おおさかATCグリーンエコプラザでは環境に関する様々な情報発信を行っています。
今回は2019年11月14日(木)に開催された「SDGsに関する環境省と企業の取り組み」から 環境省 地球環境局 国際連携課 課長補佐 尼子 直輝氏による講演「SDGsに関する環境省の取り組み」を掲載いたします。
巨大な環境マーケットがそこにある!
SDGsに関する環境省と企業の取り組み【エコプラザSDGsセミナー】
貧困、飢餓、エネルギー、気候変動、環境汚染、国家間の紛争など、私たちを取り巻く社会には実にさまざまな問題が、複雑に絡み合いながら存在しています。
そんな世界をポジティブに変えていくひとつの指針として、2015年に国連によって採択された「SDGs=Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」。国際社会全体の 2030 年 に向けた環境・経済・社会についてのゴールとされ、日本においても政府や自治体はもちろん民間の中にも、目標に向けて取り組む企業や団体が増えてきています。
そこで、おおさかATCグリーンエコプラザは、関西圏の企業・事業者さまに向けて「SDGs」の周知を行うため、2019年11月、「環境省 地球環境局」の尼子直輝氏を招いたセミナーを開催。環境分野の「SDGs」についてお話しいただきました。
パラダイムシフトはすでに起きている
「SDGs」について、ここ一年ほどで急激に認知が広がってきたという印象をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
実は「SDGs」の前身に、「MDGs=Millennium Development Goals(ミレニアム開発目標)」がありました。この「MDGs」は、8つのゴールと21のターゲットを設定した、いわば途上国の目標で、環境問題とは関連が弱く、貧困対策に重きが置かれていました。
一方の「SDGs」は、17のゴールと169のターゲットを設定し、全世界的な目標とされ、環境との関連も強化されました。
しかしながら尼子氏は、「飢餓をゼロに」や「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」を引き合いに出しながら、前提を間違えた取り組みは、目的に反する結果を招くことになると指摘します。
尼子氏:例えば、エネルギーをみんなに届けたいがために、石油や石炭などを選択してしまうと、温暖化や大気汚染などにつながってしまいます。また、食糧を世界中に行き届かせようと、過度な農地開発や森林開発を行うと、環境面から逆効果になります。そういう複雑な関係にあることをまずは知っていただければと思います。
さらに尼子氏は、スウェーデンの研究機関「ストックホルムレジリエンスセンター」が作成している「ウェディングケーキモデル」を引用しながら、環境に関するターゲットの達成が「SDGs」達成の基礎になると話します。
この図は、陸地における農業林業、海洋における漁業や水、気温などの自然資本が健全であるからこそ、その上にある社会資本や財務資本・知的資本・人的資本・製造資本が成り立つことを示しています。ドーナツ型になっているのは、社会資本やその他の資本は自然資本の枠の中でしか成長できないことを表すため。自然資本のターゲットをクリアすることが成長の大前提となるのです。
日本政府も、2016年5月の閣議決定で「SDGs推進本部」を設置。実施指針を作成し、8つの優先課題を設定しました。環境省は特に、「省・再生エネルギー、気候変動対策、循環型社会」「生物多様性、森林、海洋等、環境の保全」に取り組んでいます。
また、環境省では「第五次環境基本計画」を策定。「地域循環共生圏の創造」をキーワードに、森里川海の恵みを生かし、エネルギーや人的資源などにおいて農山漁村と都市が支え合う自立分散型の地域の有り方を模索しています。
その際には、あらゆる観点からイノベーションを創出し、経済・地域・国際等に関する諸課題の同時解決を図り、将来に渡って質の高い生活をもたらす新たな成長に繋げていく「環境・経済・社会の統合的向上」が不可欠になります。
