こんにちは。ATC環境アドバイザーの立山裕二です。これまでエコプラザカレッジで環境経営やSDGsなどについてセミナー講師を務めさせていただいておりました。
今回は、「エコデザインとライフサイクルアセスメント(LCA)」について考えてみたいと思います。
■エコデザインを追求する
これまでの省エネ・省資源は「原単位(単品当たり)」で実現してきました。しかしスケールメリット(大型化・薄利多売)の追求によって、その効果が相殺されたどころか、トータルとしてエネルギーや資源の消費量が増えてしまっているからです(リバウンド効果)。
世界的な傾向として、今後要求される省エネ・省資源は「単品当たり数パーセント削減する」という改善レベルではなく、「絶対量として半減あるいは10分の1にする」という革命レベルなのです。これはどうしても達成しなければならない現代人の責任であり、使命です。
そのためには、「エコデザイン(環境に配慮した設計)」や「エコマテリアル(環境への負荷の小さい材料)」を徹底的に研究し、実現しなければなりません。ここで「エコデザイン」とは、ライフサイクル全般にわたって環境効率性の高い製品を設計すること、「エコマテリアル」とは、その高い環境効率性を実現できる材料を選択することです。
エコマテリアルについてですが、単に環境効率性に優れているだけでなく、たとえばプラスチックごみの排出をゼロに近づける努力を続けなければなりません。
■ライフサイクルアセスメント(LCA)とは?
製品の製造から、販売・使用され、廃棄されるまでの間に、どの程度環境に負荷を与えるかを定量的に評価する手法です。
LCAでよく引き合いに出される事例に「テーブルの上にこぼしたコーヒーをティッシュペーパーで拭くのがいいのか、台ふきで拭くのがいいのか」というものがあります。実際に分析してみると、「台ふきの方が環境にやさしいし、コスト的にも得である」という結論が出ています(京都大学の高月紘氏の研究)。
しかし、もっと大切なのは「コーヒーをこぼさなかったら、ティッシュも台ふきもいらない」ということです。経営的に見ても、こぼしたコーヒーを処理するよりも、コーヒーをこぼさない方法を考えることの方が、遙かに重要です。
もっと言えば、「コーヒーそのものが果たして必要なのかどうか」→「水だったらこぼれても何も問題ないじゃないか」→「コーヒーも水も必要のない方法はないのだろうか」というように、考えを発展させていくべきです。このような発想を展開していくことこそ、LCAの本質なのです。
LCAは一般に、製品を企画する際に「原料・素材の調達→製品の製造→販売→使用→廃棄」の各段階で、「環境に対してどのような負荷や悪影響を与える可能性があるか」を考慮することとされています。つまり企画段階の考慮事項であって、実際にどうなるのかを証明するものではありません。
現実には、廃棄の後に続く「蓄積・溶出→他の環境との接触・他の物質との相乗作用→拡散→食物連鎖による生物濃縮」などは、ほとんど考慮されていません。廃棄した後のことも熟慮している企業は、極めて少ないと思われます。反対にいえば、これを考慮した商品の開発は大きなビジネスチャンスになるということです。
◆LCAで考慮すべき「3つの可能性」
人工化学物質の中でも、きわめて安全とされたフロンのような物質でさえも環境を破壊する原因(オゾン層の破壊)となってしまいました。このことは、当時の専門家でさえも予測できなかったということですが、今後もこの種の予測は不可能なのでしょうか。
人類は失敗から学ぶことができるはずですし、また学ばなければなりません。また、フロンの開発当時と違って、科学技術も発達しているし、環境破壊に関する悪夢のような過去の経験も持っています。これらのことから、私は十分に予測可能であると考えています。
新商品を世に出す前に、次の「過去から学んだ3つの可能性」をチェックしてみるだけでも多くの環境破壊が予防できると思われます。
①第1の可能性
今まで自然に存在しなかった物質は、自然にとっての汚染源となる可能性がある。
自然界になかったということは、それを分解する微生物も存在しない確率が高いことを意味します。したがって、それらが環境に放出されたとき、長期に渡って悪影響を与え続けることが予想できます。食物連鎖による生物濃縮や他の物質との複合作用も考える必要があります。核廃棄物や産業廃棄物がその例です。
