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ISO26000発行以降の新しいCSR活動の潮流と報告のポイント

ISO26000発行以降の新しいCSR活動の潮流と報告のポイント

 

■講師

株式会社クレアン 代表取締役

薗田綾子氏

1.CSRの背景

いまなぜCSRなのか、ということからお話を始めさせていただきます。世界にはいまさまざまな環境問題があります。社会問題もどんどん深刻になってきていて、どう解決して
いくのか。次の子供達の世代にどう持続可能な社会を引き継いでいくのか、そういう社会をどう形成していけばいいのか、本当に真剣に考えなければならないわけです。

サステナビリティ(持続可能性)という考え方は、20年前にはありませんでした。1972年にローマクラブが「成長の限界」を発表しました。そして1987年、国連の「環境と開発に関する世界委員会」の報告書で「Sustainable Development=持続可能な発展」ということが提唱されました。この言葉の定義は、「将来世代のニーズに応える能力を損なうことなく、現在世代のニーズを満たすような発展」とされています。現在の我々のニーズを考えるだけでなく、子供達の世代のニーズも考えていこうということで、持続するという意味のSustainとAbilityが一緒になってできた言葉がサステナビリティ(持続可能性)です。これが広まってきた背景には、やはりこのままではだめだよ、というのがあるのですが、一体どれくらいだめなのかを見てみたいと思います。

 

2.人口問題

一番大きな問題は、人口問題だと思います。先日世界人口が70億人を突破したという報道がありましたが、2050年には90億人以上になると国連は推計しています。WWF「世界自然保護基金(World Wide Fund for Nature)」が発表したエコロジカル・フットプリントの将来予測があるのですが、これは人間が生存するのに必要な面積を計算したものです。これには食糧生産に必要な土地面積や、海洋資源のための海の面積、森林の面積などすべてを含みます。そうしますと、現在の人口でもすでに地球1.5個分の面積が必要だとされています。これが2050年には地球2個以上が必要になってしまうのです。これをなんとか地球1個分に戻していこうというのがサステナビリティの一つの考え方です。1980年くらいがちょうど1個分なので、そのあたりのレベルまで戻そうということです。人間が生きるうえで重要なのは水と食料とエネルギーですので、特にこうした点で考えていこうということになると思います。

 

3.水リスク

これから最も深刻になると思われる水の問題について少し取り上げて見たいと思います。すでに世界の2/3が水ストレスにさらされているという現状があります。いま洪水が問題になっていますが、中国などは水不足ですし、水の汚染の問題も抱えています。河川の8割が汚染されているともいわれています。グリーンピースは今年7月から、中国での水汚染を改善するため大手アパレルメーカーに対しデトックスウォーター・キャンペーンを始めました。これはアディダス、ナイキ、プーマ、H&M、ユニクロなどと取引している繊維加工工場の排水から、有害化学物質が検出されたことを受けて、その改善を求めたものです。各社はこれに応えて有害物質ゼロを目指すことを発表しています。

アフリカでは旱魃で物が作れない状況になっていますが、こうした水の不均衡が、いま世界各地で起こっており、アジアでも水不足が進んできています。
一方で水の需要は増大しています。世界の水需要は、2025年には1950年時点の3倍になるといわれています。私たちが使う水の内、飲料水はそれほど多くなく全体の1割弱くらいです。一番多いのは農作物の生産のためで、約7割がこれに使われています。残り2割が産業用ということです。バーチャルウォーターという概念があるのですが、これは私たちが輸入している農蓄産物をもしすべて国内で生産するとしたらどれだけの水が必要かを算出したものです。これによりますと、牛丼1杯に必要な水の量は、1,700~2,000リットルだそうです。牛を育てるのには体重の10倍の水が必要といわれていますので、こういう計算になるわけです。

水の問題をサプライチェーンの中で考えることも大切です。原材料からさまざまな部品が生産され、これが製品になり販売され、消費者が使用して最後は廃棄物になるのですが、この製品のためにどれだけの水が消費されているのかという視点で見る必要があると思います。鉱物資源の精製過程などはもちろん水が必要でしょうし、汚染物質のでる可能性も高いです。さらに部品を生産する工程では、サプライチェーン全体の8割の水が消費されるといわれています。車1台を生産する場合で見てみますと、トータルで65,000リットルの水が使われているというデータがあります。パソコンですと1台作るのに4,000リットルの水が必要だそうです。逆に言うと水がないと作れないということですね。つまり水の問題は企業リスクとしても考えないといけないわけです。水の問題は経営に関係する問題なのです。日本ではあまりピンとこないかもしれません。雨も多いし、水の循環もできています。しかし海外でとなるとそうはいかないのです。さまざまな企業が集まって水資源に関しての国際標準を策定しようという動きもあります。グローバルなルール作りが必要になってきているということです。物理的に水が足りないということもありますし、生物多様性への配慮が必要ということもあります。水を適切に管理しないと、例えばコカコーラがインドで地下水を汲み上げすぎて、地域の水が枯渇したために大きく評判を落としたというようなことが起きます。企業にとって水への配慮が非常に重要な課題になっているのです。

