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コンソーシアムによる植物工場の研究開発

コンソーシアムによる植物工場の研究開発

■講師

大阪府立大学 工学研究科 教授 
村瀬 治比古氏

1.植物工場研究センターについて

平成21年度の補正予算で、農林水産省と経済産業省から、大阪府立大学を含め全国の幾つかの植物工場研究センターが「拠点事業」に採択されました。植物工場には大きく分けて、太陽光を利用したものと、完全人工光で栽培するものとがあります。太陽光を利用したものはグリーンハウスに似ています。植物工場というときは、コンピュータを使って生育をモニターし、植物の生育に合わせて栽培環境を制御するSPA(スピーキング・プラント・アプローチ)技術を開発中です。完全人工光型の場合は、蛍光灯やLEDといったランプを使って、閉鎖環境下で栽培します。大阪府立大学の研究センターは完全人工光型ですが、農林水産省と経済産業省の両方から拠点として採択されました。施設規模は、完全人工光型としては全国で最大の約2,000m2です。

 

拠点としての役割として重要なことは、植物工場には多くの企業の協力が必要だということから、それぞれが知恵や資源を出し合い協働して開発していく「オープンイノベーションシステム」でなければならないということです。企業同士は通常競争関係にあるわけですが、植物工場の研究に関する限り、競争ではなく協調が大切で、助け合って世界に誇れる植物工場を作り出したいと思っています。私たちの大学でも、学部の垣根を乗り越えて研究を行う「学部横断型」の組織を作っています。いろいろな学部のさまざまな分野の先生方が集まって、オープンイノベーション型で研究を進める「21世紀科学研究機構」という組織です。EV開発研究センターやナノ科学・材料研究サンターなどと並んで、植物工場研究センターもここに位置づけられています。最近の研究分野は、こういうオープンイノベーション型でないと進められないものが多いということでもあります。

 

植物工場研究センターのミッションは3つあります。一つ目は、多品目植物の栽培実証ということです。植物工場というとレタスしか作れないと思っている方も多いのですが、これは完全人工光型の植物工場を民間企業が設置した場合、利益ということを考えると栽培が早くて売りやすいレタスしかなかったということです。しかし最近は、そうではなくてなんでも育てられるということをご存知の方も増えてきたように思います。我々のセンターではすべて水耕栽培ですが、白菜やキャベツや大根などを栽培する技術を研究しています。
二つ目は、高付加価値植物の栽培です。人工光での閉鎖環境ですから、世界中の多様な環境を作ることが出来ますので、薬草なども含め珍しい植物や高価な植物も栽培できます。三番目は植物工場技術革新です。人工光での栽培は、環境制御のための設備が大変重要です。これによって個々の施設の特長を打ち出すことができます。どんな作物も作れるようにするのか、特別な作物に特化して作るのか。コストを下げて安さで売るのか、高価な作物にしぼるのか。いろいろな切り口が考えられると思いますが、それに対応できる設備の開発や技術革新が求められているのです。

 

植物工場の要素技術は、エネルギー、センサー、照明、育成環境制御、自動化、など多岐に渡っています。空調一つとっても複雑で、均一で生育ムラのない空調が求められているのですが、熱負荷や冷房負荷などを計算する植物工場のためのソフトウエアすらない状況です。これまでの植物工場は、そうした点で、これくらいでいいだろうといった感じでやってきたのですが、我々としては、もう一度一つ一つの要素技術を洗いなおし、ランニングコストの削減や植物工場として求められる性能・精度を見極めて、ソフトウエアも含めた先進的な次世代植物工場モデルを開発していく。そうすることで「あんしん・おいしい・リッチ」といった消費者のニーズに応えたいと考えています。

 

他の拠点でもコンソーシアムというやり方をしているのですが、我々のコンソーシアムには大変特異な点があります。一つは先ほど申しましたオープンイノベーションが実践できる運営をしているという点です。情報共有やコラボレーションが日常的に出来るよう情報発信やワークショップなどを行っています。また農林水産省からは一般の方々にも分かるように普及・展示を行うよう要請されていますので、そうした展示会等も行い、この4月の時点で3000人を越える方々に見ていただきました。さまざまな開発テーマでの研究会や、時々のホットなテーマでの研修会も行っています。

 

実証栽培研究としては、農林水産省からの研究品種指定があり、ミントやバジルなどのハーブ、アイスプラント、フリルレタス、スナゴケを栽培しています。これらについて栽培モデルを作って展示するようにという課題です。他の大学ではトマトなどのいろいろな品種を栽培してその違いを見るといった、どちらかというと園芸的な研究が多いようですが、我々は人工光での栽培という特長を生かして、可能な限り全学の知見を集約した形で研究を行っています。もちろんさまざまな企業にも参加いただいています。

一方の経済産業省の課題は、栽培というよりは施設としての植物工場の要素技術の洗い直しということで、「福祉型植物工場システムの研究」「機能性野菜生産技術の研究」「分子診断型植物工場の研究」「ハイブリッドエコシステムの研究」「最適化空調システムの研究」といった研究テーマに基づいてプロジェクトが出来上がっています。
福祉型植物工場は、高齢化社会の中でそうしたタイプの植物工場を実装する場合にどうすればいいのかを、医療系や工学系の学部も参加して研究しています。

