こんにちは。ATC環境アドバイザーの立山裕二です。これまでエコプラザカレッジで環境経営やSDGsなどについてセミナー講師を務めさせていただいておりました。
今回は、これまでのまとめを少々とゼロエミッションについて考えてみたいと思います。
■循環型社会について
SDGs実現のためだけではなく、世界的に「循環型社会」に移行しようとする動きが強まっています。
循環型社会とは「廃棄物等の発生抑制、循環資源の循環的利用および適正な処分が確保されることによって、天然資源の消費を抑制し、環境への負荷ができる限り低減される社会」と定義されています(平成12年に施行「循環型社会形成推進基本法」による定義)。
簡単にいえば、「自然資源の過剰利用という現在の状況が修正され、効率的な資源利用や適正な資源管理が可能となることにより、少ない資源でより多くの満足が得られる環境への負荷の少ない社会(平成12年版『環境白書』・・・・少し古い本ですが分かりやすいので引用しました)」のことです。
これを実現するためには、繰り返し強調してきた「発生したごみ・廃棄物をどうするか」という発想ではなく、「ごみ・廃棄物を発生させない」という大原則に立ち戻らなければなりません。
企業活動においても、この大原則が極めて重要になってきています。すでに、ごみ・廃棄物を無造作に廃棄する企業は「社会悪」とみなされ、存続自体が難しくなってきています。
ただし未来ビジョンとして、循環型社会という「循環のような社会」ではなく、「すべてが循環で成り立つ」真の循環社会の構築を描いておく必要があるでしょう。
私は、「真の循環社会」を「リフューズ・リデュース・リユースを徹底し、リサイクル(ここでは再資源化の意味)の輪を少しずつ小さくしながらサイクル(循環)化を促進していき、やがてサイクルだけで成り立つ社会」とイメージしています。
◆企業に課せられた「拡大生産者責任」とは?
2000年5月、大量廃棄社会から循環型社会への転換を掲げる「循環型社会形成推進基本法」が成立しました。基本法は使用済み製品や廃棄物などを循環資源と位置づけ、処理の優先順位を①発生抑制②再使用③再生利用④適正処分、と明確化しています。
具体的には、①まずは循環資源の発生抑制に最大限の努力を払い、②発生した循環資源を再使用し、③それでも発生してしまった循環資源を再生利用(再資源化)し、④どうしても使い切れずに余ってしまった廃棄物を環境に悪影響を及ぼさないように適正に処理する、ということです。優先順位があることを再確認してください。
そして同法では、事業者の責務として「拡大生産者責任」という考え方を導入し、廃棄物(循環資源)の減量化、適正処理に加えて、「製品や容器がリサイクル利用されやすいように、リサイクルの仕組みが整備されれば製品や容器を引き取りリサイクルすること」を規定しています。
ここで「拡大生産者責任(EPR:Extended Producer Responsibility)」とはOECD(経済協力開発機構)が提唱したもので、「生産者が製品の生産・使用段階だけでなく、廃棄・リサイクル段階まで責任を負う」という考え方です。
具体的には、「事業者は廃棄物の発生を抑制し、ごみになりにくい製品づくりの責任を負うほか、リサイクル推進のために必要な場合は使用済み製品を引き取り、リサイクルや廃棄処分を行う義務がある」ということです。
◆リサイクルはサイクル社会への一里塚
企業リスクの中で、ひとたび起こると企業の存続を脅かしかねない脅威は、「消費者(生活者)の価値観転換リスク」です。いわゆる「ネガティブな風評」は、アイドルや著名人など、ほんの一握りのカリスマの発言で瞬時に広がるものです。
最近は、SNSなど少数の個人から爆発的に広がることも増えています。
消費者の価値観の転換は、購買動機が高付加価値(本物)商品、リースやレンタルシステム、成長進化型商品(モジュールや部品を交換するだけで高機能に進化する商品)、メンテナンスサービス事業などから始まっています。
