こんにちは。ATC環境アドバイザーの立山裕二です。これまでエコプラザカレッジで環境経営やSDGsなどについてセミナー講師を務めさせていただいておりました。
環境問題は(もちろんすべての問題も)、考えただけではどうにもなりません。実践あるのみです!
全部理解し納得するまで何もしないのではなく、今できることをしていきましょう。
では早速、この社会で生活している人々が「それぞれ何をしたらいいのか」について話を進めていきたいと思います。
■みんなが、それぞれの役割を果たす
この社会は、年齢、職業、思想など多種多様な人の集合です。細かく分類するとキリがないので、ここでは「国家」「政治家」「企業」「生活者」に分けて、それぞれの役割を考えてみたいと思います。
なお、世界に目を向けるとさらに複雑になるので、日本の社会に限定しています。
ここで大切なことは、それぞれ最優先すべき役割があるということです。国家には国家の、生活者には生活者のすべきことがあるのです。
なお、ここでは、その役割を担う人に読んでもらう目的で少々難しい表現も出てきます。分からないところは、皆さんの周りにいる「その役割の人」に質問してみてください。
そうすることで、「その役割の人」に「役割を果たしてください」とお願いするのと同じことになります。
なおここでは、「国家」「政治家」「企業」の役割について考えてみます。
1.国家の役割
言うまでもなく、大きく広い視点に立って目指すべき社会のビジョンを構築することです。クールビズやウォームビズも行動指針の提案としては意味がありますが、さらに大きな視野で国民の行動規範としてのビジョンを明確に描いていただきたいのです。
せっかく当時の安倍内閣が「美しい国」という国家像を提案したのですから、それをさらに進化させていただきたいものです。ただし、首相が替わったり政権が交代したとしても微動だにしないようなビジョンが必要です。そのためには、超党派(政党にこだわらない)で、そして官僚の枠を超えた取り組みが不可欠です。
2.政治家の役割
政治家は、国家ビジョンの構築に関わるのですから、それぞれの資質の向上が求められます。
もちろん目指すところは多様であっていいのですが、私としては、1人でも多くの政治家が上杉鷹山のようであって欲しいと思うのです。
ここで参考のために、上杉鷹山についてご紹介しましょう。
一村は、互いに助け合い、互いに救い合うの頼もしきこと、朋友のごとくなるべし。
これは第9代米沢藩主、上杉鷹山(1751~1822)の言葉です。この現代においても、最も必要な心がけではないでしょうか。
鷹山は、「藩主は、国家と人民を私有してはいけない。人民の父母として尽力しなければならない」と考えていました。そして「三助」を理念として、窮乏を極めていた米沢藩の立て直しを図りました。
ここで「三助」とは、もちろん「さんすけ」ではなく、「さんじょ」と読みます。自ら助ける「自助」、近隣社会(コミュニティ)が互いに助け合う「互助」、藩の政府が手を貸す「扶助」のことです。
「子どもは親の言うことはせずに、親のするようにする」。こんな言葉がありますが、まさに鷹山は人民の親となり、行動・実践というお手本となりました。その結果、見事に藩の財政を立て直したばかりでなく、あの「天明の大飢饉(だいききん)」を無事に乗り切ることができたのです。
◆鷹山の政策
鷹山は次のような政策を実行しました。
①藩士、領民の区別なく、一日あたり男、米3合、女2合5勺の割合で支給し、粥として食べさせる。
②酒、酢、豆腐、菓子など、穀物を原料とする品の製造を禁止する。
③比較的被害の少ない酒田、越後から米を買い入れる。
特筆すべきことは、「鷹山はもちろん、上杉家の全員も領民と同様に、三度の食事は粥とした」ということです。これを見ていた富裕者層も、貧しい者を競って助けたそうです。凄い感化力ですね。
◆鷹山の魂を引き継ぐ
鷹山の時代は、一村が国家に相当します。現代は、一国が国家なのかも知れません。しかし、地球のすべてはつながっていて連動しています。だから、21世紀の国家とは「一つの地球」でなければなりません。
ここで、冒頭に掲げた鷹山の言葉、「一村は、互いに助け合い、互いに救い合うの頼もしきこと、朋友のごとくなるべし」を書き換えましょう。
「ひとつの地球は、互いに助け合い、互いに救い合うの頼もしきこと、世界中の人々が朋友のごとくなるべし」と。
上杉鷹山を尊敬している政治家は多いと聞きます。でも、しても鷹山は喜ばないでしょう。一村を地球に拡大することこそ、偉大な先人の魂を引き継ぐ者としての責任ではないでしょうか。それが「進化」というものです。
◆為せば成る
えっ、「そんなことを言っても難しい」ですか?
