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震災後のエネルギー政策とビジネスの可能性

震災後のエネルギー政策とビジネスの可能性

■講師

富士常葉大学教授
山本隆三 氏

【はじめに】
今日は、震災によりエネルギーの問題がどう変わったかということと、ビジネスチャンスである再生可能エネルギーについて、日本の政策と欧州・アメリカ・中国・韓国の政策が全く違っていますので、その違いとそれぞれの狙いは何か、というお話をさせていただきます。

 

【1.日本のエネルギーの現状】
エネルギー・電力政策の目標として、安定供給・価格競争力・環境性能の3つがあげられます。しかし、この3つを同時に達成することはほとんど不可能です。原子力だけが唯一達成可能といわれていましたが、国民の7割以上が反対という立場ですので、原子力はもう減らさざるを得ないでしょう。
1973年の秋に第一次オイルショックが起こりました。当時の日本はエネルギーの8割くらいを石油に頼っていましたが、一つのエネルギーへの依存度が高いのは困りますから、石油の依存度を減らそうということになりました。そこで原子力、天然ガス、発電用の石炭利用が増えていったわけです。
日本の分野別のエネルギー消費量をみてみますと、産業部門ではほとんど伸びていません。これは、失われた20年といわれていますように、日本経済が伸びていないということです。1990年と2010年のGDPを比べると8%しか伸びていないのです。この間、中国は21倍、韓国は6倍になっています。アメリカもイギリスも2.5倍以上です。イタリアでも2倍くらいになっています。1990年当時日本は世界のGDPの2割近くを占めていましたが、今はもう8%-9%もないでしょう。中国にも追い抜かれました。人口は増えていますので一人当たりGDPは落ち込んでおり、一人当たりではシンガポールにも抜かれています。産業部門のエネルギー消費がそれほど伸びていないのは、こうした低経済成長と省エネ努力によるものでしょう。一方で民生部門はものすごく伸びています。家庭や学校・病院・商業施設などです。例えば、20年前は暖房をエアコンで行っていた家庭は少なかったのですが、今は電気で暖房している家庭が増えています。運輸部門のエネルギー消費も増えています。
発電の内訳を見ますと、3割が原子力、もう3割が天然ガス、25%が石炭、残りを水力と石油で行っています。
主要国の発電量の伸びを見てみますと、中国が急カーブで伸びているのが分かります。週に一つ石炭発電所ができているといわれているほどです。しかし人口も多いので一人当たりの電力消費量はまだそれほど多くはありません。発電量ではアメリカが一番多く、一人当たりの消費量も日本人の2倍です。電源の構成比を見ますと、中国は8割が石炭です。インドも石炭が多いです。国内で安い石炭を豊富に産出しているからです。ドイツやアメリカも石炭の比率が高いです。自国内の安い石炭で発電できる国は電気代が安いのです。同じアメリカでも石炭を産出しない州の電気代は日本より高くなっています。州内に炭鉱のあるバージニア州やワイオミング州では電気代はニューヨーク州の半分以下です。フランスは8割近くを原子力で賄っています。日本はこれまで、石炭・天然ガス・原子力・水力他でバランスよく発電できていたのですが、原子力が減っていくと思われますので、どうするのか考えなくてはならないわけです。

 

原子力発電所は設備があれば100%発電できますが、水力発電所は設備があっても水がなければ発電できません。実際、日本の夏には7割くらいしか水力発電所は動いていません。水がないからです。このことを考慮に入れると、原子力発電所なしでは2012年には1657万kw電力が不足すると国家戦略局も発表しています。

原子力発電所の発電量を火力発電所で代替すると、石油火力では燃料代が3兆5千億円、LNG火力では2兆2千億円増加します。これにはCO2削減のための環境コストは含まれていません。この費用を料金に加えると、家庭用は10~15%、産業用で15~25%値上がりします。産業用の電力料金が上がれば物価が上がり、約2000万人といわれる貧困層の人たちには大きな影響がでます。中小企業にとっても電気代の2割アップは厳しいのではないでしょうか。

 

【2.再生可能エネルギーについて】
では太陽光発電と風力発電という再生可能エネルギーで、原子力の穴埋めはできるのでしょうか。
再生可能エネルギーについては、いい点がいろいろ言われています。エネルギー安全保障の点では自給率を向上させる、温暖化対策の面ではCO2を削減できる、さらに新規産業を育成し、新規雇用を創出する、といわれています。果たしてそうでしょうか。
この夏、日本でも固定価格買取制度(FIT)を織り込んだ再生可能エネルギー法が国会で可決されました。欧州主要国が採用しているのと同じように固定価格で電力を購入することで、再生可能エネルギーによる発電を促進しようというのです。FIT(Feed in tariff)とは、送電線網につないで電気を送るときの料金を定めて、その価格で電力会社が買い取る仕組みです。固定買取価格分は電力料金の形で需要家が負担します。
デンマークでは風力による発電が20%を越えたようです。ドイツでも水力を加えると再生可能エネルギーによる発電が今年の前半で20%を越えたといわれています。ドイツでもスペインでもイタリアでも、太陽光・太陽熱発電設備は急速に伸びています。ドイツやイタリアの固定価格買取制度は20年間買い取り価格を保証しています。このため事業リスクが殆どありませんので、多くの企業が発電事業に参入しました。発電設備がたくさん出来た結果、送電線が耐えられなくなってきました。もう一つの問題は買い取り負担額が急増したことです。イタリアは今年から制度を変えて上限値を設けました。スペインは買い取り価格をほぼ半額にしました。
電力料金はどうなったかといいますと、デンマークやドイツでは日本より高くなりました。2011年の消費者の買い取り価格の負担額見込みは、ドイツでは130億ユーロ(1kWh当たり約2セント)、イタリアでは57億ユーロ(1kWh当たり約1.5セント)です。

