西岡社長とダイバーシティ推進室の神田さんにお話をお聞きしました。
※取材はリモートで実施しました。
――日本では、他の先進国に比べて女性の社会進出が低いと言われています。毎年、世界経済フォーラムが発表するジェンダーギャップ指数において、日本は世界156カ国中120位(2021年3月31日発表)。女性が活躍できる環境づくりが整っていないなか、三承工業では、社員の女性比率が高いと聞いています。
西岡社長:当社では、現在全社員56名中、女性社員が29名(2021年8月末現在)と女性比率が50%を超えています。まだまだ男性中心の建設業界のなかで、この比率はかなり高いと言えます。
子どもと一緒に出勤できてフルタイムで働けるカンガルー出勤や、社員が女性だけの工務店「クレドホーム」など、女性が働きやすい環境づくりを進めてきた成果です。
――カンガルー出勤というのは、あまり聞いたことがなく興味深い取り組みですが、子どもが会社内にいる様子とは、どのような感じでしょうか。
神田さん:例えるなら、昭和の三世代家族の家に、親戚が集まってきたような感じとでもいいましょうか。お盆やお正月に親戚一同が集まって、大人たちが料理を囲んで賑わっているまわりで、子どもたちが遊んでいる雰囲気に近いかなと思います。
保育士さんがいるわけではないので、社員みんなで子どもを見ています。
保育園などにお子さんを預けている方の中にはお迎えの時間になると中抜けし、お子さんを連れて帰社し業務に戻る方もいます。また、お子さんの体調に不安があるときは、在宅ワークも可能ですし、気になる場合はカンガルー出勤をすることで目の届くところにいるので、安心して仕事ができます。
子どもたちにとっても、親が働いている姿を見ることは、一般的にはあまりないと思いますが、ここではそれが当たり前。子どもたちも、大人の世界を感じているようで、人の迷惑にならないように配慮しながら遊ぶなど、子どもらしさを持ちながらも、社会性を育んでいるように感じます。カンガルー出勤は、親にとっても、子どもにとっても、いい取り組みだと思います。
――女性活躍を積極的に推進されている背景にはどのようなことがあったのですか?
西岡社長:劣悪な社内風土です。建設業ですし、以前は男くさい職場でした。今から思えば、まさにブラック企業です。お金がすべて、力が正義。そんな考え方でしたから、ハラスメントの総合商社とも言われていました。
社員のモチベーションは低く、主体性がない。仕事に誇りを持てず、やりがいも感じていない状況でした。
そのとき、ある方に勧められて、無記名で社内アンケートをとってみたんです。社内環境は悪かったかもしれませんが、成果報酬はきちんと支払っていたので、そんなに評価は悪くはないだろうと。しかし、結果はボロボロ。5段階評価で、下位の1か2しかありませんでした。コメント欄には、社長の態度、言動に腹が立つなどの言葉のオンパレード。正直きつかったですね。
この結果についてアンケートを勧めてくれた方に言われたんです。今の社内環境を例えるならカチカチのコンクリートだと。畑が社内環境、種が人材、苗がビジネスモデルだと例えるとすると、どんなにいい種や苗をもってきても、コンクリートの上では育ちようがない。ポカポカの太陽のもと、栄養豊富でふかふかした、みみずや虫がたくさんいるような畑なら、少々悪い種や苗であっても、作物は育つ。いかに、社内環境が大切かを切々と説かれ、2013年から風土改革を始めました。
――風土改革が女性活躍につながっていくきっかけを教えてください?
西岡社長:当時の女性スタッフで、みんなに気配りができて、社内を和ませてくれる、ぽかぽかした太陽のような女性がいました。現在、財務部人事課課長として活躍してくれている寺田ですが、彼女に風土改革の太陽になってもらいたく「力を貸してほしい」と相談しました。しかし、向こうから逆に相談があると。妊娠したので、これを機に退職したいとのことでした。
辞められると風土改革が頓挫しかねない。なんとか、彼女に踏みとどまってもらえるように、何度も対話を続けましたが、そのときにはじめて創業時からの経緯や自分の会社に対する想いを話しました。
20歳の時に西岡興業を立ち上げましたが、高校時代にラグビーで鍛えたため、体力だけは自信がありました。河川敷の草刈り、水道など配管工事のための道路の手掘り、地下100mほどもある高速道路の橋脚の基礎づくりを他社が真似できないようなスピードで進め、当社の基盤を築いてきました。
がむしゃらに働いてきた根底には、自分が体験した、ひとり親家庭の経済的な困窮、社会的信用のなさをなんとかしたいという思いがあること。一方で、実施したアンケートで下された社員からの最悪の評価。大いに反省し、これからは、社員さんと社員さんの家族を幸せにする企業を創るという想いを彼女に語りました。
そして、女性が働きやすい環境をつくると約束することで、彼女は出産したあと職場復帰を果たしてくれました。このときが、当社の新たなスタートとなりました。
――女性が働きやすい環境づくりのために、どのようなことをされたのですか?
