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環境経営イノベーションが日本の未来を拓くカギ
~日本環境経営大賞から見えてくるビジネスモデルの将来~

環境経営イノベーションが日本の未来を拓くカギ
~日本環境経営大賞から見えてくるビジネスモデルの将来~

■講師

日本環境経営大賞表彰委員会委員 三重大学名誉教授 
渡邉悌爾氏

 

(1)はじめに
エネルギー問題と環境問題はまさにコインの裏表のような関係になっています。3月11日以降、エネルギーに新しい問題が提起され、今大きく揺れ動いていますし、先の見通しが見えないことで国民の多くにおいて非常に戸惑いがあるように思われます。
日本は科学技術立国として戦後復興を遂げ、高度成長を遂げ、世界の中で信頼の厚い技術大国として今までやってまいりました。ところが大変残念なことが、福島第一原発でおこりました。その結果、いかにしてエネルギー政策と環境政策とを両立させるか、持続可能な社会への道をさらに推し進めるためにどうすればいいのかということが、非常に大きなテーマとして国全体に突きつけられているわけであります。
そういう中で、この日本環境経営大賞も今年で第10回目となり、やはり少し新しい次元にさしかかっているように思われます。特にリーマンショック以降、環境経営大賞への応募が減少気味になっています。非常に経済が厳しい状態になっている中で、企業は環境経営の戦略を新しい次元で取り組むべき時代にきているのだろうと思います。

 

(2)日本経済;3・11以降の課題
原発事故は未だに収束されていません。当初はこんなに長引くとは考えられていませんでした。世界も、日本は素早く復興すると見ていたわけです。それが、予想外の混迷状態となった。確かに1000年に一度の大地震、大津波で、想定外の事態がおこったとされていますが、技術立国・日本として大変残念であり、国際的信認をかなり失墜したといえます。アメリカやフランスなど、原子力比率をまだまだこれから高めていこうという国々にとっても、今回のことは傍観できない事態といえます。
電力供給の長期的な不安定化という事態を招き、原発の技術に対して、電力会社、経済産業省、原子力安全保安院に対する不信感が高まっています。脱原発だ、といってみたものの、短期的あるいは中期的にどうやっていけばよいのか、明確ではありません。来年には、54基の原発がすべて停止し、日本の電源の1/4が喪失されることもありえます。相当な節電努力をされているところもあり、意識は徐々に変化しているように思われます。民間企業においては、電力の安定供給は産業競争力の基盤となるものです。しかし電力コストが上昇することは間違いありません。また、国のエネルギー政策が定まらず、電力の安定供給が可能となるまで先の見通しが立ちにくいことから、民間企業は「海外へ設備投資をする」「3年以内に海外シフトする」という認識が4割あると日経新聞の調査結果に載っておりました。国内への設備投資を手控えるのは当然です。そしてそれが、短期的に日本経済の体力を消耗させるのも間違いないところです。

 

地球環境問題に対する日本の態度は、昨年の状態から後退しほとんど議論がすすまず、混迷しているという気がします。政府としてCO2を2020年には1990年比で25%削減するという国際公約については、日本は一定の責任があると思います。しかし大震災後事情は一変してCO2の25%削減に関する国際公約はどうなるのか、国内外に非常に戸惑いと混乱が生じているのです。
震災以前から日本経済はデフレが続いています。少し前から日本は生産年齢人口の減少局面に入ってきており、団塊の世代がリタイアしていくことが、デフレからなかなか脱却できないことに関係しているのではないかといわれています。累積国債残高は約1000兆円と、GDPの倍くらいに積み上がっており、ようやく近頃3党合意がなされて赤字国債発行法案成立の見通しがたったということですが、毎年国家予算の4割以上を借金に頼るようなことをいつまで続けられるのかを考えたとき、やはりこのような財政赤字にストップをかけなければいけません。しかし、復興の為に10~20兆円もの国債、復興債を出さないといけない非常に厳しい状態の中で、エネルギーコストの上昇、電力供給の不安定化により、日本経済が衰退する、国民にとって非常に厳しい経済状態になる、と経済学をやっている立場から心配していることころです。

 