 

機能性野菜としては、インドの滋養強壮植物として知られるアシュワガンダや高麗人参、など価値の高い植物について、施設で行えばその植物の好む環境を容易に作ることが出来ますし、早く栽培することができますので、そうした栽培技術の確立を目指しています。高麗人参は葉にできるサポニンを根に貯蔵していって人参のようになるのですが、わざわざ根に運ばなくても葉にたくさんサポニンがありますので、サラダに入れて食べても効果が期待できるわけです。漢方薬の薬草には農薬の問題がでていますが、植物工場なら無農薬で栽培できますので、こうした分野でも役立つものと思われます。

 

バイオなどの先端技術も閉鎖系の植物工場であれば簡単に取り入れられます。そうした分子レベルの研究は医療系では当たり前に行われているのですが、植物栽培ではまだまだです。分子診断型植物工場といいますのは、分子レベルで植物を調べ、病気や生育の不良をずっと早い段階で把握し、適切な処置をとって予防しようというものです。いずれこうした技術が必要になるということで取り組んでいます。

 

植物工場はたくさん電気を使うといわれています。ムダに使ってはいけませんが、安心、安全な野菜を作るために必要なものは使えばいいと思います。とはいえ、やはり我々も植物工場を普及させる上では、エネルギーについても賢くなければなりませんから、ハイブリッドエコシステムの研究ということで、空調とソーラー発電に、緑化に使うコケ栽培を組み合わせた省エネシステムの研究を行っています。
空調システムですが、植物栽培で空調は非常に大事で、ひとつ間違うと植物は育ちません。ところが植物工場にはお手本がなくて、どこにでも通用するという事柄が少ないのです。基礎的なものも整備されていないというのが現状です。工場といいながらFA(factory automation) すらあまり語られません。しかし、これからは植物工場のあり方が問われるはずです。それにきちんと対応できるようにしないといけないと考えています。

 

植物工場の生産物に対する第三者認証評価ということも大切です。しかし太陽光型のものはなかなか評価しづらいところがあります。不ぞろいだったり、同じ品質を再現するのが難しかったりします。そこで我々は、まず人工光型の植物工場についての第三者認証評価に期待しています。

 

直流給電システムもこれから大事になってくると思います。これから植物工場を売っていくとなるとソーラー発電システムを伴うものになる可能性が高いでしょう。ソーラーは直流で発電して、これを交流に変えて運んで、また直流に変えてLEDで使うというようなムダなことはしていられないと思います。少なくとも植物工場に関しては発電した直流をそのまま用いるのがいいのではないでしょうか。ただ配線やプラグも直流ですから、差し込むときにスパークがでるといった直流特有の問題を解決しないといけません。
また細菌対策として、放射線量計のように簡単に使える大腸菌測定器や植物工場にふさわしい殺菌システムの開発も、安心・安全な植物工場としては必要だということで研究テーマにしています。

 

2.植物工場研究の意義について

結局植物工場を研究するということは、単に作物を作るということではなく、これからの社会をどう作るかを考えるということなのです。かつては食糧生産ということだけ考えていたのですが、それだけでは不十分で、いまの社会の問題に植物工場はどう貢献できるのかという視点が必要だということです。
もう一つの問題はインフラクライシスへの対応ということです。これまで日本は、産業基盤はもちろん、農道や水道、学校などさまざまなインフラを整備してきました。しかし50年、60年経つとやはり朽ちてきますから、いつかは更新したり、補修したりしないといけないわけです。2003年度の段階で我が国のインフラの蓄積が約700兆円と試算されています。根本的な問題として、補修あるいは維持する必要が本当にあるのかということも重要です。全国にあるため池が古くなって水漏れしたり、使えなくなったりしているのですが、ではそれを農業に使うため池として本当に補修しないといけないのかということが問題なのです。莫大なお金をかけて農業用ため池として補修して、誰がそれを使うのか、ということなのです。果たしてそのときに農業する人がいるのでしょうか。ため池もある、用水路もある、農道もある、でも人がいない。そういう状況になるとしたらどうすればいいのでしょう。日本は稲作の機械化で大成功しました。農地も機械化に合わせて整備しました。機械化稲作の優れたシステムを作ったわけですが、このシステムがもう寿命を迎えているのです。ここでもう一度機械化の稲作を再生できるのでしょうか。かつて稲作機械化を進めたときと社会環境は大きく変わっています。高齢化は進み、気象変動も起こっています。水資源の枯渇という問題もあります。単なる再生ではなく、もっと何か新しい仕組みを考えなくてはならないのです。

 

一次産業は単に作物を作るだけではなくて、社会になくてはならないものです。循環型社会あるいは持続可能な社会を形成する上で、一次産業の果たす役割は極めて大きいものがあるのです。震災がありその後、植物工場が注目されましたが、これはこれから日本全体に起こることが先にきたと考えたほうがいいのではないかと思うのです。植物工場はこれからの日本をささえる一次産業の新しいシステムです。新しい農業インフラ、社会インフラとして植物工場を位置づけることが重要だと思います。