西岡社長:彼女が職場復帰した後の2015年に「チーム夢子」という社内の環境整備をしていくプロジェクトチームを立ち上げました。女性だけのチームで、彼女たちに権限を移譲し、自分たちが思い描く職場づくりのために、活動をしてもらうことにしました。
神田さん:まず始めたのがトイレの分離です。男性中心の社内ではトイレが当たり前のように共同でしたが、身体的な事情が違うこともあり、男女別のトイレにすることを実現しました。
次が、キッズルームの設置です。カンガルー出勤をしてきた社員と子どもたちが安心して過ごせるキッズルームをつくり、親の目のとどく範囲で安全に遊べるように整備しました。
3つ目がノー残業デーです。現在でも続いていますが、毎週水曜日と8のつく日は、定時退社を推進しています。頭ごなしに、退社を勧めるのではなく、空いた時間を家族と過ごしたり、自己研さんに励むことで、人生をより充実させるための時間の使い方を考えてもらうようにしています。
西岡社長:こうした発想やアイデアは、やはり女性ならではというところがあります。環境を整え、チーム夢子のメンバーが活躍してくれるおかげで、女性社員が増えコミュニケーションが活発になり、社内の雰囲気がどんどん良くなりました。それに伴い、生産性や会社の認知度もあがり、寺田には、働き方改革の講演依頼も舞い込むようになりました。
そこで、彼女から中小企業の女性活躍の推進を自分のミッションの1つにしたいと申し出があり、一般社団法人「WOMAN EMPOWERMENT PLATFORM(WEP、ウーマン・エンパワーメント・プラットフォーム)」を設立しました。
彼女はWEPの代表理事として、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)が発生する前までは、全国約40都道府県で、講演やセミナーを実施。彼女が当社で取り組んできたことを、今では会社の枠を越えて女性活躍や働き方改革を推進する立場になっています。
――注文住宅が780万円〜建てられるという「SUNSHOW夢ハウス」。本当に夢のある商品ですが、どのような目的で開発されたのですか?
西岡社長:SUNSHOW夢ハウスは、当社のSDGsの考え方の根本にもなっている「社会課題をビジネスで解決し、あらたな価値を創造する」に基づいています。
以前、元岐阜市長さんから、小学6年生と中学3年生を対象に実施される全国学力・学習状況調査の質問紙調査のなかで、将来の夢や目標を持っているかたずねる項目で、岐阜市が最下位。夢を持てない子どもの割合が県内で最も多く、どうしたものかと相談されたことがありました。さまざまな調査をするなかで、子どもが夢や希望を持てない要因のひとつに、親の自己肯定感、自己効力感が低いことがわかってきました。
そこで、マイホームを持つことを諦めていた家庭が、実現できるかもしれないと夢を持つことができれば、自己効力感があがるのではないかと考えました。
これは、さきほどもご紹介した自身の実体験でもあります。一人親やこれまでのマイホームを持つことなど考えられなかった方々が、家を持つことができれば、自信を持つこともできますし、さらに夢を抱くことにもつながります。前を向いて人生に積極的に関わっていく親を見ていれば、子どもたちも夢を持ちやすくなります。夢を持つ人が増えれば増えるほど、地域は活気づきます。それを実現するためには、ローコストで高品質な住宅が必要だと、SUNSHOW夢ハウスを作りました。