カーボン・ディスクロージャ・プロジェクトという、CO2の排出量を投資家に情報開示することが求める動きがありますが、最近ではウォーター・ディスクロージャ・プロジェクトとして、水使用に関する情報開示が始まっています。投資家や金融機関がそういうことを気にし始めたのです。日本でも7社ほどが自主的に情報開示されています。水に関しては民間のほうが動きが早いようです。そのような動きをうけて水の専門家の先生方などにも入っていただいて、20社ほどの企業とともに水に関する研究会としてWater CSR JAPANを立ち上げました。
興味のある方はぜひ参加していただきたいと思います。

水が不足すると生命や食糧生産が危機に瀕しますし、工業生産もできなくなってしまいます。2025年には世界の約40億人が水ストレスにさらされるという予測もあります。水資源の確保を狙った中国の動きなども言われていますが、これからは石油でなく水が国際紛争の最大の要因になる可能性も指摘されています。

 

4.気候変動

水以外に大きなリスクとしては、ご存知のように気候変動によるリスクがあります。2009年7月のG8ラクイラサミットで、世界全体の温室効果ガス排出量を2050年までに少なくとも50%削減するとの目標を再確認しました。これは地球が吸収できるCO2の量が今の半分なので、それを目標にしようということなのです。先進国全体では2050年までに80%かそれ以上削減しようということになっています。2050年というと遠い未来のように思われるかもしれませんが、今の子供達が50歳くらいになる頃と考えると、決してそうではないことが分かると思います。

 

5.人権問題

社会問題はまだまだたくさんありますが、あまり日本の企業が感じていないように思えるのが人権問題です。実はこれも大変深刻です。鉱物の採掘現場や森林の伐採現場などで労働者の人権が護られておらず、強制労働や不当労働、あるいは貧困に根ざす深刻な状況があるわけです。これへの対応としてすでにグローバル・コンパクトといって、世界の企業が団結して解消に取り組む活動を行っています。参加企業は「人権・労働・環境・腐敗防止」の4つの分野における10の原則を支持した事業活動を推進することになっています。グローバル・コンパクトは、2011年2月現在、世界で6066団体が参加しています。日本からの参加は136団体とまだまだ少ない状況です。海外に出て行かれるのであれば、グローバルライセンスの一つだと思ってぜひ署名していただきたいと思います。

 

6.紛争鉱物

人権問題と並んで大きくクローズアップされているのが、紛争鉱物の問題です。コンゴ民主共和国および周辺9カ国で産出されたスズ、金、タンタル、タングステンが、反政府武装勢力の資金源になっているという問題で、産出に環境破壊や児童労働を伴っているということも問題として挙げられています。これは資源のトレーサビリティの問題であるわけですが、OECDは2010年に「紛争鉱物デューディリジェンス ガイダンス」を採択して、 特定の鉱物調達に際し、人権問題、環境問題、汚職等、紛争地域諸国の不正に関わる組織からの調達を回避するための手続きをまとめました。また米国は、米金融改革法でコンゴ民主共和国を含む9カ国で産出された特定鉱物を紛争鉱物と指定し、この地域からの鉱物購入についての情報開示を義務付けています。罰則規定はありませんが、開示しない企業名は公表されることになっています。

 

7.企業の影響力

企業の社会的責任(CSR)が言われるようになってきた背景には、ひとつには市民社会の発達があげられます。その結果、市民組織(NGO等)の影響力が拡大してきました。さらに世界人口の増加とグローバル経済の拡大によって企業の影響力が拡大した、ということがあげられます。国のGDPと企業の売上高を比較すると、上位100のうち47が企業となるのです。1位から23位までは国家ですが、24位にロイヤル・ダッチ・シェルが登場します。25位はノルウェーで26位はエクソン・モービルです。これにオーストリア、ウォルマート、ブリティッシュ・ペトロリアム、ギリシャ、デンマークと続きます。日本企業ではトヨタ自動車が49位に登場します。売上でなく社員数で見ても、例えばパナソニックの社員数は世界で35万人くらいですが、これはアイスランドの人口にほぼ匹敵します。このように企業の影響力がグローバルに大きくなってきているのです。さらに政府の政策の失敗や限界によって、グローバルな社会問題・環境問題が発生し、人類の持続可能性に危機感が生まれてきたのです。情報通信の発達も大きな要因です。ジャスミン革命もフェイスブックがなければあのようには展開しなかったでしょう。ハードロー(法令)による規制型アプローチの限界と、ソフトロー(社会規範)と社会監視による企業の主体的な社会・環境配慮の促進(競争原理の導入)が、CSRの発展に繋がったといえるでしょう。