(3)エネルギー政策の再構築を
福島第一原発の事故については、技術立国・日本の立場からして、IAEAからも認められるようなしっかりとした客観的データを提示し、今回の事態を乗り越えていくということが、日本の大きな責務であると思っています。東京電力の福島第2、東北電力の女川原発は、同じように津波に襲われたのに無事でした。東電の福島第一原発のみが大事故を起こしてしまったのであり、そこのところはやはり少し区別して考えなければいけないでしょう。IAEAでも日本政府の情報の出し方は遅いし、非常に不透明であるとして問題になったわけです。ですから、事故の情報提供、事故原因の究明をあいまいにしないことが非常に重要です。日本は技術立国の最先端だとわが国は自負してきたわけですが、今回の原発事故をきちんと解明しないと長期的にわが国は国際社会で非常に苦しい立場に立ち至ることになるのではないかと思っています。
老朽化した原子力発電所は廃炉にする、しかし新しい技術で改良・開発された原発は、短期・中期的には残し、運用しながら、その間に新たなエネルギーの安定供給体制を模索していく、といった長期的視野の中で代替エネルギー、電源をどう確立するかを、日本は急いで構築しなければなりません。低炭素社会にむけた着実なステップアップが求められているということだと思います。

福島第一原発の問題ですが、これは2年前に産業総合研究所の研究者が調査したもので、869年に貞観地震という巨大地震、巨大津波が歴史上起っていたという報告がなされました。だから、巨大津波の対応策をとらないといけないということを国会でも質問されていますし、政府の審議会でもそういう議論はあったわけです。しかしながらまったくそれに対する対応がとられないまま、大震災に至ったというわけです。津波により緊急冷却電源が喪失され、非常用ディーゼル電源が地下で浸水してしまい、使い物にならなくなった。さらに事故後の対応についても、海水注入はすぐにやらなければいけなかったにもかかわらず、ズルズルと遅れてしまった。格納容器の中の圧力があがらないよう弁を開く作業をおこなわなければならなかったのに、しなかったため水素爆発を引き起こしてしまった。さらに、使用済み核燃料プールの冷却ができなかった。こういった事態が次々と重なって、福島第一原発の事故は未だに終息していないのです。

私は中国の高速鉄道事故を機会に東北新幹線はどうだったのかということを再度見直してみました。地震発生当時、東北新幹線では27本の列車が平均時速270kmで走行していたのですが、地震発生により緊急停止しました。沿線50カ所、沿岸9カ所に地震計が設置されていて、地震のp波を検知すると非常用ブレーキが作動する仕組みによって緊急安全停止したのです。非常用ブレーキはs波がくる9秒前に作動し、最初の大きな揺れの1分10秒前に東北新幹線は緊急安全停止ができたのです。延長675キロの東北新幹線のなかで電柱540カ所、高架橋の損傷が100カ所、橋梁の桁ズレが2カ所というような被害はあったのですが、地震発生から約50日後に、全線無事運転再開しました。これは、日本の新幹線技術だけでなく、多くの日本の技術者、経営者がしっかりとやるべきことをしているということにおいて、日本は決して自信を喪失する必要はないと私は思うわけであります。

 

(4)世界主要国のエネルギー構成
日本ではエネルギーの24%が原子力でまかなわれてきました。これが来年には、電力供給体制からはずれ、ゼロになるだろうと思われます。その分、節電する、省エネをするということと、石炭・石油・天然ガスでの発電部分が若干ふえるでしょう。これからの日本のエネルギー政策では、原子力からの電力供給の減少をしのぎつつ、新しい時代にむかって、技術立国としての日本を復興していくということが非常に重要であるといえます。世界主要国におけるエネルギー構成をみてみますと、アメリカは約2割が原子力、フランスでは8割近くが原子力に依存しています。どちらもさらに原子力を増やす方向です。ドイツでは半分近くを石炭に、4分の1を原子力でまかなっています。ドイツは、メルケル政権が「脱原発」に転換しましたが、フランスから電力を購入することができます。ヨーロッパは協定によって、EUのなかでの電力融通体制がきちっと取り決められているのです。韓国は原子力での供給が34%です。中国では石炭利用が8割近くを占め圧倒的で、今後、更なる経済発展のために原子力発電に力を入れようとしています。

 

