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特別コラム 第16回「SDGsや環境経営に取り組むメリット その1」

コラム

2021年7月30日

特別コラム 第16回「SDGsや環境経営に取り組むメリット その1」

こんにちは。ATC環境アドバイザーの立山裕二です。これまでエコプラザカレッジで環境経営やSDGsなどについてセミナー講師を務めさせていただいておりました。

今回は、「SDGsや環境経営に取り組むメリット」について考えてみたいと思います。

■SDGsや環境経営に取り組むメリット

環境経営に取り組む際に立ちはだかる「会社が成り立たなくなる」という障壁に対して、ここまでいくつかの例を挙げて反証を試みてきました。「必ず」とは断言できませんが、環境経営への取り組みは利益増につながる大きなチャンスなのです。しかも利益増だけにとどまらず、企業経営にとって多くのメリットをもたらします。

ここでは、代表的なメリットについてまとめておきましょう。

SDGsや環境経営に取り組むことで「企業にもたらされるメリット」としては、以下のようなものがあります。

1.経費節減効果
2.新商品、新サービス(創造性)開発効果
3.信用アップ効果
4.従業員の使命感と社会貢献意識の醸成効果

それぞれについて、事例を交えながら説明しましょう。

1.経費節減効果

経費節減は、企業が利益を確保するための重要ポイントです。

たいていの企業では当然のように「休み時間には蛍光灯を消そう」、「コピー用紙は認証林などから作った再生可能もので、できるだけ裏表を使おう」、「工程の無駄を省こう」というような、経費の節減策が実施されています。

このような経費節減策そのものが、エネルギーや資源の節約につながり、地球環境問題の解決に貢献することは今さら言うまでもないでしょう。

しかし残念なことに多くの場合、これらの経費節減効果は自社利益に対する貢献としてだけ報告されているようです。従業員に対して、たとえば「経費が1000万円節減されたので、当社の経常利益が1億円になった」というような報告しかしていないとすれば、もったいない限りです。

ましてや、経営者が「常にお金儲けのことしか頭にない人」と従業員に思われていたとすると、「うちの社長は本当にケチだからねえ」と陰で言われかねません。

そこで、平素から地球環境や社会問題について従業員にどんどん報告し、「誰かが解決してくれるという消極的な考えではダメだ。たとえ、少しの経費節減であったとしてもその積み重ねが大きな力となる。まずは、わが社から始めようではないか」と熱く語るのです。

この時、先の報告に加えてたとえば「エネルギーや資源の節約によって経費が1000万円浮いたということは、地球に対して1000万円もの貢献をしたということだよ。つまりこの1000万円は地球からの報酬なんだ」といえば、「よし、地球のためにもっと知恵をしぼろう!」という意欲が出てくる可能性が十分あります。

そして使命感を共有した従業員から、自発的にどんどん経費節減のアイデアが出てくるようになるでしょう。たとえば、次のようなアイデアです。

<事例1>

工場の蛍光灯一つひとつにスイッチをつけて、必要な分だけ点灯するようにしたらエネルギーも経費も大幅に節減できた。

これは今では多くの職場で当たり前に実施されていることですが、以前は「職場が暗くなる」とか「作業効率が落ちる」というクレームが出ていました。経費節減のためだけで指示を出していたからです。しかし、「環境改善に貢献する」とか「地球から報酬をいただく」という意識が芽生えると、このような改善案は指示しなくても従業員から出てくるものです。

<事例2>

2の商品で長さ100cmのステンレス棒を60cmずつ使用していたので、それぞれ40cm、計80cmの廃材が出ていた。どちらの商品も50cmでも問題ないことが分かったので、100cmの棒を2等分して使うことにした。その結果、ステンレス棒の使用量が半分になり、しかも廃棄物がほとんど0になった。

数字は少し誇張していますが、この事例に近いことはかなり行われています。問題は「設計者間で情報交換が行われていなかった」ことにあります。商品ごとに材料使用量や廃 棄物量の削減を図ることは当然ですが、商品群全体としても考慮する必要があります。