こちらの図は、「プラネタリー・バウンダリー」と呼ばれ、9つの課題から地球の限界を図式化したもの。内側の水色の丸の中に収まる範囲の負荷であれば、地球は許容できるとことを表しています。すでに気候変動、絶滅の速度、土地利用変化、生物地球化学的循環という領域において、地球の限界の領域を超えていることが見て取れます。私たちの経済活動も、この水色の丸の枠内に収まる程度の環境負荷で行われないと、持続可能ではないということになります。
尼子氏:こういった考え方が主流になる中で、「SDGs」や「パリ協定」も採択され、社会は大きな転換期を迎えています。新たな文明社会への“パラダイムシフト”はすでに起きていると私は思っています。
「SDGs」が実現した「地域循環共生圏」
環境省の「第五次環境基本計画」のキーワードとされる「地域循環共生圏」。この概念は、「ローカルSDGs」とも呼ばれ、各地域が地域資源を生かして自立分散型の社会を形成しつつ、近隣地域と補完し支え合うことで創造するものであり、環境・社会・経済の課題が統合的に解決することにより、「脱炭素」と「SDGs」が実現した地域社会像を表します。
「地域循環共生圏」の事例としてふたつの地域が紹介されました。
ひとつは兵庫県豊岡市。1965年から市をあげてコウノトリの人工繁殖・放鳥に取り組み、現在では100羽を超える数が野外に生息するようになっています。同時に、コウノトリの餌となる生き物が生息できる環境づくりも推進。その過程で生まれた農薬・化学肥料に頼らない「コウノトリ育む農法」で作られたお米は、通常よりも高額で取引されるようになり、また、城崎温泉などを組み合わせた「コウノトリツーリズム」も盛況となっています。
そしてもうひとつ、山口県の南部エリアでは、企業と自治体が協働で新たな再資源化技術を確立し、自治体の処理負担を軽減することに成功。再生物の販売による収入が増加し、安価な原料調達、環境負荷軽減も実現しました。食品小売業者から食品廃棄物を一体的に収集運搬して飼料化し、近郊の養鶏場で利用。得られた卵を小売店に還元するという循環が生まれています。
世界には巨大な環境マーケットがある
人口減少が進む日本の内需は限られてくる一方で、「アジアを初めとして新興国には巨大な環境マーケットがある」と尼子氏は強調します。
また、環境省は、途上国のインフラとレガシーのない強み、分散型システムのメリットや新しい技術への順応性、リープフロッグの可能性や「SDGs」の需要を生かして、「コ・イノベーション(共創)による途上国向け低炭素技術創出・普及事業」を進めています。
カンボジア、フィリピン、ラオスでは、「ハイブリッド車の基幹部品のリユースによる電動車導入モデルの開発実証」も行われています。中古のプリウスから回収した部品を「トゥクトゥク」に装着し、電気自動車にリノベーション。部品の回収から、電気自動車の製造まで現地で持続可能な技術レベル、車両の走行性能、ドライバー・ユーザーの満足度、そして電動車を用いたタクシーを導入する際の課題抽出と対策が検証されています。
経済界はもちろん、投資の世界にもパラダイムシフトが起きていると尼子氏は話します。
尼子氏:近年、「ESG投資」という言葉が聞かれるようになってきました。Environment(環境)、Social(社会問題)、Governance(統治)の頭文字をとった言葉で、投資家もより社会や環境に対して健全なビジネスに優先して投資をする時代になりつつあります。社会全体が「ESG投資」などをひとつのきっかけとして、「SDGs」のゴール達成に取り組むようになっていただきたいと思います。
貧困、飢餓、エネルギー、気候変動、環境汚染、国家間の紛争など、私たちを取り巻く社会には実にさまざまな問題が、複雑に絡み合いながら存在しています。
しかし、そんな社会をつくっているのは、紛れもない、私たち自身です。課題が山積する社会において、民間企業に課せられたハードルは低くはありませんが、ビジネスに欠かせないマーケットが存在しているのも事実です。ぜひ、各々にできることから、取り組んでみてください。