電源別CO2排出原単位の比較をみてみますと、石炭がもっとも大きく、次いで石油、天然ガス、となっており、こうした化石燃料を燃やし、その熱エネルギーを利用して発電するものはCO2排出が多くなります。太陽光や風力、地熱、水力といった再生可能エネルギーのCO2排出原単位は小さいです。原子力も発電過程でCO2は排出しません。したがって、これからは太陽光など再生可能エネルギー依存度を高めることが望ましいとしても、短期・中期的には、石炭、石油、天然ガスなどCO2排出原単位の高いエネルギー源を利用せざるを得ないために、CO2の排出量は増えるものと思われ、この点が大きな問題となります。

 

(5)持続可能なエネルギー・環境政策の両立を
3月11日以降、原子力に対する不信感が高まり、環境問題についての意識がかなり後退しているようにみえますが、やはり地球温暖化は地球規模においては大変重大なことであります。例えば、地球の表面温度が4℃上昇すると、海面水位が上昇し沿岸地域や島での居住が制限されます。また、砂漠の拡大や森林枯死、といった異常な状態となり、海では魚も住めなくなります。その他、異常気象が続くことで穀物生産が低下します。この世界での生存可能人口は10億人以下になるとの推計もあり、8℃上昇すると5億人以下になるともいわれています。我が国としてはエネルギーの安定供給と、地球温暖化に対する対応の両立可能性を探ることが必要なことであると考えます。

 

(6)エネルギー・環境政策の両立可能性
環境保全と資源循環型低炭素社会の実現が重要なテーマとなります。従来の発想では「電力不足、エネルギー制約が企業経営、経済に悪影響を及ぼす」として、企業は日本からの脱出という選択に迫られるとも考えられます。しかし、そうではなく、新しい発想を可能とする社会の構築を行なわねばならない時代といえます。可能性としては、新エネルギー・イノベーション、省エネルギー・イノベーション、リサイクル・イノベーションといった領域があると考えられます。すでに成功事例もでてきています。イノベーションを促進するような経営を行い、パートナーとの大きな連携をつくり、お金をまわす「融資」が非常に大切であると考えます。またそれと同時に、環境マインドの高い人材養成・開発が、非常に大きなテーマとなります。この人材という意味では、企業内、経営者、技術者、あるいは社会全体で環境マインドを高める必要があるでしょう。人材開発の事例としては、千葉大学の環境ISO学生委員会がNPO法人をつくり活発に活動をおこなっており、この取り組みは本年、日本環境経営大賞のパール大賞を受賞しました。

 

(7)日本環境経営大賞 傾向と特徴
第10回日本環境経営大賞は、現在募集中で、7月15日から10月14日まで3ヶ月間募集期間があります。趣旨は、地球環境問題の深刻化と、大震災後の省エネルギー社会への転換が切実なものとなったいま、環境経営の発展と新しい環境文化の創造、そして持続可能な社会の構築に貢献することです。環境・経済・社会、におけるバランスのとれた持続可能性の高い事例を表彰する「環境経営部門」と、環境ビジネスモデル、ライフスタイルの転換へのムーブメント指向を表彰する「環境価値創造部門」、そして顕著なCO2削減実績、そのモデルの将来の普及可能性を表彰する「CO2削減部門」の3部門により構成されています。CO2削減部門は3年前に新設されたものであります。
応募件数の推移ですが、2002年の第1回には149件の応募があり、第4回で214件とピークを示し、以降減少して第9回では67件となりました。応募の減少はやはりリーマンショック後の経済落ち込みが大きく影響しているといえます。応募組織数も応募数の推移と同じく、第4回をピークに減少傾向にあります。また中小企業やNPOからの応募は第1回からコンスタントにありますが、やはり減少となってきています。2008年のリーマンショック以降の減少が著しく、特に製造業からの応募が減少しており、企業体力の低下がみてとれます。CSRにおける環境経営に余力がまわらなくなってきているのではないかと感じています。そういったなかで、環境価値創造部門へは一定の応募数があり、厳しい経営環境の中でも新たな環境価値創造意欲のある企業が育っているといえます。中でも連携による環境価値創造の取り組みが顕著になってきています。また各企業内での環境教育への取り組みも広がっていると感じています。
第9回パール大賞授賞事例からみえてくる特徴としては、やはりトップ経営者の高い志に基づく経営理念、経営感覚が共通しているという点。そしてステークホルダーである社員、関連企業、取引先企業との緻密な環境コミュニケーション力を発揮する高い経営力があるという点。そして、そのコミュニケーション力の源泉は「経営の見える化」であるという点。そして最後に、技術力など自社の強みを環境経営のビジネスモデルの中核に据えた経営をおこなっている点があげられます。これらが今回のパール大賞から学びたい点です。