鷹山は、この反論を予測していたかのような言葉を残しています。
為せば成る為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり。
このあまりにも有名な言葉は、今でも煌々と輝きを放っています。
行動・実践。これこそが、すべての成功法則の原点だと思います。ただし、「為せばなる~」を曲解すると、私のような軽薄者は「無謀」な行動を取りかねません。
しかし鷹山は、「謙虚であること」「感謝すること」「物を大事にすること」「節約をすること」を行動・実践の基礎に置いていたそうです。
ホントにすごい政治家がいたものですね。
あのジョン・F・ケネディが、「日本で最も尊敬する政治家は上杉鷹山」と語った話は有名ですが、その気持ちはホントによく分かります。
またイギリスの女流探検家イザベラ・バードは、明治初年に日本を訪れた時、「米沢周辺はエデンの園、アジアのアルカディア(桃源郷)である」と語ったそうです。言うまでもなく、その100年前に困窮の場所を「エデンの園・桃源郷」に蘇らせたのが上杉鷹山なのです。
私もこれまで米沢で2回講演をさせていただきましたが、景色といい人の心といい、まさに桃源郷でした。
◆鷹山の師・細井平州
ところで上杉鷹山とくれば、江戸時代の教育者であり大儒の「細井平州」(以下、平州先生)を忘れることはできません。鷹山の若かりし頃の師として、計り知れない影響を与えたに違いありません。
平州先生の教えは、「学んだことを生かす」「先施の心」「人にとって大切なのは、譲り合う心」「勇気をもってことにあたり夢をかなえる」など、まるで現在の「成功哲学」「人生哲学」そのものです。
米沢藩に「興譲館(こうじょうかん)」という学校がありましたが、「譲り合う心を興す」から名付けられたそうです。
また平州先生は、「思い上がり、相手のことを考えない自分中心の行いが最も人の道にはずれたことだ」と説いています。そして、「人と人との交わりにあっては、思い上がりの気持ちをなくして、譲り合う気持ちをもてば、お互いの心が通じ合い、物事もうまく運ぶ」と教えています。
ここで、「先施の心」の「先施」とは、先に施すということです。「自分がして欲しいことを先にこちらから施す」という黄金律の実践です。
相手にして欲しいことを相手がしてからするのではなく、「相手よりも先に自分からして差し上げる」ということです。
マーケティングに「返報性の原理(してもらったことを相手にして返したくなる)」というのがありますが、平州先生の「黄金律」は「施しを先にする方になれ」と説いているように思います。
私としては政治家だけに押しつけずに、ともかく「1つの地球」「地球は1つ」という自覚を持って、自分から率先して、実践・行動していきたいと思っています。
3.企業の役割
◆地球に優しい会社になる
日本古来の「やさしい」は、「やせるほど恥ずかしい」という意味です。やせるほど恥ずかしい気持ちで「どうしよう、今できることは何だろうか」と悩み、苦しみ、心から「憂いた人」。このような人を「優しい人」と言うのです。漢字って見事に本質を突いていますね。
つまり「地球に優しい」とは、地球に対する「(環境汚染や利己主義を蔓延させて)やせるほど恥ずかしい」という気持ちと考えられます。
そうすると、「地球に優しい会社」とは、「地球に対して(環境汚染や利己主義を蔓延させて)やせるほど恥ずかしい、と憂いたすえに、本当の思いやりを持つようになった人たちが働いている会社」ということになります。一部で指摘されているような、「地球に優しくしてやる」という傲慢な態度のことを言っているのではありません。念のために追記させていただきました。
そう考えると、「地球環境問題に真剣に取り組んでいる会社」だけでなく、「社会貢献を経営理念の最優先に掲げて実践している会社」や「倫理的・道徳的・宗教的な使命感から、いわゆる“足るを知る経営”を実践している会社」なども「地球に優しい会社」といえると思います。
つまり「サステナブルカンパニー」のイメージに近いと言えます。サステナブルカンパニーとは、
①地球上のあらゆる生態系(生物多様性) および社会の持続性を確保するために、
②循環の視点に立ち、
③資源量・廃棄場所・自浄能力という地球の有限性を考慮し、
④企業収益の確保と環境保全とを両立させ、
⑤人間を含むすべての動植物の尊厳を守り、
⑥自社にとっての持続性を確保するために行う経営の諸活動
である、と言えると思います。
これは世界で認識されている定義ではなく、1995年に私が個人的に作成しました。
ただし当時は持続性ではなく永続性という言葉を使っていました。①の生物多様性・⑤についは2017年に付け加えました。世界に認められた定義ではないことにご注意ください。
単純に言えば、①経済的にきちんと利益を上げ(経済貢献)、②環境に対して配慮し(環境貢献)、③社会に貢献(社会貢献)している会社のことです。ちなみにこの①~③をまとめて「トリプルボトムライン(Triple Bottom Line)」といい、企業評価のための重要な指標になっています。
そこでこれからの企業の役割は、「地球に優しい会社」になること、すなわちトリプルボトムラインを充実させることだと思います。
具体的には、「①地球上のあらゆる生態系および社会の持続性を確保するために、②循環の視点に立ち、③資源量・廃棄場所・自浄能力という地球の有限性を考慮し、④企業収益と環境保全とを両立させながら、⑤自社にとっての持続性を確保するための経営」を行うことです。
次回は「地球に優しい会社」について、もう少し詳しく考えてみたいと思います。
コラム著者