②第2の可能性
ある条件のもとでは安定かつ安全な物質であったとしても、廃棄されるなどして別の条件下に置かれたとき、環境汚染物質に変化する可能性がある。
これを防ぐには、外の環境に放出された後の移動経路(流通経路)を予測し、そこで遭遇するであろう諸条件を考慮しておく必要があります。フロンが成層圏でオゾン層を破壊したり、無機水銀が海底の微生物や光の作用によって有機水銀に変わったりするのがこの例です。
③第3の可能性
現時点ではまったく問題のないものであったとしても、将来現れる新物質と反応して問題を生じる可能性がある。
たとえば塩素系洗剤と酸性洗剤とが反応して塩素ガスが生したり、乳製品のタンパク質に次亜塩素酸ソーダ(塩素系消毒剤)が作用して、猛毒のシアン化合物が生成する可能性があります。
◆生分解性プラスチックを「3つの可能性」から検討すると
ごみ捨て場を見ると、ペットボトルやトレイなどの量に圧倒されてしまいます。また、生ごみと違ってプラスチックは分解せずにいつまでも環境中に残ります。現在大きな問題になっていることは周知の通りです。さらに、燃えると二酸化炭素や有毒ガスを発生させるため、燃やすに燃やせない状況です。
そこで、「生分解性プラスチック」が環境に優しい素材として注目されていますが、何か問題はないのでしょうか。
ここで、LCAで考慮すべき「3つの可能性」をもとに検討してみたいと思います。
①第1の可能性を検討すると
生分解性プラスチックは、土や水中(水底)の微生物によって最終的に二酸化炭素と水とに分解するので、環境中に残らず「地球にやさしい」といわれているプラスチックです。
自然に存在しているものを使用しているという意味では、汚染源になる可能性は少ないと考えられてきました。
しかし、もし海や湖に捨てられる生分解性プラスチックが膨大になったとすると、分解の際に水中の微生物が酸素をすべて消費し、水域が嫌気性(酸素不足)になってしまう可能性があります。
家庭の生ごみや食品工場などから流れてくるヘドロも、ほとんどが生分解性です。生分解性物質は、環境の許容限界(自浄作用の限界)を超えると、環境汚染物質となってしまうのです。
②第2の可能性を検討すると
生分解性プラスチックは大気中では安定ですが、土の中や水中で分解するということはそれらの環境では不安定であることを意味します。もしプラスチック中に添加剤や可塑剤が含まれていた場合、これらの物質が全部環境中に出てしまうということになります。
③第3の可能性を検討すると
生分解性といっても、一瞬で消えてしまうわけではありません。分解過程で生じる中間物質が他の化学物質、たとえば滅菌用の塩素などと反応してトリハロメタンのような発ガン性物質が発生してしまうかもしれません。
これら「3つの可能性」を検討してみると、生分解性プラスチックが環境中に大量に捨てられたとき、大きな問題を引き起こす可能性があると判定できます。
このプラスチックが「真に環境にやさしい素材」として活躍するためには、次の条件が不可欠となります。
①回収ルート、再資源化ルート(とくに堆肥化システム)を確立し、環境中に捨てられる ことがないように徹底管理すること。
②添加剤や可塑剤に使用する化学物質は、天然かつ無害が実証されたものを使用すること。 間違っても、環境ホルモンや発ガン性の疑いのある物質を使用してはならない。
③分解過程で生じる中間物質が、塩素系薬剤(次亜塩素酸ソーダなど)や活性化学物質と 接触する可能性を徹底的に排除しなければならない。
もしこれらの条件が満たされない場合は、生分解性プラスチックは「地球に優しくない素材」として、今後も非難の嵐を受けることになるでしょう。
◆「捨てること」が根本問題
分解しないプラスチックは「悪の権化」みたいな言われ方をしていますが、「分解しない」つまり「長寿命」という素晴らしい特性を持っているのです。この特性を活かせば、優秀な「環境に優しい素材」になり得るのです。私たちは、プラスチックが分解しないから問題なのではなく、「プラスチックを捨てるから問題になる」ということを認識する必要があります。
このことを認識しておかないと、「どうせ分解するのだから、捨ててもいいだろう」と誤解する人が出てきて、あたり一面が「生分解性プラスチックの山」になってしまうでしょう(人間のモラルの問題でもあります)。そして、それらが閉鎖性水域に流れ込み、死の海・死の湖を復活させてしまうかもしれません。
