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SDGsコラム 第6回「気候変動(地球温暖化)について・その6」

SDGsコラム

2022年10月30日

SDGsコラム 第6回「気候変動(地球温暖化)について・その6」

こんにちは。ATC環境アドバイザーの立山裕二です。これまでエコプラザカレッジの講師として、また環境ビジネス情報の記事などを執筆させていただいておりました。

今回も、前号に引き続きSDGsの重要な課題でもある「気候変動(地球温暖化)」について書かせていただきます。

■北極の氷について

「北極の氷が解けても海面上昇しない」と聞いたことがありますが、ホントはどうなのですか?

この種の質問も多くいただきます。

たとえば

友だちや知り合いの人と温暖化について話をしていると、「北極の氷が溶けても海面上昇しないそうだよ」とよく言われるんです。
何でも、専門家の先生がテレビで断言していたみたいです。アルキメデスの原理で説明していたそうです。
つまり、水に浮いている氷が溶けると、溶けた分だけ水の体積が増える。しかし、その分だけ水没していた部分の体積が減るので、結果としてプラスマイナスゼロになる。だから、水位は変わらない。
何となく分かるような気がするけど・・・・どうもピンとこないし、何か違和感を感じるし・・・・。
自分で考えてもラチがあかないので、質問してみました。

という内容です。

本やテレビ番組で紹介されたせいか、とても多くの質問をいただきます。最近では、「北極の氷が溶けると海面上昇するという“あなたの(私のことです)”説明は間違っている」と指摘されることもあります。

本当のところはどうなのでしょうか?

 

ある大学の先生は、インターネットのサイトで、「温暖化で北極海の氷が溶けることは確実であるが、海に浮かんでいる氷が溶けたからといって海面が上昇することはない」と述べています。

そして「温暖化によって北極の氷が溶けて海面が上昇する」というのは「絶対的間違い」として、「いまさら、ウソだというまでもない単なる無知に過ぎない」とまで言い切っておられます。

 

環境問題の権威者がそういっているのだから間違いない。おそらく、大多数がそう思うでしょう。ところが、ここに大きな落とし穴が存在するのです。

お二人とも「北極海=北極」と信じているようですが、ここに根本的な誤解があります。

実は、北極は一般に「北極圏」を意味しています。そして北極圏とは、北緯66.5度(66.6度としている文献もあります)以北を指します。

66.5度以北というと、北極海、北アメリカ大陸最北部、クイーンエリザベス諸島など、グリーンランドの大部分、スカンジナビア半島北部、ユーラシア大陸にあるシベリア北部を含みます。

また図のように、7月の気温が10度の等温線に囲まれた部分(赤線の内側)を北極と定義することもあります。

【北極(ウィキペディアより)】

いずれにしても、北極には広い面積の陸地が含まれるのです。言うまでもなく、陸地にはグリーンランドやアラスカで明らかなように大規模な「陸氷」が存在します。陸氷が溶けると、当然のことながら海面上昇が起こります。

ある人は、アルキメデスの原理を用いて「海面上昇は起こらない」と主張していますが、それはあくまでも「北極海に浮かぶ氷が溶けたら」ということです。ただし実際には、北極海の氷が溶けて海面が露出すると、太陽熱の吸収によって水温が上がり、水の膨張に伴う海面上昇が起こります。

より正確に表現すると、北極の氷が溶けても(熱膨張を考えなければ)海面上昇は起こらないが、北極(圏・域)の陸氷が溶けると海面が上昇するということになります。

というわけで、表題の応えは「北極海の氷が溶けても(熱膨張を考えなければ)海面上昇は起こらないが、北極(圏)の氷が溶けると海面が上昇する」ということになります。

目くじら立てて批判しても仕方がないことかも知れませんが、科学者の影響たるや非常に大きいものがあります。自分の発言が、「読者にどのように伝わり、どんな行動を引き起こすか」という自覚を持っていただきたいと思います。

少なくとも、「温暖化なんてたいしたことない」という風評を広めたり、環境改善活動に消極的な人にとって「活動しないための格好の理屈付け」につながらないような配慮が欲しいものです。

私たち一般人も、専門家(科学者・権威者)の意見は尊重するものの、頭から鵜呑みにしない態度も必要ではないでしょうか。専門家は、専門分野以外は素人です。様々な要素が関連しあっている地球環境問題を論じる場合、むしろ間違いを含んでいることの方が多いのかも知れません。

私の場合は、「まずは(インターネットや文献などで)自分で調べてみる」という習慣をつけました。この際、できるだけ多くの人の意見や学説を集めるようにしています。

■温暖化で5m以上海面が上昇するって本当?