SDGsにおいても、コミュニケーションの円滑化は大きな課題と言えるでしょう。

<事例3>

ある会社には歯車が1000種類もあった。しかも部品図が数万枚もあり、現場に混乱を来していた。調べてみると、寸法とか歯数とかほんの少しずつ違う図面が多かった。整理したところ、たったの5種類に集約できることが分かった。部品図の管理がルーズなので、設計者によると「図面がどこにあるか分からなかったので、自分で最初から設計した」という。

そのために、図面を探す時間ロス・図面を書く時間ロスはもちろん、紙資源のムダ、歯車製作の際の段取り替え時間ロス、材料ロスなど、どんどんお金が消えてしまっていた。 部品図の管理を徹底するとともに、「部長の決裁がない限り新規部品の追加を認めないことにする」という規定を設けただけで、大幅な経営資源の節約を実現した。

これはある大手企業での実例をシンプルに表現したものです。実は、このことが原因で倒産に至ったそうです。いわゆる「図面倒産」です。しかし、この事例のような規定を設けることで(もちろん他の対策も功を奏し)業績が回復したのです。

◆環境経営の基本も「整理整頓」

整理(Seiri)・整頓(Seiton)に清掃(Seiso)・清潔(Seiketsu)・しつけ(Shitsuke)を加えた活動を5Sといい、一般に次のような意味に使われています。

・整 理:必要なものと不要なものを分け、不要なものを処分する。
・整 頓:必要なものを必要なときに取り出し使える状態にする。
・清 掃:ごみなし汚れなしの状態にする。
・清 潔:ごみなし汚れなしの状態を保つ。
・しつけ:決められたことを守る習慣をつけるよう指導し訓練する。

5Sは「職場環境」を改善するためのスローガンですが、実は「SDGsや環境経営」を進めるに当たっても効果的な姿勢でもあるのです。「職場環境の改善」が「地球環境や社会問題の改善」にもつながるというわけです。

上の一般例を環境経営の観点で表現すると次のようになります。

・整 理:分別を徹底し、必要なものを有効に使い、不要なものを適正処分する。
・整 頓:必要なものを必要なときに必要な分だけ取り出せるようにしておく。
・清 掃:ごみが出たときには取り除く(ただし極力ごみが出ないように意識する)。
・清 潔:ごみがない状態を維持する。
・しつけ:決められたことを守る習慣をつけるよう指導し訓練する。

これらは、当たり前といえば当たり前なことばかりですが、まだまだ十分とは言えない会社が多いのではないでしょうか。

そもそも「何が必要で、何が必要でないか」の基準が明確でなければ、絵に描いた餅になることは間違いありません。ある企業では「半年間使わなかったものはごみとして処分する(たいていの場合は廃棄する)」と決めているそうです。

もちろん、その前提として「購入前に本当に必要なものなのかを考慮する」「(処理費用や面倒さなど)捨てるときのことを考えて購入する」「ごみを捨てるのはお金を捨てることと認識する」などが不可欠であることは言うまでもありません。

また、「出たごみを取り除くのではなく、ごみが出ないようにする」には、「ごみは汚いものではなく資源を有効活用し損なったもの」と捉えることも大切です。

◆分別の意味

ごみの分別を促すために「混ぜればごみ、分ければ資源」というスローガンがよく使われています。しかしこれは、「もともと資源だったものを混ぜたらごみになり、混ざり合ったものを分ければ資源になる」という意味ではありません。

実は、「最初から混ぜなければ、ずっと資源」であり、「混ぜればごみ、混ぜなければ資源のまま」とするべきでしょう。

ごみ箱の中に新聞紙とプラスチック類とを一緒に捨てておいて、後で別々に分ける。

これでは時間と労力がかかります。だったら「最初から混ぜなければいい」のです。

つまり、「分別」とは、混ざってしまったを後で選り分けるのではなく、「最初から混ざらないように工夫しておくこと」なのです。これも当たり前のようでいて、ごみ出しの直前にあわてて分別している光景をよく目にします。

