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これからの電気自動車(EV)の課題と対策

これからの電気自動車(EV)の課題と対策

■講師

大阪市立大学大学院工学研究科特任教授
南 繁行氏

 

【はじめに】
皆さんのなかには、ビジネスとして電気自動車を考えておられる方もあろうかと思います。その場合、機械工学、電気工学、化学などの技術として電気自動車を知ること勿論大事ですが、それだけではなくて、電気自動車は未来の乗り物、つまり文明を支えていく非常に大事なものですから、エネルギーや環境といった社会的な観点から、未来においてどのような役割を果たすのか、を考えることも大切です。もう一つ重要なのは国際感覚です。商品として電気自動車をみると、すでに日本は他の国に水をあけられています。自動車では日本がナンバーワンだと思っているかもしれませんが、電気自動車に関する限りそうではありません。世界はどう動いているかを理解することが大事です。本日は、こうしたお話をさせていただきます。

 

【1】これまでの取り組み
いま、電気自動車がブームになっている理由の一つは、石油の枯渇です。世界の石油の埋蔵量は、富士山の体積と同じだといわれています。約1兆バレルです。現在、年間250億バレル使っていますので、あと40年でなくなってしまう計算です。一方、電気で走る乗り物は、運輸分野のエネルギー消費割合としては、現在たった2%を占めているだけです。これは主に鉄道です。つまりほとんどの乗り物がガソリンや軽油を使っているのです。将来の石油の事情を考えると電気自動車が注目を集めるのは当然といえるでしょう。
ところで、電気自動車をよくEVといいますが、VはVehicleで乗り物ということで、乗用車に限りません。それで我々は、電動の車椅子や船なども研究しています。
これまでいろいろなEVを開発しましたが、なかには発電機を積んだものも作りました。遠くへ行くとなると電池だけでは行けませんので、発電機を積みました。ある意味ハイブリッド車といえると思います。マニュアルハイブリッド車といって、前輪は電気で走り、後輪はエンジンで走る車も作りました。ブレーキは一つですが、シフトレバーとアクセルとクラッチは二つずつあります。どちらを使うかは人間が判断します。これは四輪駆動車を改造すると割りと簡単にできます。燃料電池の車も作りました。燃料電池というのは、水素と空気中の酸素を使って直接電気を作る方法です。燃料電池は、電気と水がでるだけという非常にクリーンで、使いやすさでは完成された技術です。問題は価格で、1kWで100万円くらいします。あと数年で価格が10分の1以下になると言うメーカもありますが、自動車エンジンと価格競争するなら、1千分の1にする必要があります。
また、関西電力と共同でプラグインハイブリッド船も開発しました。ディーゼルエンジンと充電できるバッテリーの両方で走ることができます。行きをエンジンで走り、帰りを電気で走ると、違いがはっきり分かります。エンジンの音は千分の一から一万分の一くらいになります。観光船として使っていただくと、渚の音やせせらぎの音を楽しんでもらえます。今のエンジン自動車も既に排ガスもほとんど出ないし、騒音も少ないです。船はまだまだそうはなっていません。だから、私は、電気自動車を買うより電気船を買ったほうがお金を払った価値が見い出せていいですよ、といつもお勧めしています。

 

【2】電気自動車を自作することの意義
2002年に電気自動車の製作ハンドブックを作りました。EVは50kW以上というような大きなパワーを消費します。建物内でしたら電気主任技術者による管理が必要とされるような設備です。それが自動車ということで電気用品安全法の規制を受けないのです。その意味はもっと移動具としての安全性を別の規制で確保しなさいと言うことになります。
これまでは官公庁や企業にほぼ限定されていた電気自動車は、現在ではお金さえ出せば、手軽に買えるようになってきました。電気自動車は、エンジン車を使って作ることが出来、私もそのようなことを長年やってきました。では、こういう時代でEVを自作することの意義はどこにあるのかちょっと考えて見ると、それなりに存在するものです。

  1. 安価なEVを製造できるか、ビジネスとして成立するかを検討するため。
  2. 市販されていない燃料電池車や超高性能車を作りたい。
  3. 古い愛着のあるエンジン車をEVとして長く使いたい。
  4. その地域だけにあった必要十分の性能をもったEVを作りたい。観光地なら低速のオープンカーとか、海のそばなら塩害に強いボディにするなど。
  5. 特殊用途のEVを製作したい。トンネルでの作業や建屋での運搬など、特殊車両はEV向き。
  6. EVをローコストで体験したい。
  7. 高齢化社会での低速交通体系に適合した車両を設計・試作し、普及が可能か模索したい。
  8. EV試作を通じて、未来の交通体系の車両電化の意味を知りたい。
  9. 自作という趣味の世界でEVを楽しみたい。
  10. 部品故障が少ない点を生かして長持ちする車を作りたい。
  11. 作れた時の感動を共有したい。
  12. 自分好みのデザインの車で街を走りたい。
  13. 市販車の整備や故障時のサービスに対応する知見を得たい。