神田さん:ローンの支払いは、ご家庭にもよりますが、土地と建物を合わせて月々6万円台が多いようです。賃貸に住むのと比べると、生活の質が向上することと支払いの負担が軽くなっているご家庭もあります。生き生きと過ごす親の姿をみることで子どもにプラスの影響を与えますし月々に浮いた分を、教育費や家族の夢の実現に回すことができれば、貧困のスパイラルからの脱却にもつながります。これは、SDGsの1番「貧困をなくそう」にもつながります。
――外国籍の家庭からの要望も多いようですが。
西岡社長:岐阜県の外国人比率は約1.8%で全国4位となっています。特に美濃加茂市では約7.7%で県内トップです。その中には、日本での定住を希望しマイホームを希望する方々も多くいらっしゃいます。ただ、外国籍の方は、言葉や習慣の違いからローンが組みづらいこともあるようで、夢を諦めてしまう方も多かったようです。その夢を実現させるために、SUNSHOW夢ハウスでは、ローンが組みやすいようにアドバイスやサポートも行なっています。
※数値は2018年に調査
神田さん:外国籍の方の場合、支払いに対する感覚が違うことも一因です。例えば、クレジットカード利用や携帯電話、公共料金など日常的に口座引き落としの仕組みがあるのに対し、活用できず振込用紙が来てから支払ったり、国民健康保険や国民年金の滞納などをされている方もあるようです。キャッシングも簡単にできてしまうので利用してしまう方もありますが、ローンを組む場合には、それらが不利になることをお伝えし、まずは、各種支払いを円滑にして、信用を得るお話などをさせていただいております。
また、住宅づくりが始まってからも近隣住民や自治会長さんへのあいさつにも同行しますし、市役所への書類の手続きにも同行します。建てた後も市民として受け入れてもらえるサポートとして地域のNPO法人さんとイベント開催などを行い継続的に支援しています。
西岡社長:こうしたフォローもあって、今では、SUNSHOW夢ハウス全体の3〜4割が外国籍の方になりました。意外なことにこれが地域の方からも評価をいただいています。以前は外国籍の方が屋外で酒を飲み騒ぐことがあり、治安があまり良くなかったそうです。ところがマイホームを持つ人が増えてくると、家のなかでパーティーをするようになって、深夜に外で騒ぐ人が減り、治安がよくなったと喜ばれています。
SDGsの10番「人や国の不平等をなくそう」という外国籍の方のマイホーム実現への取り組みが、SDGsの11番「住み続けられるまちづくりを」につながってきたことは、社会課題をビジネスで解決し、新たな価値を創造するという当社のスタンスにまさに合致するものであり、SUNSHOW夢ハウスのコンセプトの確かさを実感しています。
――第二回ジャパンSDGsアワードでパートナーシップ賞を受賞されていますが、SDGsをはじめて知ったとき、どのような印象でしたか。
西岡社長:SDGsのことは、以前からなんとなく知っていたのですが、しっかり認識するきっかけになったのは2018年の日本青年会議所のセミナーでした。そのとき感じたのは、当社が風土改革として取り組んできたことが、そのままSDGsの思想にあてはまるということでした。女性が活躍できる環境整備やSUNSHOW夢ハウスなど、社会性と経済性を両立させた企業経営は当社のビジネスの基盤であり、SDGsの社会課題をビジネスで解決するという考え方そのものでした。
そのため、経営を大きくシフトさせるというより、当社の取り組みをSDGsに紐付けし、世界の共通言語として、当社の取り組みをわかりやすく伝えるために積極的にSDGsを取り入れています。
17のゴールには、当社が取り組んでいないものもありますので、その点は学習し、ビジネスとしてどのように貢献していけるかを考えるのに役立てています。
――女性が活躍できる職場づくりやSUNSHOW夢ハウスの他に、SDGsの観点から取り組んでおられることはありますか?