◆ごみ・廃棄物は資源

環境経営を実のあるものにするには、「ほとんどの廃棄物やごみは資源」と信じることが不可欠です。これも、もはや当たり前のことになってきましたが、そう信じている人でも「ごみの一部が資源」と表現することが多いようです。

しかし、実は順番が逆で「資源の一部がごみ」なのです。

言い方を変えると、ごみとは、「資源を使い切ろうと努力したものの、どうしても残ってしまった部分で、しかも分別せずに散らかってしまったもの」です。

山や森林地帯の落ち葉が「肥料や腐葉土」という素晴らしい資源になるのに、都会の公園や道路に落ちた枯れ葉がどうして「ごみ」といわれるのでしょうか。なぜ工場内のプラスチック類やビン・カンは「資材」といわれ、路上や川底のそれらは「ごみ」と呼ばれるのでしょうか。ごみとは、本来の居場所とは違うところに散らばった資源。このような視点を持つことが「SDGsや環境経営」には不可欠です。

<事例4>

長さ100cmのパイプを20cm切断し、80cm分をある装置内に使っていた。現在の担当者が、「装置は十分のスペースがあるにも関わらず、せっかくJIS規格に準拠している定尺品をわざわざ切断している」ことに疑問をいだき、その理由を調べてみることにした。

しかし、「以前からそうしてきたから」という納得しがたい理由が相次いだので、すでに引退していた設計者を訪問し訪ねてみた。すると、「初期の装置は小型だったので、定尺品だと入らなかったので仕方なく切断して使った」ということが判明した。すぐに設計変更し定尺品を使うことにすると、切断工程が不要になり加工時間の短縮が図れただけでなく、廃棄物量を大幅に削減することができた。

この成果により会社から表彰され、ますますヤル気を起こした担当者は、「いっそのこと1ランク短い定尺品(例えば70cm)を使えないか」と考え、現在の処理能力を維持したままで初期よりもさらに小型化した装置を実現させた。当然、装置に使用する資材・資源量と装置そのものの運転時のエネルギーが大幅に削減できた。

よく似た例で、「ローストビーフを蒸し焼きにするときになぜミミ(カットエンド)を落としていたのかと調べたら、最初はオーブンが小さすぎて入らなかったから」という話があります。「ホントの話かな?」と思ってしまうくらいの笑い話ですが、このようなことは案外多く見受けられます。「以前からしていたから」とか「当たり前だと思っていた」ことが、この種の問題の発見を遅らせてしまうようです。

ところで、この事例のように規格品や標準品を使うと、安い価格で購入することができます。しかも加工プロセスがその分不要となり、当然ですが、人・物・金という経営資源の節約に直結します。これはとても価値あることだと思います。

しかし、この事例の重要なポイントは「1つの成功体験がヤル氣を呼び起こし、さらなる改善や改革の呼び水になる可能性がある」ということです。

前半の事例に対して、「80cmから100cmになって、結局は資材の使用量が増えているじゃないか。これでは、環境負荷という観点では改善とは言えない」とクレームをつける人も出てくるでしょう。現実に、あるリサイクル活動だけを見て、「これは環境負荷を増加させるので無意味だ」と断言する人もおられます。

しかし経営はある一点だけでなく、総合的に見なければなりません。事実だからと言って従業員のヤル氣をそぐようなことをしてはいけません。それよりも、まずは効果を上げたことを認めて評価し、さらなる改善・改革意欲をかき立てる配慮が不可欠です。

やはり、経営の原点は「良好な人間関係」にあるのです。

次回は、今回に引き続き「SDGsや環境経営に取り組むメリット(その2)」について考えてみたいと思います。

コラム著者

サステナ・ハース代表、おおさかATCグリーンエコプラザ環境アドバイザー

立山 裕二