 

「三重県がなぜ、日本環境経営大賞なのか」ということについてですが、一つには、優れた三重県への進出企業から学ぶという点で、シャープの亀山工場や、INAX・伊賀工場、京セラミタ・玉城工場などがあげられます。二つ目は、近隣の優良企業から学ぶという点で、滋賀銀行やトヨタ自動車・堤工場といった環境経営について意欲、経営力のある有力企業が近隣にあることから学ぶことがあげられます。三つ目として、地元企業などの頑張りがあげられます。伊賀の里モクモクファーム、速水林業、三重大学、加藤牧場など、非常に優れた地元企業の事例に三重県はあふれているということが言えます。三重県では四日市公害という過去の負の遺産が未だに人々のイメージとして残っているのですが、これを逆手にとって、環境先進県に挑戦する、これが三重県のこの10年の環境問題への取り組みなのです。

 

(8)環境経営戦略の前提要素
エネルギー問題は国家の安全保障問題と密接に関わっています。国内では人口減少傾向ですが、地球規模では人口爆発が起っており、今世紀末には先進国の人口比率が減り、途上国のそれが増加して、途上国でのエネルギー需要が一層高まると予想されます。そこでカギを握るのは資源保有国です。資源保有国の多くが途上国で、政情不安というリスクもあります。 地球環境問題の構図については、「先進国vs新興国・途上国」という対立の構図です。この構図のなかでは、ポスト京都議定書への合意はなかなか得られないのが現状であり、そのために欧州全体の削減目標の決定、日本での単体での削減目標の決定がなされました。こうした中では、日本は非常につらい立場におかれているといえます。日本はエネルギー対外依存度が高く、環境技術力も高いです。従って、弱みであるエネルギー対外依存度を低くし、強みである高い技術力をさらに発展させる戦略をとるべきです。技術力をどう活かしていくのか、どう成功モデルを発信していくのかが重要だと思います。

 

(9)環境経営ビジネスのフロンティア
環境経営ビジネスのフロンティア企業では、自ら厳しい戦略目標を掲げ、経営資源に磨きをかけておられます。低炭素化、環境負荷低減を行い、顧客、関連企業との連携・協力関係の構築・維持を非常に上手にされておられます。さらに環境経営のブランド力を身につけて強化し、そこで差別化を行っているというように感じます。従業員の方々の環境マインドが高まり、様々な新しいことへの挑戦意欲が組織内で醸成されており、経営資源の深堀や新しいフロンティアの開拓が行われています。業種も、単に製造業だけではなく、ホテル、物流など様々な業種で行なわれています。大事なのは、ビジネスは規制とインセンティブに依存しており、「どうカネをまわすか」という仕組みが環境経営成功のカギをにぎっているのではないかと思います。しかしながら大賞受賞企業でも、現段階では「取り組みは先行投資」との捉え方がまだまだ大きいようです。単独の技術としてではなく、合わせ技でお金をまわし、持続発展させる経営モデルとして環境ビジネスのフロンティアを拡大させることが、企業活動を成功に導く要因であると考えます。環境経営イノベーションは、地球規模の課題です。地球規模の視野を持ちながら取組むことが必要だと思います。

 

(10)まとめ
途上国の人口爆発を背景として、エネルギー安全保障は国家の最重要課題となっています。そういった中で、エネルギー政策と環境政策が産業競争力のカギとなり、単にモノが安ければいいとか、技術がいいというところでの競争ではなくなりました。資源小国・日本にとっては、環境経営が競争力の源泉といえます。また、日本は確かに陸地面積のみから見れば資源小国ではありますが、海底資源(レアアース、メタンハイドレートなど)は、大変有望な分野です。日本の海洋面積は世界で6番目くらいに広く、今後大いにチャレンジしていく価値のある分野といえます。さらに、日本企業においては従来の「省エネ」「資源リサイクル」に合わせ、「新エネルギー技術革新」を将来戦略の柱にすることが求められています。一つの技術でというのではなく、合わせ技での経営モデルが重要です。
ポスト3・11の電力不足というピンチを、環境経営競争に勝つチャンスに変えるのは今です。日本環境経営大賞を受賞された企業さんからのご報告に、しっかり学んでいただき、是非とも応募していただきたいと思います。

ご清聴ありがとうございました。