 

日本の送電線網は北海道から九州まで繋がっていますが、ご存知のように関東と関西では周波数の違いから融通が103万kw分しか行えません。また、地形の問題もあって高圧の送電線が多くは引けていないのです。ヨーロッパはどうかといいますと、アフリカからイスラエル、中近東、ロシアまですべて繋がっています。たとえばデンマークで電力が余ったらほしい国へ送電されるのです。足らなくなったら逆に周りの国から買えるわけです。つまり風力や太陽光による不安定な発電でも対処が容易だということです。日本ではこうはいきません。日本で再生可能エネルギーに頼ろうとするなら、この問題を真剣に考えてクリアしないといけないでしょう。菅前首相は1000万世帯に太陽光設備を導入するとしていました。これは約3500万kWになります。これだけの設備の導入を支える送電線と蓄電池の整備に2兆円から24兆円が必要と経済産業省の研究会は試算しています。24兆円とすると2020年には1kWh当たり5.5円くらいの負担となる計算です。

再生可能エネルギーの導入により、エネルギーの輸入依存度はどうなったかを見てみましょう。数字で見ると依存度は上がっています。再生可能エネルギーは増えたのですが、それ以上にエネルギーの需要が増えたのです。ヨーロッパは石油やガスはロシアに大きく依存しています。この点、安全保障上の大きな問題と考えられています。

 

【3.FITがもたらしたもの】
再生可能エネルギーへの取り組みが産業振興に役立つのか、という問題を考えて見たいと思います。
太陽電池市場は2010年で1860万kW増加したといわれています。風力は3570万kW分です。これを誰が作っているかです。世界の設備の市場規模は15兆円程度といわれています。日本の自動車出荷額でも55兆円ですから、市場としてはそれほど大きなものではありません。しかも太陽電池の上位はほとんどが中国・台湾メーカーです。風力でも中国勢が進出してきています。アメリカでは今年太陽電池メーカーの倒産が相次ぎました。中国の太陽光モジュールの生産コストは、1ドル10セントといわれています。アメリカは1ドル80セントだそうです。これではアメリカ企業は太刀打ちできません。1kWの設備は中国製なら10万円程度、日本製だと40~50万円かかるとされています。買い取り制度の導入で何が起こるかというと、あっという間に中国製品にシェアを奪われてしまうということです。コスト競争力が全然違うのです。人件費と電気代が安いうえに、圧倒的なスケールメリットを生かしているからです。ドイツ勢ももう生産拠点はアジアに移しています。自国での生産では国際競争で勝てないからです。
では雇用はどうか。ドイツ環境省によると環境産業の雇用増は2020年までに40万人とされていましたが、失職も増え、2020年の純増は56000人としています。付加価値の高い雇用への期待も厳しいようです。

欧州の固定価格買取制度がもたらしたものは何かと見てみますと、高い電力料金、エネルギー自給率改善には貢献なし、雇用も増えるか疑問、CO2削減も効果なし、で結局、新興国環境企業が台頭してきただけ、ということのようです。

 

【4.日本がとるべき戦略】
欧州は洋上風力に注力しています。これは洋上での風車に欧州のメーカーが強いからです。ほぼベスタスとシーメンスの独壇場です。洋上風力発電では直流の高圧送電線が必要となります。これも欧州メーカーが得意とするところです。つまり洋上風力には新興国が参入できないのです。2050年には洋上風力発電を陸上風力発電の2倍にするというのが、欧州風力発電協会の計画です。もうひとつが太陽熱発電です。これをサハラ砂漠でやって高圧直流送電線でヨーロッパに送るのです。この投資額が50兆円です。太陽光と違って太陽熱は蓄熱できるので、24時間発電できます。
アメリカは蓄電技術の開発に力を入れていると思われます。再生可能エネルギーでできた電気を送電線に入れると負担がかかりますので、蓄電せざるを得ないのです。大規模な蓄電のために、圧縮空気蓄電技術や二次電池、フライホイール蓄電などの開発に補助金がでています。これは日本とは少し違います。
韓国はどうかといいますと、サムソンはオンタリオ州やカリフォルニア州で風力・太陽光発電所を作って州政府に電力を売っています。つまり自分で市場を作っているのです。補助金も州政府からもらっています。自分で市場を作れば誰も手を出せません。こういう戦略は日本にはありません。
中国も全土でFITを導入すると発表しましたが、買取額は非常に安いです。とても日本の企業の設備で対応出来る価格ではないのです。これは中国企業の設備価格でしかペイしない事業です。つまり欧州もアメリカも中国も自分のところの企業に何が有利かを考えて市場を作ったり、補助金を出したりしているということなのです。
日本は欧州が失敗したことを周回遅れでやろうとしています。そうではなくて、産業政策としては、新興国が追従できない技術開発支援、新興国企業が参入できない市場の形成、そして海外市場の開拓を考えなければならないと思うのです。

 

どうもご清聴ありがとうございました。