そして、「物ではなく機能を売る」という「サービサイジング」というビジネス形態が進化発展してきています。「物が出ていくほど儲かる時代」から「物が出て行くほど損する(物を使わないほど儲かる)時代」へのシフトです。
これは「環境負荷の低減」が「企業収益のアップ」に直結し、企業も社会も(ひいては地球環境も)良くなるという社会変動の現れだと思います。
しかも数十年先の話ではなく、近未来に予想されることであり、すでにその兆候が現れています。企業規模や業態に関係なく、早急に「わが社にとってのサービサイジングとは何か」の検討を開始することをお薦めします。
■「企業連携(パートナーシップ)」の有効性について
これまで「取り組みへの障壁になっている思い込みを外すこと」を目的に「環境経営」について考えてきましたが、実践のヒントがつかめたでしょうか。
ではここで「企業連携」の有効性について少し触れておきたいと思います。
環境経営の実践に当たって、1社だけで困難な場合は、複数の企業が連携することも考えるべきです。今で言うSDGsのパートナーシップを結ぶということですね。
企業連携としては、①数社が集まってゼロエミッションを目指す、②エコ商品の共同販売(共同倉庫、共同配送)、③地域の企業が集まってグリーンコンシューマー・ガイドブック(あるいはウェブサイト)を作成し、環境に優しい企業や商品を紹介する、などが考えられます。
①については、「ゼロエミッション工業団地」が代表的ですが、何も「国や地方自治体の援助がないと実現しない」というわけではありません。1社からでも仕掛けることは可能です。
例えば、ある企業で40㎝分の廃材が出たとします。通常であれば、これを廃棄物として処理することになりますが、「これを廃材としてしまうのはもったいないので、どこかこれを原料として使うところはありませんか」と地域内などの業者に呼びかけるのです。
SNSを使って全国いや全世界に発信することも試してみてください。
必ず「それだけあれば、うちの工場で製品の原料として使える」という企業があるはずです。そして、ここで出てきた廃材を次の原料としてつなげていくわけです。
これまで廃棄物処理にかかっていたコストが削減できるだけでなく、次の企業に原料としてたとえ安価でも買ってもらえる。これは大変魅力的なことだと思います。
箸にも棒にもかからない(と思えるような)木材の切れ端でも使い道があるはずです。例えば学校に持っていき、技術などの授業に使えばよいのです。「この木の切れ端を使って、何か作品を創りなさい」と子どもたちの創造力開発の教材として役立てることもできるはずです。
日曜大工を楽しんでいる人たちに使ってもらうという手もあります。チャリティの仕組みを作り、集まった寄付金を植林や奉仕活動として有効に活用するのも、社会貢献の一環になるのではないでしょうか。
このような企業連携を地元のロータリークラブ、ライオンズクラブ、商工会議所、商工会、青年会議所、中小企業家同友会、地場産業協同組合、業界団体などが音頭をとり、ぜひ実施していただきたいと思います。
それでこそ多くの企業が集まっている意味があるというものです。そしてこの輪を行政と家庭に広げ、町興し・村興し運動へと進化させる意気込みが欲しいものです。
◆環境経営の根底に流れる発想
以前にも述べたように、「資材にしても廃棄物にしても、間違いなく資源でありお金である」ということです。しつこいかも知れませんが、このことをしっかりと認識しておいてください。
購入資源の減少は資金の余裕を作り出し、廃棄物の減少は、従来捨てていたお金の歩留まりアップと廃棄物処理コストの低減につながります。環境に役立つことは、企業の収益性向上に直結するのです。
■ゼロエミッションについて
ゼロエミッション構想は、国連大学のグンター・パウリ学長顧問が提唱しました。流通、生産工程から出る廃棄物を新たな原料として再利用し、最終的に廃棄物をゼロにするという考えです。
簡単にいえば、ゼロエミッションとは「排出しない」という意味です。具体的には、「A社の出した廃棄物がB社の資材・原料となり、B社の出した廃棄物がC社の資材・原料となり・・・・というような企業連携あるいは生産プロセスのつながりをつくり、廃棄物を環境に放出しない生産プロセスを構築する」ということです。
