こんにちは。ATC環境アドバイザーの立山裕二です。これまでエコプラザカレッジで環境経営やSDGsなどについてセミナー講師を務めさせていただいておりました。
今回は、「SDGsや環境経営に取り組むと会社が成り立たない」について考えてみたいと思います。
この種の思い込みも非常に多いようです。「環境対策はコストがかかりすぎる」というのが代表的な意見です。
ただ、実際に環境経営に取り組んだことのある人よりも、「誰かから聞いた」「成り立たないと思う」など推測からの意見が多いように感じます。
結論を先に述べると、「SDGsや環境経営に取り組むと会社が成り立たない」ではなく、「SDGsや環境経営に取り組まないと会社が成り立たなくなる」ということです。その理由をこれから明らかにしていきたいと思います。
SDGs時代にあってサステナブル経営が果たすべきこと・その3
■廃棄物を捨てることはお金を捨てること
では「環境対策はコストがかかりすぎる」という意見について考えてみましょう。
例えば「廃棄物を有効に使おう」と言うと、「廃棄物処理にお金が掛かる」という反論が返って来ます。
ここで大切な事は、決済権のある人、買ってくれる人に「今、あなたが捨てている廃棄物というのは、実はお金」という現実をいかに伝えるかです。
学者さんに多いのですが、「廃棄物削減しようとすると、必ずコストがかかる」と言う方がおられます。もちろんどんな場合でも、多かれ少なかれコストが発生するのは当たり前です。
しかし、「コストがかかるということは、コストを受け取る側、つまり売る側が存在すること」を意味します。コストを支払う側から受け取る側に変わることができれば、廃棄物処理が利益の源泉になります。廃棄物処理業は当然として、自社で培った廃棄物を削減するためのノウハウや管理ソフトウェアなどを商品化することも、立派な環境ビジネスといえます。
話を元に戻します。
例えば100万円で購入した資材を10%捨てたら、10万円というお金を捨てたことになります。
10万円捨てておいて、「その捨てたお金を減らすにはお金がかかる」という奇妙な話をしていることに氣づく必要があります。
多くの人は「廃棄物は汚いもの」と思い込んでいます。廃棄物と聞くと条件反射のように「なれの果ての姿」を思い浮かべます。油まみれの錆びついた機械。ハエがたかり異臭を放つ生ごみ。
しかし廃棄物になった時点では、汚いものでなく材料・素材そのものです。汚いものだとすると、汚いものを使って商品を作っていたことになります。また生ごみも、できた直後というのはご馳走そのもの。私たちは汚いものを食べていたのではなく、ご馳走であり、栄養を食べていたはずです。
カレーはカレー、ケーキはケーキ、お肉はお肉。それがしばらく経って、腐敗しハエがたかる。私たちは、このなれの果ての姿に生ごみというレッテルを貼っているのです。
私たちが「ごちそうさま」と言った瞬間に、ご馳走が生ごみという名前に変わる。
この矛盾を心で感じることが、廃棄物を減量し、ひいては環境経営を実のあるものにするためのスタートなのです。
■捨てているお金をいかに減らすか?
以前、『PRTR』について講演したことがあり、その際に次のようなお話をしました。
ベンゼンやトルエンなどの有機溶剤を買ってきました。
そのうち、これだけ使いました。
そしてこれだけ回収しました。
でも、これだけどこかにいってしまいました。
少々乱暴な表現ですが、これを登録して報告するのが『PRTR制度』です。
ある学者さんが某工業地帯の地図を示して、「赤く塗っているところは溶剤がたくさん揮発している所ですね。薄いところは少ないところです。それを減らすにはお金がかかりますね」というお話をされたのです。
でも、さらに重要なことがあります。
色が濃いところほど、捨てているお金が多いということです。
お金を出して溶剤を買ったのですから当たり前ですね。
だから、「お金を捨てない方法」つまり「溶剤を捨てない(溶剤が漏れない)方法」を考えるべきなのです。「タンクや配管から溶剤が漏れない構造にする」、「溶剤そのものを使用しないプロセスに変更する」など、様々な対策を考えてみてください。
では、ガケから1万円札を落として、「落とした1万円札を回収するにはコストがかかる。明らかにコストが1万円を遙かに超えるので、回収しない方が得」という意見はどうでしょうか。
いかにも正しそうですが、「1万円札にヒモをつけておいて、万が一の時にも落ちないようにしておく」「そもそもガケの上に1万円札を持って行かないと決めておく」という予防策を講じておく方が遙かに効果的ですね。
もう一例、「こぼれたコーヒーをフキンで拭くのとティッシュで拭くのとでは、どちらが環境負荷が小さいか」という議論についてはどうでしょうか。
科学的には、LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)の研究でフキンで拭く方が環境負荷が小さいことが分かっています。しかし学者さんならそれでいいのかも知れませんが、企業人としては合格点はもらえません。
こぼれたコーヒーをどうするかではなく、コーヒーがこぼれないように工夫することが大切です。
どうすれば、こぼれないのか。
こぼれたとしても、例えば水だとしたら・・・・。
もし水もコーヒーも必要でなければ・・・・。
実は『LCA』というのは、こういう発想を進めていく際に役立てるべきものなのです。
ところが今は、「AかBかどちらかを決める手段」になっています。
企業人としては、専門用語の知識を詰め込むよりも、「いかに捨てているお金を減らすか」という知恵を絞る方が重要です。廃棄物にしても削りカスにしても、買ってきた素材の一部なのですから、元々はお金なのです。
この素材をどういうふうに使い切ったら(活かし尽くしたら)良いかを考えるのです。
もっと言えば、素材を自分の子供さんだと想像してみることです。
恐らく、「最後まで使い切ってあげたい」、「すべての能力を活かしてやりたい」と思うはずです。すると、そのうち「従来と違う切り方をしたら材料全部が使える」などの発想が出てくると思います。
具体例として、私が以前に実施したことをご紹介します(数字そのものは、分かりやすいように変えています)。
<具体例1>切断方法を変えるだけで大幅な利益増を実現!
