同志社大学名誉教授・おおさかATCグリーンエコプラザ顧問の郡嶌 孝氏による特別コラムの第6回を配信いたします。
ケイト・ラワースの「ドーナッツ経済学」は、環境制約のもとで社会的に公正な基盤に立って経済活動はなされるべきだとして、「よりグリーンでより公正な」経済社会の構築を目指す経済学である。この主張は、国連のSDGs取り組みの下敷きになったし、オランダ・アムステルダムの経済社会づくりにも反映されている。環境制約において、彼女が強調するのが、経済活動によって、気候変動と生物多様性は、環境制約を超えている、ということである。
2020年は、生物多様性条約締約国会議(COP15)が、開催予定であった。しかし、会議は、開催は2021年に延期された。COP15では、「生態文明」について議論され、COP10で採択された「愛知ターゲット」に続く次の目標が議論される予定であった。
また、気候枠組み条約とパリ協定の締約国会議(COP26)も2021年に延期された。COP26では、各国が削減目標(NDC)見直し・再提出によって、世界全体の排出量削減水準をどれだけ引き上げることができるかに注目が集まっていた。両会議は仕切り直しとなった。
これらの会議が延期に追い込まれたのは、コロナ感染症の大流行である。COP26が延期になった一方で、毎年ドイツが開催している「ペータースブルグ気候対話」は4月にWEB会議で開催された。この会合の議論は、EUの「グリーン・ディール」のより具体的な政策展開「グリーン・リカバリー」計画であった。
「グリーン・リカバリー」とは、コロナによってダメ-ジを受けた経済社会を、ポストコロナに向けて、気候変動によって生態系の破壊が感染症の大流行を招いたとして、災害や感染症にレジリエントで持続的かつ脱炭素の経済社会に、そして、生態系と生物多様性を保全する経済社会に「グリーン」な経済復興を目指そうというものである。その後、EU委員会は、「グリーン・リカバリ-)計画を公表している。
多くの国々がロックダウンを余儀なくされたが、インドでは、この間、首都からヒマラヤ山脈が眺められたという。経済活動の停止が皮肉な結果をもたらした。一方、いち早く経済復興に乗り出した中国では、再び、大気汚染が深刻となっている。「元の戻ること」がノーマルなのか、アブノーマルなのか、ポストコロナの経済社会は、そのありようを問うている。EUは、ポストコロナに「ニューノ-マル」な経済社会を模索している。
一方、アメリカでも、若者たちの運動「サンライズ運動」から発展し、ナオミ・クラインや民主党進歩派の連邦議員、バーニー・サンダース上院議員やアレクサンドラ・オカシオ・コルテス下院議員の支援を得て、「グリーン・ニュー・ディール」政策が提案されている。「グリーン・ニュー・ディール」は、100%再生エネルギーの導入・「グリーン・インフラ」整備と「グリーン・ジョブ」創出によって社会における誰もが包摂され格差なき雇用の拡大にその重点を置いている。社会が二極化し、分断・分裂しつつある現状に危機感を強め、経済のみならず、社会の再興が視野にある。
SDGsにおける「経済と社会と環境の鼎立」のみならず、「健康・公衆衛生」のありようもポストコロナにおける経済復興では十分に視野に入れる必要がある。
「グリーン・リカバリー」にしろ、「グリーン・ニュー・ディール」にしろ、いずれにしても、ポストコロナの経済社会は、「ニュー・ノーマル」へと動いている。
コラム著者