西岡社長:地球温暖化の影響からか、毎年のように甚大な災害が発生しています。建設メーカーとして、SDGs11番の住み続けられるまちづくりを考えた時、地域防災(レジリエンス)への貢献はとても重要なことです。そこで、デザイン性の高いキャンプ用品や災害グッズを販売するCAMP★MANIA PRODUCTS様とパートナーシップを組み「キャンプできる庭」づくりを提案しています。
災害が起こったとき、どうしても行政に頼ることが多くなってしまいます。しかし、日頃から備えておけば、自分たちでできることもあるはずです。
キャンプできる庭を敷地内につくっていただいて、そこで日頃から気軽に家族でキャンプを楽しんでいれば、もし災害の影響で停電や断水になったとしても、自分たちで対応できる選択肢が増えます。
各家庭や個人が防災の意識や知識を日頃から持つことが、地域防災につながり、災害に強いまちづくりにつながっていくのだと考えています。
神田さん:防災の重要性を子どもたちにも考えてもらうために、2020年12月に岐阜市立柳津小学校の4年生の社会の授業に当社の社員が参加させていただきました。この授業は、小学校と当社の共同プロジェクトとして、震災が起きた際に家族や近所の方が安心して自宅避難できる庭を子どもたちが当社のガーデンデザイナーとともに設計し、実際にモデルハウスに施工して公開しました。
この小学校のある柳津地区の人口は、約13,000人です。一方避難所収容可能人数は4,800人程度。大学や高校などがある恵まれた地域にもかかわらず、避難所が不足している状態です。withコロナが続く状況で、避難所不足はさらに深刻で、このことは岐阜県だけでなく日本全国の社会課題です。
こうしたことからも、各世帯での防災意識の向上と対策は重要であり、当社の「キャンプできる庭」づくりがその一助になるべく活動しています。
西岡社長:2017年から続けてきました当社の取り組みを評価していただきまして、2021年ジャパンレジリエンスアワード(主催:一般社団法人レジリエンスジャパン推進協議会)を2部門で受賞しました。
企業部門では、防災力を高め避難所としても活用できる「キャンプできる庭」が最優秀賞を、教育部門では柳津小学校さんとの共同プロジェクトとして連名で準グランプリ 特別賞をいただきました。
東日本大震災10年という節目の年に賞をいただいたことは、改めて災害に対する備えについて、いっそう真摯に向き合い、地域の社会課題を解決できるように、様々な分野の方と連携しながら進めていきたいと考えています。
――SDGsに取り組むことでどのようなメリットが生まれましたか?
西岡社長:SDGsを経営に実装することで得られた一番大きな成果は、社員さんが誇りをもって仕事ができるようになったことです。自分たちの事業が社会にどのように関わるのかがわかりやすくなり、まわりの方にも説明しやすくなったことで、社員の社会貢献に対する意識が強くなりました。
新商品開発の際も、どのような社会課題を解決できるのかを考えるため、商品の社会的な意義や目的が明確になります。そこが定まると、自信をもって商品を提案できるため、やりがいにつながり、働きがいを得られるという好循環が生まれています。
お客様の満足度もあがり、紹介や口コミでご来店いただくことも増えたため、売上、利益ともに向上しました。メディアへの露出やセミナー、講演が増えることで、発信力がアップし、優秀な人財の確保にもつながっています。
西岡社長:社内的な変化をデータでご紹介しますと、2011年時点で女性スタッフは2名でしたが、現在は29名、女性比率は52%です。産後の職場復帰率は100%、カンガルー出勤を利用した社員は68%にものぼっています。外国人スタッフの割合も10%となっていまして、ダイバーシティを推進している成果も出てきています。
―――最後に、御社のこれからの目標を教えてください。
西岡社長:企業にとっての持続可能とは、事業を通じて利益を出し続けることです。ただし、それが自社だけがよければいいのかといえば、それでは持続性は保たれません。自分たちだけでなく、お客様、取引先、地域、国、世界、そして未来にとっても、良いこと、役に立つことを事業として進めていくことで、持続性は保たれていくのだと考えています。自分さえ良ければ良いを無くすことです。この精神が、持続可能な社会づくりには必要です。
そのためには、SDGsの17番のパートナーシップが一層重要になってきます。一企業のみでできることは限られています。それぞれの分野に精通したプロフェッショナルが協力し合うことで、社会課題をひとつでもクリアできる方向へと進めることが重要です。業界内だけでなく、他分野の企業様やNP0などの各種団体様、自治体などと緊密に連携し、パートナーシップを組んで、岐阜県から日本の活性化に貢献していきたいと考えています。
取材を終えて
生活するだけでも大変で、マイホームなど夢のまた夢と思っていた家庭が、SUNSHOW夢ハウスに出会い、マイホームを実現したときの喜びは大変なものでしょう。住まいの快適性、心地よさは、もちろん大切ですが、何よりも自信を持つことにつながることは、その後の人生にも大きな影響を与えるのではないでしょうか。
住宅産業がサステナブルな社会に向けて環境的な高付加価値住宅を追求するなか、家を建てることで、貧困からの脱出をサポートするというビジネスモデルは、個人的にはとても新鮮で、誰一人取り残さないというSDGsの理念に合致したものです。こうした発想は、女性社員が半数以上、オフィスに子どもたちがいる環境と無縁ではないでしょう。
社会課題をビジネスで解決するという考え方と、それをしっかりと育てる豊かな風土づくり。SDGsに足踏みをする中小企業にとって参考になる好事例ではないでしょうか。