わが国でも、ゼロエミッション構想があちらこちらで進んできています。とは言っても、「まったく新しい取り組み」というわけではありません。江戸時代は世界に誇る循環社会であり、まさにゼロエミッションを実現していたのです。私たち日本人は、素晴らしい先人の伝統と知恵を謙虚に受け継ぐことも世界に貢献する責任ではないでしょうか。
ただし、最近はゼロエミッションの意味が変わってきています。「工場から排出されるごみをゼロにすることがゼロエミッションだ」と認識している企業が多くなっています。
確かに直訳するとその通りなのですが、提唱者であるグンター・パウリ氏の想いが薄れてきているようで残念です。
意味は変わりつつありますが、国内のゼロエミッションの取り組みとして、エコファクトリー、ゼロエミッション工業団地、エコタウン事業(地域ゼロエミッション)が以前から取り上げられてきました。
◎エコファクトリー
エコファクトリーは、ひとつの工場から排出される廃棄物をいかにゼロにしていくかを考え、自社の生産工程から排出される廃棄物の極小化、再資源化の徹底を図るものです。自社主導で進められることから、比較的すぐに取り組めるという面もあり、ビール業界などで盛んに実行されてきたゼロエミッションの形態です。エコファクトリーは、ひとつの企業内でゼロエミッションを達成しようとするもので、大企業向きと言えます。
◎ゼロエミッション工業団地
これに対してゼロエミッション工業団地は、中小企集がいくつか集まることによるスケールメリットを活かして、ゼロエミッションを実現しようというものです。既存の産集廃棄物処理施設の集約化や協業化など、中小企業育成の目的も含まれています。
今では大企業を巻き込みながら、「SDGsでいうパートナーシップ」で社会の問題を解決しようとする動きが広がってきました。
◎エコタウン事集
エコタウン事集は、1997年度に通産省と厚生省(いずれも当時の名称)との連携事業として創設された制度で、地域振興の基軸として推進することにより、既存の枠にとらわれない先進的な環境調和型まちづくりを推進することを目的としています。
エコタウン事業は、ある一定の地域全体でゼロエミッションを行うという意味で「地域ゼロエミッション」とほぼ同じ概念です。一定地域内の家庭や工場から出る廃棄物をはじめ、雨水利用、コンポスト化、エネルギー体系など幅広い要素を包括しているので、地域全体での取り組みになります。
それぞれの地域、地方、都市の置かれた経済的、社会的、地理的、歴史的特色を生かした環境産業の自立的発展を促進する基盤を整備することにより、環境対策の効率化を図ろうとする狙いがあります。
SDGsの普及と共にエコファクトリー、ゼロエミッション工業団地はもちろん、一般家庭、商業施設、ひいては農林水産業などを巻き込んだ地域ゼロエミッションから「地域興し事業」へと進化・発展しています。
■廃棄物という言葉を使わなくてすむ社会に・・・
ただし、「廃棄物」という言葉を使ううちは「ゼロエミッション」は理想論に終わってしまう可能性が強いでしょう。この世に「廃棄物」や「ごみ」は存在しません。すべてが資源でありお金なのです。
いくらゼロエミッションを心がけたとしても、何かを生産するということは地球上の資源が確実に減少することを意味します。莫大な資源を使うプロセスで”今でいう”ゼロエミッションが成功したとしても、その結果、次世代が使う資源が枯渇してしまったのでは、地球に優しいとはいえません。
大切なことは、「できるだけ資源を使わない」ということです。ヨーロッパではサーキュラーエコノミーにその姿勢が現れています。ただ資源を集めるだけ集めておいて、それを循環させるのではなく、日本の”もったいない”のように、「どうすれば資源の消費を”始めから”極限まで低減できるか」を徹底的に検討しなければなりません。
次回は、サービサイジングについて考えてみたいと思います。
コラム著者