同志社大学名誉教授・おおさかATCグリーンエコプラザ顧問の郡嶌 孝氏による特別コラムの第5回を配信いたします。
「廃棄物の優先順位」という考え方がある。もともとは、欧州の廃棄物政策における優先順位を指す。prevention (発生回避)reuse (再使用)recycle (再生利用)の順で上位を優先する。それができなければ、次善の政策を取る。決して、下位から上位ではない。一般的には3R(reduce・reuse ・recycle)の方がなじみやすい。3R 政策は、もともと、カナダのトロントの廃棄物政策であったが、ゴロのよさからこちらが一般的になった。
LCA によれば、必ずしも、この優先順位が環境負荷の少ない順にならない場合も生じている。そこで、この原則は、一般的な原則と考えた方がよい。。
ただ、Reduce が曖昧になるという指摘も多い。Prevention は、廃棄物を発生させないこと、発生の防止・抑制・回避を意味し、マクロ的なごみの総量を減らすこと、上流・動脈−経済活動(生産・消費)での減量を意味する。 しかし、ごみを減らすとしても下流・静脈−処理活動(廃棄・処理)での減量、すなわち、焼却・埋め立て量を減らすこと、排出総量は変わらなくても、リサイクルすることによって、焼却・埋め立て量を減らすこともごみの減量と言われる。 Reduce がこの上流でのマクロ的総量を減らすのを意味するか、排出における焼却・埋め立て量を減らすか、曖昧となるという指摘である。
ReduceとRecycleの関係についても、トレードオフが指摘されている。最近では、マテリアルを減量化するため、たとえば、PETボトルの軽量化・肉薄化が進んでいる。PETボトル一本当たりのマテリアル量を減らす。従来よりも軽量・肉薄のため、より多くを集めることがリサイクルには必要となる。Reduceを優先すれば、当然のこととは言え、Recycleは (とりわけ、空気を運んでいると言われる収集は圧縮しなければ、)リサイクルコストの大幅なアップをもたらす。
Reduce と同じようにRecycle についても曖昧さが残る。
一つは、リサイクルの質に関する問題である。リサイクルと言っても、ホリゾンタル・リサイクルとカスケード・リサイクルに分けることが可能である。
一般的に、リサイクル・マテリアルはバージン・マテリアルに比べて、質が劣るとされる。そのため、もとの製品の原料として利用されるよりも、質の高さをあまり要求されない製品へのマテリアル転用がなされる。ダウンサイクルする度に、質が劣化し、最後は、結局、焼却・埋め立てをせざるをえない。この場合のリサイクルの意義とは、焼却・埋め立てまでの延命である。
問題は、焼却・埋め立ての延命の便益をリサイクルするコストとの比較によって、リサイクルの意義が決まる。これをリサイクル・マテリアルと呼ぼう。
これに対して、アップサイクルはマテリアルの付加価値を高め、繰り返し繰り返しマテリアルとして再利用できる質の高い(品質が変わらない)リサイクルを指す。これを循環マテリアルと呼ぼう。リサイクル・マテリアルが、必ずしも、バージン・マテリアルの削減に繋がらない可能性を持つのに対して、循環マテリアルは、多いにバージン・マテリアルの削減に資する。
今ひとつは、我が国だけの呼び方(和製英語)として、エネルギー回収(リカバリー)をサーマルリサイクルと呼ぶリサイクルである。 確かに、ただ、焼却するのではなく、熱・エネルギー回収しているとはいうものの、今日の「プラスチック問題」において、プラスチックの代替として、コンポスト(自然循環)によって焼却・埋め立てを回避する生分解性プラスチックが登場しているが、コンポストする代わりにサーマルリサイクルと称して生分解性プラスチックが焼却されかねない。
先進国が「循環経済の構築」「脱焼却・脱埋め立て」の「ごみゼロ」を目指している動き(リユーザブル・リサイカブル・コンポスタブル)から目をそらし、目先に囚われた3R 政策の展開は避けられるべきである。
コラム著者