 

植物工場がそれだけ大事な一次産業であれば、やはりレタスを作っているだけではダメでしょう。日本人の好きな野菜ランキングを見ますと、上から順に、キャベツ、たまねぎ、大根、ネギ、白菜、じゃがいも、ほうれん草、トマト、なす、枝豆、きゅうり、レタス、生椎茸、さつまいも、もやし、となっています。この中に人工光の植物工場で作れないものはありません。ただ露地でできるものと全く同じようには出来ません。しかし今のスタンダードは植物工場とは関係ないところでできたスタンダードです。これからは、植物工場ならではの新しいスタンダードを作っていかなければならないと考えます。大根ももっと短くなるでしょう。そのほうが早く出来ます。消費者も大きな大根ではなく、半分に切ったものを買っているのであれば、短い大根を作ったほうがいいでしょう。白菜も4つに切って売るくらいなら、最初からミニ白菜を作ればいいのです。植物工場ならあっというまにできます。昔の価値観で評価していてはダメで、世の中が変わったのですから新しい価値観で評価しないといけないと思うのです。これから植物工場をやるのであれば、そういうことを意識しておくことが大事なポイントになると思います。

 

これからの社会循環型エコ植物工場は、次のような特徴を持つ必要があるでしょう。

  1. 防災型で社会インフラとしての機能及び性能を有する。耐用年数50年
  2. 多様な栽培品目:葉菜(レタス・キャベツ・白菜など)・果菜(イチゴ・トマト・キュウリなど)
  3. 小形独立電源:主電源(LNG・酸素発電)+自然エネルギー(ソーラー・風力・地熱)  エネルギー利用効率がkW単価ベースで1.5~3倍(省エネ)
  4. エコ:LNG発電から冷排熱、熱、二酸化炭素、水を回収して植物生産に利用
  5. 茎や葉などの植物残渣から水を回収し繊維は焼却によりエネルギー回収(省資源)
  6. 安全・安心:無農薬、汚染物質の侵入防御(黄砂、放射性物質、火山灰 など)
  7. 安定・周年生産(天候・電力事情に左右されない。周年稼動で利用効率が高い)
  8. 地産地消:フードマイレージが極小
  9. 高齢者・障がい者の雇用促進
  10. インフラ植物工場の管理運営:農業法人など民間委託

 

植物工場によるビジネスがどうなるか考えて見ましょう。

 

●ビジネスモデルは多様です。

  • 世界規模のビジネスとしては、インフラの輸出、高付加価値作物の輸出が考えられます。インフラの輸出としては、エネルギーから残渣処理までを含む植物工場システムのパッケージ化を考えています。
  • 国内ビジネスとしては、先端農業の拡大、高齢者・障がい者の雇用、災害復興、地産地消など、社会問題の解決貢献です。
  • 農業インフラクライシスに対しては、植物工場を含むインフラの再整備です。

つまり社会が今困っていることを解決するということで、自然にビジネスになっていくのだろうと思っています。

 

●地域産業と植物工場の関係は大変重要です。

  • 農業インフラ整備となると、これは公共事業になるでしょう。
  • 実際の運営は地域農業、例えば農業生産法人(生産請負)や組合が行うことになります。
  • 地域の製造業は、小規模植物工場や小型植物育成装置、設備部品を製造したり、設備施設の管理を行います。
  • 植物工場として遊休スペース(倉庫、工場、店舗、ビルなど)を活用することで地域起しにつなげることもできるでしょう。

 

●地域に根ざした価値の再配置・地域内循環という点でも植物工場は重要です。
例えば高齢者や障がい者の方が作ったレタスは、単なる1個70円の価値ではないのです。もっと大きな価値があります。それを売らずに地域に配ってもかまわないのです。要は考え方だと思います。農業生産はこれから大きく変わっていくでしょう。大規模農業が出来るのは北海道や九州くらいで、大阪ではできません。そうするとやはり植物工場のような新しい方法で農業を切り拓いて、地域の多くの人たちがその恩恵に浴する形でやっていくことが重要でしょう。
植物工場を地域のインフラとして設置して地域で管理する、地域でうまく活用していく、ということが大切なポイントです。このように植物工場は、大きくても小さくても、これからの日本の社会を作っていくうえで、大変大事な役割を果たす可能性があると考えています。

 

3.おわりに

震災後、植物工場は大きな関心を集めていますが、「復興に向けた農商工連携活性化支援事業費」として平成23年度第三次補正予算案2億円が計上されました。私は、これは国も真剣に植物工場に取り組むぞという意思の表れだと思っています。平成24年度も同じように予算化されていけば、植物工場がインフラ予算として認められ、補助金などもつくようになるかもしれません。そうなればますます普及にはずみがついてくると思います。ぜひそうなるように我々のセンターもがんばってバックアップをしていきたいと思っています。皆さんもお気軽にセンターにお越しください。植物工場を支える仲間をもっともっと増やしていきましょう。

 

本日はご清聴ありがとうございました。