電気自動車は、電池とモーターと電流を制御するコントローラさえあれば成立します。そこに自動車産業以外の業界からも参入できる可能性があるわけです。もちろん既存の自動車メーカーさんは、自動車はそれほど単純ではない、安全性や快適性、デザインといったノウハウの蓄積が大事だといわれます。確かに、世界中どこを見渡しても、単純な機能の国民車は売れておらず、実際には1500ccクラスを中心に、エアコンからラジオまで装備が至れり尽くせりの車が売れています。もちろん安全性も高いです。つまり途上国でも売れているのはこうした車です。インドのタタ自動車の20万円台の安い車は誰が買っているかというと、金持ちがセカンドカーとして買っています。現実は頭で考えたようにはなりません。
電気自動車も、頭で考えるとクリーンで最高の車だと思えますが、まず乗ってみて下さい。そうすれば、電気自動車の実力と、将来の交通でどんな役割を担えるかがわかってくると思います。

 

【3】ビジネスとしての電気自動車
ガソリンはいずれリッター500円の時代がやってきます。どうするか、今から良く考えておかなければなりません。
ハイブリッド車も私の目から見ると、これでもハイブリッド車?と言えるものから本格的なものまでいろいろあります。メーカーの技術レベルと取り組みへの情熱、資金力が違いを生んでいます。ハイブリッド車をだせばそれだけで技術力があると一般の人には思ってもらえます。しかし、その性能差は大きいです。ハイブリッドの技術は実は新しいものではなくて、100年前にポルシェがもう作っています。
デュアルパワーといって、エンジンとモーターが直結してあって、スタート時にモーターを使いました。何分価格が高く、その後T型フォードがでてくると消え去りました。
ハイブリッド車でビジネスをしていくのであれば、本当に優れたものを世に出すプロジェクトかどうか、予算は潤沢にあるのか、会社の首脳陣は本気で応援するのかがポイントとなります。
電気自動車はモーターと電池があれば誰でも比較的簡単に作れます。将来を考えると、エンジンと同じく、モーター自体を自動車メーカーが作る(内製)のでなければ、今の自動車産業にとって、電気自動車ビジネスはあまりメリットがありません。それを知っている自動車メーカーはモーターを作っています。トヨタはすでにプリウスで200万個のモーターを作りました。モーターを作らないで組み立てだけでは利益がないのです。丁度、パソコンが幾つかのブロックの組み立てで完成するのと同じです。これらを購入して組み立てるだけでは、儲けは、単なるブランドのロゴマーク代だけしかありません。自動車メーカが電気自動車をビジネスにするには相当な覚悟がいるし、他の業種の参入は容易になると言えます。

 

【4】電気自動車の実像と虚像
まず実像ですが、排ガスを出さず、静かに走る。これはその通りです。特に地下トンネルの中などは独壇場です。それから、効率が良い。これも確かです。ガソリンエンジンでは2割くらいの効率ですがモーターですと8割くらいです。電気エネルギーのほとんどを動力としてとりだせます。しかもモーターは発電機にもなりますので、運動エネルギーや位置エネルギーから電気が取り出せます。坂道の多いところでは、下りで発電できますから、エンジン車よりさらに効率よく走れます。
電車の燃費はどれくらいかといいますと、8両編成で約250tとして1kmあたり約10円です。加速時には電気がいりますが、止まるときは発電して架線に返していますので、大変効率がいいわけです。
あと制御性が良い。これは電気ですから当然ですね。
一方、EVの限界としては、電池の能力があります。エネルギー蓄積能力を重さあたりのエネルギー密度で比較しますと、ガソリンは100gで約1km走れますが、リチウムイオン電池では1kgで約1kmですから10倍も違うことになります。しかもコストは1kWhあたり10万円しますし、2年ごとに買い替えならば、100万円以上が必要です。
電池の維持コストを考えると500tを超えるような大きな車はEVにできません。日本も一番多い電気自動車はフォークリフトです。フォークリフト全体の35%を占めています。大阪だけで見ると約6割がEVです。しかし電池の交換コストなどの点から、実はディーゼルのフォークリフトの数は減ってはいません。ディーゼルは大型車が多いです。
ところで、運輸部門のNOx(窒素酸化物)の排出量データを見ますと、ディーゼル車からの排出量が約85%を占めています。PM(浮遊粒子状物質)に至っては100%ディーゼル車から排出されています。つまり、ディーゼルで動くバスやトラックといった大型車がEV化しないと我が国では残された大気汚染物質であるNOxもPMも改善されません。しかし大型車でのEV実用化は、まだまだ先のことといわざるを得ません。