 

8.ラギー・フレームワーク

1997年から2000年までアナン国連事務総長の上席顧問を務めたアメリカの国際政治学者・ジョン・ラギー氏は、人権問題の解決にあたりラギー・フレームワークと呼ばれる枠組み((人権の)保護、尊重、救済の政策フレームワーク)を提唱しました。彼は、デューディリジェンスをちゃんとやりましょうといったのですが、これは、ステークホルダーの声を聞き、自社の影響力の範囲を把握し、負の影響を減らす仕組みが必要だ、ということでした。このラギー・フレームワークは世界99カ国の8割のステークホルダーが支持したもので、ISO26000にも大きな影響を与えました。ラギー・フレームワークは人権問題だけではなく、いろいろな社会問題の解決に有効であると考えられています。

 

9.ISO26000について

ISO26000のお話に入っていきたいと思いますが、よくいわれているキーワードとしてはさきほどのデューディリジェンシーと影響力の範囲です。それも上流から下流までバリューチェーン全体で考えるということが大切です。そこから「加担」ということが問題となってきます。自社はやってないけどサプライヤーが問題を起こした、というようなことです。こういう場合にどう取り組んだらいいかというヒントもISO26000には書かれています。ステークホルダー・エンゲージメントというのが解決のキーワードです。つまりISO26000は、エンゲージメントをどうやっていけばいいかを示したものだということです。エンゲージメントの定義としては、「組織の決定に関する基本情報を提供する目的で、組織と一人以上のステークホルダーとの間に対話の機会を作り出すために試みられる活動」と書かれています。対談とかダイアローグとかネットを通じての双方向の対話などです。こうして外部の声を取り入れることで、いい影響を受けたり、悪影響を予防したりできるわけです。あるいは透明性の向上や、パートナーシップの形成につながります。大切なことは誠意を持って取り組むということです。一生懸命やっているところを見せることが重要です。これからどんどんやっていきますという方針や姿勢を示すことが大切です。

 

10.信頼作りの「R」

ISO26000を社内で説明するときは難しい解説から入っていくのではなく、子供たちの未来をどう作っていくのか、みんなが安心して暮らせるハッピーな社会をどういうふうにして作っていくのか、ISOがそのためにどれだけ大事な事柄なのかを理解していただくことが重要だと思います。国や自治体、企業、学校など、すべての組織体が社会的責任を果たしながら、持続可能な社会の実現に取り組む必要があります。CSRではなくSRとして認識することが大切です。SRのResponsibilityを「責任」と訳していますが、「信頼」という意味もありますので、責任というよりむしろ信頼関係を築いていくという風に考えていただいたほうがいいように思います。CSRの範囲をバリューチェーンでやっていこうというのは、ISO26000にも継承されています。OECDのガイドラインもこの流れを受けて5月に改訂されました。GRI(Global Reporting Initiative) のガイドライン3.1というのが発行されたのですが、人権の問題や多様性などが加えられバージョンアップした形です。今改訂作業に入っている環境省のガイドラインもこういった流れを受けています。中国もここ2,3年で環境CSRへの取り組みが急速に進んでいます。環境ガイドラインも作っています。世界中が少しずつこうしたサステナブルな社会を作る方向に動き始めているといえます。

 

11.ISO26000の構造とCSRの進め方

エンゲージメントしていくステークホルダーについてですが、見落とされがちなのが地域やNGOです。生物多様性や将来世代も視野に入れながら、調達、開発、生産、販売、物流、さらには利用後のリサイクルまでの事業プロセスの中で、持続可能な社会をめざしてCSRを考えていく必要があります。
CSRで取り組むべき課題というのはたくさんありますので、重要度の高い課題から取り組むことが必要です。GRIでも述べられているマテリアリティ(Materiality:重要性)の考え方です。ステークホルダーからの期待度の高いものと、経営・環境・社会面で重要度の高いものを考慮して優先的に取り組む重要課題群を選び出します。
ISO26000は認証規格ではありません。自己宣言して実践していくためのガイドです。構造としては、ステップ1でSRとは何か、何故取り組むのか、といった社会的責任の理解が求められ、説明責任、透明性、倫理的行動、人権の尊重など社会的責任の7原則が述べられています。ステップ2として次に何に取り組むのか、ということで、ガバナンス、人権、労働慣行、環境、公正な事業慣行、消費者課題、コミュニティ参画の7つの中核課題が述べられています。そしてステップ3はどう取り組むのか、となっています。最終目標は「持続可能性の実現」です。ISO26000については、松本恒雄先生が中心になってまとめられた「ISO26000実践ガイド」が中央経済社からでていますので、これをお読みになるのがいいと思います。
私はISO26000を行動チェックリストとして使わないでいただきたいと思っています。何ができていて、何ができていないかというとき、大事なのはできていないほうです。できていないことが何故重要なのか、どう対応していけばいいのかをしっかり考えることが大切です。
CSR活動の進め方としては、ステークホルダーと対話したり、現状分析調査をして健康診断と同じくどこが問題なのか、どこがリスクに繋がるのかをきちんと把握することが大切です。そして戦略的に重点課題を策定します。場合によっては企業理念や行動指針を整備することが必要となるでしょう。トップのコミットメントがないと進みませんから、トップのリーダーシップも大切です。CSR方針や長期ビジョンの策定も重要です。さらに計画、目標の策定を行います。KPI(Key Performance Indicators:重要管理評価指標)を設定するのも有効な方法です。あとは情報開示です。マネジメント体制の整備、社内浸透