本やテレビ番組は極端な説を扱っていることが多いし、説得力もあるから、私自身、なんか振り回されている感じがします。

いわゆる「最悪のシナリオ」も極端と言えば極端ですよね。

確かに海面上昇については、たくさんの意見や学説があって混乱してしまうかも知れません。ここで少し整理してみましょう。

そこで多くの意見を集めるという意味で、海面上昇について最近よく耳にすることを聞いてみました。

IPCCは、「21世紀の末に1990年と比べて海面が、最も温室効果ガスの排出量が少ないシナリオで18~38cm、最も排出量が多いシナリオでは26~59cm上昇すると予測しています(地球温暖化第四次レポート)。

その一方で、「温暖化で5m以上海面が上昇する」という警告も出されています。

例えば、IPCCのロバート・ワトソン元議長は、「このまま二酸化炭素などの排出増加が続けば、先々グリーンランドや南極西部の氷床が溶け、海面が6mも高くなるという取り返しのつかない影響のきっかけをつくることになる」と警告しています。

一見、矛盾した意見のようですが、どちらも同じことを言っているのです。

IPCCは「21世紀末時点の上昇」を予測していて、「その時点で海面上昇が止まる」とは言っていません。

水位の上昇は、極地(南極・北極・ヒマラヤ)にある陸氷が海に流れ込んだり、水温上昇による熱膨張によって起こります。

ここで重要なのは、「水の熱しにくく冷えにくい性質(大きい熱容量)」と、「膨大な海水量」のため、例え温室効果ガスの排出が止まっても長期に渡って水位が上昇し続けるということです。

ここからは、少し以前のものですがIPCCの第四次レポートに基づいて話を進めます(分かりやすいので)。大人向けのレポートなので少し難しい表現が出てきますが、じっくり読み、そして考えてみてください。

さてIPCCは、このレポートで、「過去および将来の人為起源の二酸化炭素の排出は、このガスの大気からの除去に必要な時間スケールを考慮すると、今後千年以上の昇温と海面水位上昇に寄与するであろう」と説明しています

そして、海面水位に関して次のように解説しています。

グリーンランドの氷床の縮小が続き、2100年以降の海面水位上昇の要因となると予測される。現在のモデルでは、(工業化以前と比較して)世界の平均気温が1.9~4.6℃上昇すると、気温の上昇による氷の質量の減少が、降水による増加を上回り、表面の質量収支が負に転じると予測されると示唆される。質量収支が数千年間負の値であり続ければ、グリーンランド氷床は完全に消滅し、約7mの海面水位上昇に寄与するだろう。グリーンランドにおける将来の気温は、125000年前の最後の間氷期の推定気温に匹敵するが、古気候の記録が示すとおり、この時は極域の雪氷面積の減少と4~6mの海面水位上昇が起きた。

ここで「質量収支が負に転じる」というのは、「増加した氷の量よりも減少した氷の量の方が多くなる」ということです。言うまでもないことですが、グリーンランド氷床が完全に消滅するような状況では、北半球に限ってもアラスカやシベリアなどの陸氷が同様に溶ける確率は極めて高いでしょう。

これらのことから、IPCCの予測を「海面水位の上昇は、100年間に最大59㎝の割合で千年以上続く」と解釈すべきだと思います。繰り返しになりますが、21世紀末に水位の海面上昇が止まるわけではないのです。

◆静的変化と動的変化

IPCCの予測は、あくまでも静的変化の場合です。静的変化とは、屋根に積もった雪が自然に溶けて消えたり、雪だるまが少しずつ溶けて自然に消滅するような変化のことです。

一方、屋根に積もった雪が突然バサッと落ちてきたり、雪だるまの頭が突然落ちるようなダイナミックな現象を動的な変化といいます。屋根に積もった雪をよく観察してみると、動的な変化がよく起こっています。

ここで仮に、庭に池がある一軒家をイメージしてみましょう。

さて、春になって屋根に積もった雪が溶けたら、池の水位がどれだけ上がるでしょうか?

静的な変化については、屋根に積もった雪の量が分かれば計算で求められます。雪の体積を測って水量に換算し、池の面積で割れば雪が溶けたことによる水位の上昇が分かりますね。これに水温上昇に伴う熱膨張分を加えると、春時点での水位上昇が予測できます。

しかし動的な変化に関しては、「いつ、どの部分で、どのくらいの規模で起こるか」を予知することは現時点の科学ではまず不可能です。ましてや地球規模の動的変化など正確に分かるわけがありません

南極大陸で起こる可能性があるとされる最大の動的変化は、「西南極の氷床が南氷洋に滑り落ち、一気に海面水位が5m以上も上昇する」というものです。

科学者の多くは「今すぐには起こらないだろう。起こったとしても数百年先だろう」と言っていますが、これとて「現時点での見解」に過ぎません。そもそも「数百年先のことなんて考えてられない」という発想が根底にあったとしたら、ちょっと幼稚で情けないですね。

なお動的変化については、IPCCの第四次レポートに次のような記述があります。

現在のモデルには含まれていないものの、最近の観測結果が示唆する氷河に関係した力学的な過程によって、昇温によって氷床の脆弱性(ぜいじゃくせい=もろくて弱い:著者加筆)は増加し、将来の海面水位上昇がもたらされる可能性がある。しかし、これらの過程についての理解は限られており、その規模についての一致した見解は得られていない(第5次、第6次と時間の経過につれて見解が一致してきてはいますが)。

要するに最先端の優秀な科学者たちでさえも「分かっていない」と言うことです。「分からないから分かるまで何もしない」のか、「分からないから今から最悪のことが起こらないように手を打つ」のか、私は後者ですが、みんながみんなそう考えているわけではないようです。

このことはとても重要なことですので、次号で改めて考えたいと思います。

コラム著者

サステナ・ハース代表、おおさかATCグリーンエコプラザ環境アドバイザー

立山 裕二