電気自動車のよくある誤解が回生制動についてです。これはモーターを発電機として作動させ、運動エネルギーを電気に変えることでブレーキにしようというものです。理論的には加速するために使った電気を全部取り戻せるはずです。ところがタイヤは転がっているだけで抵抗があり、エネルギーが熱に変わっていますからこれは戻ってきません。100%回生制動はブレーキが、効きすぎてとても使い物にならないですが、それにしても40%しか回収できないのです。
ハイブリッド車で燃費が試作車でものによってはリッター当たり70kmとか80kmとかもありますが、しかしよく分析して見ると、回生の効率や空力抵抗、EVタイヤ、軽量化などによって7~8倍もの改善効率を生み出している例があり、ハイブリッドによって燃費が大幅に改善されているわけではないのです。
電池を多く積めばそれだけ走行距離が長くできるのは事実ですが、それだけコストが高くつきます。ユーザが実際に一充電で走れる距離に応じて、電池の量を選ぶ必要があります。

 

【5】中国の取り組み
中国では今、年間1800万台の自動車を作っています。日本とアメリカで作っている生産台数より多くを中国が生産しているわけです。ただ、そのほとんど(約75%)は外資が生産しています。なぜかといいますと環境・燃費対応のすぐれたエンジンは新興メーカーでそう簡単には作れません。それなら外資に作らせて、労働力と軒先だけを貸しておくほうがいいという判断があります。そして将来を考えて、国も自動車メーカーも電気自動車に熱心に取り組んでいます。今北京には400台電気バスが走っています。日本には一体何台あるでしょうか?中国は資源も労働力も豊富です。巨大な消費市場があり、政府主導の統率力もあります。電動オートバイは年間2400万台生産されています。ローテクでも普及を考えて生産されているのです。昨年のEVモーターショーに行きましたが、百花繚乱。いろいろなメーカーがでていました。上海万博でも電気バスが120台、キャパシタバスが40台など、総数200台が会場で走っていました。量があってこそ、脱石油にも貢献し、大気も綺麗になるわけで、その考え方が重要です。
電動バイクはすでに1億台生産されたといわれています。中国には自転車が一説には7億台あるといわれていますから、まだまだ市場はあると思われます。日本でも最近再び電動バイクを作るというニュースがありましたが、聞くと生産目標は1万台だそうです。中国の目標の比べ、何ケタも劣っています。確かにローテクで鉛電池が多いのですが、数がすごいです。
こと電気自動車に関する限り、投資も含め、中国に大きく水を開けられているのが実情です。以前は中国から研究者が多く日本に来ていましたが、近頃はもう前ほど来なくなりました。日本から学ぶものはもう学んだということなのでしょう。

 

【6】電気自動車への疑問
(1)電気自動車は環境改善に貢献するか?
さきほどふれましたように今の電池能力ではちょっと難しいと思います。大型のディーゼル車を電動化出来ないと、環境改善になかなか貢献するとはいえません。


(2)電気自動車は脱石油に貢献するか?
確かにある程度普及すれば脱ガソリンには貢献するといえます。(3)電気自動車は自動車産業にとって追い風か?


今の企業の考え方や、情熱のありようを見た感じでは追い風とは言いがたいです。電気自動車はまだまだ電池コストが高いです。単純にコストだけ考えればガソリン車のほうが安いでしょう。コストだけで考えず、未来の乗り物として自分なりの崇高な目的を持って乗ることが大事です。

 

【7】結論

  1. EVには、優れた特質がある。それを生かす使い方が必要。
  2. EVには電池性能の限界がつきまとっている。
  3. EVに取り組むには、目的を明確にさせることが大事。
  4. 日本のEVは高性能であるが、価格が高い。国際的には大きな購買市場があるが、低価格での需要が多い。EVは少量の高性能車と、大量の低価格車の2極化した進展をするだろう。
  5. 大量普及を考えないと、EVは脱石油にも貢献しない。
  6. 大気汚染源である大型車のEV化は20年先くらいまで困難である。乗用車のEVは環境改善に貢献しない。
  7. EV産業に対する国家の普及施策の違いによって、発展する中国と遅れをとりつつある日本とに、顕著な隔たりができつつある。
  8. EVに夢を見る時代は終わった。EVに何が出来て、何が出来ないかを明確にすることが、技術者にとっても企業・行政にとっても重要な時期に来ている。

 

日本にはすでに8000万台もの自動車が走っています。100万台がEV化しても約1%に過ぎないことを念頭に置く必要があります。
環境を考えるならもっともっと普及させないといけません。50年先、100年先の文明をどう維持していくのか。そういう大所高所の視点で自動車産業と電気自動車の将来を見ていくことが必要だと思います。

どうもご清聴ありがとうございました。