、人材育成、組織風土の醸成なども重要です。

 

12.2011年発行レポートの動向

CSRレポートももう成熟した段階ですので、びっくりするほど変わったものはでてきていません。GRIのガイドラインの改訂があったのと、EUで財務情報の開示に併せて非財務情報(環境・従業員・社会とコミュニティ)の開示が求められていますので、これをどうするかということで統合レポートのような形にされているところもあります。東日本大震災への対応を開示されている企業もありました。CSRレポートをコミュニケーションツールとしてとらえて、ペーパーだけでなくWEBを使ったりして役割分担がすすんできています。またグローバルに対応して英語版や中国語版、韓国語版などにされているところもあります。社内浸透のツールとして捉えられているところや、映像を使ってCSRの取り組みを開示されている企業もありました。

 

13.統合レポートの動向

これまでは、非財務(いわゆるESG:環境・社会・ガバナンス)情報を中心に報告する「CSRレポート」と、財務情報を中心に報告するアニュアルレポートにすみ分けがされていました。さきほどふれましたように、近年、財務と非財務の情報を結合して報告する「統合レポート」を志向する動きが活発化してきています。その背景としては、金融危機を契機に、長期的視点から財務及び非財務の情報開示をすることが企業価値につながるという認識がひとつと、2003年にだされたEUの会計現代化指令が、環境関連リスク、方針、主要パフォーマンス指標の報告を義務付けたことがあげられます。またCDSB(気候変動情報開示標準化審議会)が、気候変動情報の投資家等への開示ガイドラインを発表したことも大きく影響しています。統合レポートといっても単にCSRレポートとアニュアルレポートをひとつに合体させればいいということではなくて、経営の中にCSRをどう組み入れているかということが重要です。GRIが2013年に発表するとされている新ガイドラインG4にも統合報告の考え方が検討されているようです。2010年の8月に、各国政府・地域の会計士協会、投資家グループ、企業が参加して、マルチ・ステークホルダー形式で議論されるIIRC(国際統合報告委員会:International Integrated Reporting Committee)が設立されました。IIRCは、メインストリーム・レポートでの報告、環境・社会・経済(財務)の統合報告を目指しています。ガイドラインがでてきたらそれに基づいてやっていかないといけないと思いますが、まず経営の中でどうCSRを推進していくのかをしっかり考えることが大切です。
IIRCのフレームワークの体系としては、長期ビジョンとしての戦略フォーカス、様々な情報の関連性、将来の方向性、ステークホルダーの包合性、正確性・信頼性・重要性といった5つの指針にもとづき、次のような開示事項が検討されています。1.組織の概要とビジネスモデル 2.リスクと機会を含む操業に関する文脈 3.戦略的な目的とこれらを達成する為の戦略 4.ガバナンスと報酬 5.パフォーマンス 6.将来の展望 の6つです。

 

統合レポートの事例では、Novo Nordiskのアニュアルレポート2010が良くできていますので、参考にされると良いでしょう。長期的な視点を持ち、持続可能な方法で事業を行うという経営方針が事業概要に明記されていますし、財務・非財務情報が常に同等レベルで報告されています。また、さきほど挙げたIIRCの6つの要素はすべて網羅されています。特に「戦略的な目的と達成に向けた戦略」については、「糖尿病」や「肥満」などの治療分野における自社の戦略フォーカスが長期的な観点で明確に記載されています。ぜひ一度ご覧になってください。

 

私は、CSRを推進されている方々は、未来をつくっていく、そしてサステナブルな社会を作っていく重要な仕事をされていると思っています。近視眼的には大変なところもたくさんあると思いますが、どうぞ長期的な視点で、そしてグローバルな広い視野にたってCSRを推進していっていただきたいと思います。

 

ご清聴ありがとうございました。