同志社大学名誉教授・おおさかATCグリーンエコプラザ顧問の郡嶌 孝氏による特別コラムの第12回を配信いたします。
5月4日は、「みどりの日」。「自然に親しむとともにその恩恵に感謝し、豊かな心を育む日」である。「緑の日」は、制定時には、4月29日であったが、2007年から、4月29日は「昭和の日」となり、5月4日が、三連休の「国民祝日の日」となった。
「緑」といえば、何をイメージするだろうか。日本人の多くにとって、それは、日本の自然、緑の山々や緑の樹々を思わせるだろう。自然=緑である。しかし、このイメージは、世界共通でもないらしい。たとえば、ドイツの多くの人々にとって、「緑」は「蛙」である。「緑の蛙」=「青蛙」である(日本語における古来の色表記は、赤・青、黒・白の四色だったことが知られている。日本人が、青と緑を区別し始めたのは、平安時代末期から鎌倉時代にかけての頃だといわれる。これは、言語の成熟とともに青と緑が区別されるようになり、分化していったと考えられている。)。蛙はドイツの童話に多く登場する動物であり、親しみもあり、また、蛙は自然の変化を敏感に感じる動物であり、自然の変化に弱い動物でもある。蛙が減ることは自然がなくなっていることを意味する。
さらに、このドイツでは、社会的には、緑は「変革」を意味する。当初、ドイツの「緑の党」は、保守派を含む素朴な自然保護から出発したが、やがて、反核・反原発運動を境にして、「現状を改革する」党に脱皮する。ここから、緑=社会の現状打破=社会の変革・改革のイメージがつくようになる。
そもそも、このようなイメージは、チャールズ・A・ライク「緑色革命(the Greening of America )」(通常、緑色革命は農業革命を指す。)からくる。ライクは、本書において、1960年代の若者の対抗文化とその価値観を讃える。60年代は、公民権運動・反戦運動・環境運動等によって社会がアノミー化した時代であった。大人(エスタブリッシュメント)は、対抗文化に眉を顰めたのに対して、ライクは対抗文化こそ、今後、若者が社会進出を図っていくなかで、世界観を根本的に変革し、体現されていく価値だと論じた。このGreening (緑化)こそ、「変革」を示す。
ドイツの反核運動や反原発運動は、自然保護運動とともに、現状の打破・変革を求める運動でもあった。とりわけ、ドイツ社会民主党(SPD)W・ブラント政権の誕生(1969年)は、それまでの「自然保護」がヒットラーによるナチスドイツの政権維持のための道具となっていたこともあって、戦後のドイツにおいて「自然保護」=ナチス思想として、大気汚染がひどくなっても、長きにわたって、口にすべきものではなかった。ブラント政権は、連立政権であったが、連立相手の自由民主党ハンス=ディートリヒ・ゲンシャー党首が、内務大臣に就任し、ナチスの「自然保護」に代わる「環境保護」という造語をつくることによって、初めて、「環境問題」を議論できる下地をつくる。もともと、環境問題に熱心であった(よくドイツ人のことを「森の番人」ということがあるが、彼らにとって森は人生そのものである。シュバルツバルト(黒い森)の立ち枯れ・衰退は彼らに大きなショックを与えた。)ドイツ人にとって、「環境保護」はその後の彼らの基本的な政策となり、1994年、基本法(憲法)20条aで「国家は、次の世代に対する責任において自然環境を保護する」環境保護条文(エコロジー国家)によって、国家の役割(緑の国家)を明確にした。
緑とは、その樹々が、春になると、青い芽を吹き、夏になると木陰をつくるほど、青々と葉を茂らせ、秋になると、古い葉を紅葉させながら、葉を散らし、冬になると、やがて来るであろう春に備えるように、年々新しく芽を更新する社会に「若々しい」活力をもたらす色なのである。
コラム著者