私たちには、「第二、第三のフロンを世に出してはならない」という大きな責任があります。それが過去から学ぶということなのです。
最近は、生分解性だけでなく一般に流通している普通のプラスチックも大きな問題になっています。「すべてのプラスチックどころか、あらゆる物を捨てない仕組み」を確立しなければならないと(少なくとも私は)思います。
◎ご注意
国際的に話題になっている海洋プラスチックについて少し触れます。
もちろん特に瀬戸内海のような閉鎖性水域、停滞性水域では流木の流入や川から流れ込む有機物の問題もありますが、今日は海洋プラスチックに的を絞りたいと思います。年間約800万トンのプラスチックが海に流れているとされています。
日本は1人あたりのプラスチック容器包装の廃棄量が世界で2位です。
そして海に流れた膨大なプラスチックは、太陽からの紫外線や海の波によってバラバラになります。5mm以下の大きさになったプラスチックをマイクロプラスチックといい、魚や海鳥などの体内から大量に見つかっています。
マイクロプラスチックは有害なものがくっつき、魚が海水といっしょに飲みこみ体内に溜め込みます。そしてその魚を人間が食べることになるのです。
日本では使い捨てのプラスチック製レジ袋の代替品として「生分解性プラスチック」や「バイオプラスチック」の袋が検討されています。
しかし、国連環境計画(UNEP)は「地球温暖化などの面で弊害が大きく、環境負荷の軽減効果が低い」という報告書をまとめています。
日本では2020年7月1日からレジ袋が有料化されていますが、
<1>厚さが50マイクロメートル以上
<2>海洋生分解性プラスチックの配合率100%
<3>バイオマス素材の配合率25%以上
については、有料化の対象外とし推奨しています。
UNEPは、各種のレジ袋の生産から廃棄後までの環境影響に関し、分析したところ、環境中で分解されやすい「生分解性プラスチック」は、ごみ発生は使い捨てプラスチックより小さいとしました。
しかし焼却による温暖化や海洋酸性化への影響、含まれる化学物質による汚染などを考慮すると「最悪の選択肢である可能性が高い」と否定的な見方をしています。
また植物由来のデンプンなどを混ぜるバイオ素材(バイオプラスチック)の袋については、温暖化への影響が大きいと指摘しています。
石油起源の製品と混合されるほか、埋立てると強力な温室効果があるメタン発生の原因になるためで「使い捨てポリエチレン製袋に比べて環境保全に目立った効果はない」としています。
一方で、綿製や紙製の袋は、ごみ問題は小さく、微小なマイクロプラスチック汚染を招く懸念もないなどと評価しています。
ただ私は、「景観の悪化」や「感染症蔓延」などの観点で、無条件の容認は避ける方がいいと思います。
さらに私が心配なのは、生分解性プラスチックやバイオプラスチックの袋を認めることは、ゴミのポイ捨てを認めることにも繋がるという問題です。
しかも海洋の温度で分解する海洋生分解性プラスチックは、まだまだ圧倒的に少なく、海洋の溶存酸素を消費する分解性プラスチックも増えています。さらに有害な添加物も溶け出してしまいます。今のままでは海洋ゴミがさらに増えてしまうことになりそうです。
生分解性はたい肥化して初めて環境への負荷が小さくなります。
そのための仕組みを構築し、例えば設備とか回収ルートの確立などたい肥化の流れを作らなければなりません。
ところで海洋ゴミ増大の最大原因は「使い捨て」です。
ここではっきりさせておきたいのですが、この世の中に「使い捨てのもの」は存在しません。ただ「使い捨てと思い込んでいる(誤解している)ものがあるだけ」です。
エコプラザでは、「使い捨てしないように」というより【使い捨てしないような仕組】を作っている会社の展示が増えています。
しかも、そのような会社が「現在国際的に注目されているSDGs的にも評価され、業績もアップしている」ことを強調しておきたいと思います。
日本でも、今は容認されていたとしても近い将来、規制がかかる可能性があります(私はその可能性が大きい)と思います。そうなったときのリスクを考慮し、今から対策を立て、実践しておくことを強くお勧めします。
次回は、これまでのまとめを少々とゼロエミッションについて考えてみたいと思います。
コラム著者