従来は、直径10cm、長さ1mのステンレスの丸棒を10cmずつ切断していました。
すると10個取れる・・・・はずはないですね。
100÷10=10。
数字(算数)的には10なのですが、切りしろがあるので9個しか取れなくて8cmの廃棄物が出ていました。この廃棄物はお金を支払って処理業者に処分してもらっていました。
この現状に疑問を持ったある人が「10cmでなくても、9.8cmで良いのじゃないか」と考えたのです。
とはいうものの、強度が弱くなったり、他の部品に影響を及ぼすとしたら困ります。いきなり変更するわけにはいきませんが、調査した結果、強度も弱くならないし、他の部品への影響もなかったのです。
そこで10cmから9.8cmに変えたら10個きっちり取れたのです。廃棄物はわずか2mmでした。0.2cm。廃棄物量が何と40分の1になったのです。
これをどうして、「環境を保護するとお金がかかる」と言うのでしょうか。
もちろんお金がかかることも多いのですが、「すべてではない」のです。
同じ値段で買ってきたものですから、製造単価が安くなります。
9個が10個になったのですから、1個分売上が増えます。
同じ個数をつくる場合、素材の購入量が少なくてすみ仕入れコストが下がります。
しかも廃棄物処理コストが著しく削減できます。
トータルで見ると、明らかに利益増ですね。
よく経営者の方から「環境に取り組んで、いくら儲かるのか?」という質問を受けます。
もちろん、企業経営には様々な要素が関連しあっているので、「いくら儲かるか」を即答することはできません。
この場合、次のように応えます。
「社長さん、いくら儲かるかは即答できませんが、いくら損しているかはすぐに分かります。いまごみや廃棄物として捨てているのは、お金を出して買ったものの一部ですから、明らかにお金ですね。廃棄物と称してお金をジャンジャン捨てておいて、利益が少ないというのは虫が良すぎますよ。厳しい言い方かも知れませんが、お金を捨てているところにはお金は寄りつきません。お金は寂しがり屋です。お金は大切にしてくれるところに集まってくるのです。社長さん、いつまでお金を捨て続けるのですか?と」。
これは私自身への戒めを込めて、講演会などでよく話題にしています。
すると、「そういえば、先代社長がそう仰っていたなあ」「忘れていました。これこそが当社の創業時の精神でした」「廃棄物って捨てたお金。お金を捨てておいて、捨てたお金に廃棄物処理費用としてお金がかかる。まさにブラックユーモアですね」などの感想が出てきます。
例えわずかな割合でも、「廃棄物という名のお金を捨てている現状」に気づく人が生まれることに、かなり大きな幸せを感じます。
このお話は、皆さんがお客様にエコプロダクツの商談をするときにも応用できます。
皆さんがお客様に提案やアドバイスをする時に、「汚い物をどう処理するか」という発想よりも「お金を捨てないためには、こうしたら良い」という働きかけのほうが喜ばれるのではないかと思います。
またSDGsの「つくる責任、つかう責任」に直接貢献しますし、SDGsはすべてつながっているので他の目標達成にも役立ちます。
<具体例1>光熱費と売上高との関係を知り、省エネ意識が向上!
◆あなたの会社の「売上高対純利益比率」は?
電気代やガス代などの光熱費は現金で支払われます。会計上は一般管理費ですが、実態は純利益(現金)から出ていきます。
さて、ここで質問です。
皆さんの会社では光熱費を支払うための現金を生み出すために、売上をどのくらい上げないといけないでしょうか?
売上高に対する純利益、つまり「売上高対純利益比率」です。
例えば100:1として考えてみましょう。
この場合、「1万円の純利益を得るために100万円の商品を売らないといけない」ことになります。
営業マンに「営業部門として電気代などの光熱費を1万円削減しなさい」と指示したとき、「自分たち営業マンは100万円単位の仕事をしているのに、たかが1万円くらいでギャーギャー言うな」と言い返されたとしたら、あなたはどう対応しますか?
もうお分かりのように、営業マンの理屈はメチャクチャですね。
まずは、「光熱費としての1万円は純利益から出ている」こと、そして「あなたが必死になって獲得した100万円の売り上げが、1万円の光熱費の無駄遣いで吹き飛んでしまうんだよ」と営業マンに伝えてください。
すると、「自分がせっかく100万円の売上を上げているのに、そんな事で利益が減るのがバカバカしい」と思うはずです。「100万円の商品を売るのに、自分がどれほど苦労しているか分かっている」からです。
純利益1万円と売上100万円が、実は同等の価値がある。
これはほんの一例ですが、私たちが普段当たり前に思っていることを少し見直すだけで、いわゆるビジネスチャンスだけではなく会社の経費も削減できるのです。
さらに良いことに、社会から「さすがエコ商品を扱っている会社だけに、環境に優しいですね」と賞賛されるようになるかも知れません。
少なくとも、「お宅の会社は環境に優しいと言うだけで、環境配慮がメチャクチャですね」、「環境のこと考えていないですね」と指摘されないようにしたいものですね。
次回は、「SDGsや環境経営に取り組むメリット」について考えてみたいと思います。
コラム著者