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ヒートアイランド対策推進の課題とシナリオ

ヒートアイランド対策推進の課題とシナリオ

■講師

大阪大学名誉教授・大阪HITEC理事長
水野 稔氏

 

1.対策推進の現状と問題点

2004年に「ヒートアイランド対策大綱」を日本政府が策定しました。これを受けて主要自治体が「対策計画」を作り始めましたが、まだ7年しか経っていません。それまでは、ヒートアイランドというのは科学的興味の対象であって、世界では200年、日本では50~60年の研究の歴史があります。何故そうなるかを研究してきたわけで、対処すべき環境問題として位置づけられたのは7年前ということなのです。ようやくエンジニアリングの対象となったわけです。
対策計画のおおよその構成は次のようになっています。
●問題の重要性の訴え
●目標設定(何年までにどうするか)
●各セクターの対策メニューづくり
●協力の呼びかけ
私はこれを「情緒的な対策計画」と呼んでいます。計画はあっても実際はほとんど進展していないといっていいでしょう。

 

では、対策計画の問題点はどこにあるのか。
現在の計画では不十分で、もっと計画をレベルアップする必要があります。そこで一歩先を行く地球温暖化対策計画との対比で考えて見ましょう。
大きな問題点は、行動目標がないということです。
大阪府にも大阪市にも環境目標はあります。2025年までに熱帯夜日数を3割低減するとか、昇温を止めるとかいったものですが、これらは温度目標であって、行動目標ではないのです。そのため、各セクターがどこまで協力すべきかが分からないのです。
地球温暖化対策ではどうかといいますと、環境目標としての温度目標と、二酸化炭素の削減目標ということで行動目標が明確にされています。ヒートアイランドに対しても同様に行動目標(環境負荷目標)が必要です。ここでの環境負荷は大気への熱負荷(大気熱負荷)です。大気熱負荷をどれだけ削減するかという行動目標をつくらないといけないのです。にもかかわらず、どこもそういうことがいわれていません。

もう一つの問題点は、善意の「自主行動型」の方針ということです。産業部門、業務部門などの各セクターが「問題の重要性を認識し最大限の協力をしましょう」、というのですが、これは性善説に基づいているのです。二酸化炭素の削減では、産業界ではある程度の実績をあげています。しかし、量的限界もありますし、民生用や家庭用は全然減っていないといった公平性の問題など、自主行動型では限界があります。今後は削減の義務化と、削減分を買う排出権取引のような経済的手法をとりいれて問題を乗り切ろうとしています。これは能力のあるところへの「重点投資型」です。私はこれから地球温暖化については自主行動型から重点投資型へ移ってくると考えています。ヒートアイランド対策も同じようなレベルを目指していかない限り問題解決は難しいと思います。

 

さらに問題なのは、多くの自治体の対策計画でヒートアイランド対策は地球温暖化対応の枠組みの中で副次的なものとして位置づけられているのです。地球温暖化対応で二酸化炭素の削減を目指し、省エネに努めればヒートアイランドにも寄与する、といった発想です。実際は指針のはっきりしている二酸化炭素削減のみが管理されているわけで、ヒートアイランド対策として重要な大気熱負荷の削減にはまったく取り組めていないのが実情です。大阪市や大阪府は、ヒートアイランド独自の行動計画を作って示さないといけません。地球温暖化は国レベルの課題ですが、ヒートアイランドこそ、個々の地方自治体が取り組むべき仕事です。

 

もう一つの問題点は、総合工学的視点の欠如ということです。ヒートアイランド対策は多くの分野が関与している典型的な総合工学的課題です。今まではサイエンスで科学的な研究対象でしたから、それぞれの分野が勝手な技術評価を行ってきました。つまり分野内での技術評価はできても、例えば「屋上緑化と遮熱塗料とではどちらが効果的なのか」といった分野間の評価はまだできていないわけです。
技術者としてもどかしいのは、どの会社も良い技術で社会貢献がしたいと思っているのに、ヒートアイランド対策では「一部の土木系分野にしかお金がでないのではないか」と思われていることです。「コストパフォーマンスの良い技術に投資する」という状況をめざすべきなのですが、ヒートアイランド貢献をどう評価するかが大きな問題です。

 

2.評価のものさしは「大気熱負荷」

これまでの「建築環境技術AET」と「土木環境技術CET」はどういう関係かといいますと、AETは私的な、つまり建築内の環境が対象で、費用負担も私的なお金、つまり施主が負担します。ビルの中を快適にするのはオーナーの負担ということです。これに対してCETは、公的な、建築外の環境を対象とし、費用負担も公的資金すなわち税金でということになります。この区分は温暖化問題で成立しなくなっています。すなわち、温暖化問題の解決能力のほとんどはAETにあるのです。つまりAETも立派な公的環境の技術だということです。私はこれを「環境技術のパラダイムシフト」と呼んでいます。AETであっても、節電による二酸化炭素削減や大気熱負荷の低減によるヒートアイランド緩和といった公的効用には、公的資金で対応すべきと考えます。そのためには公的効用を測るものさしが必要となります。大阪HITEC(大阪ヒートアイランド対策技術コンソーシアム)では、「ヒートアイランド貢献を大気熱負荷削減量で評価しよう」と提案しています。その技術を適用したときに「削減できる大気への熱負荷量」、これがものさしです。

 

そこで大気熱負荷とは何かということですが、この説明には地表面の熱収支の理解が必要です。熱はどこからくるかというと、ひとつは日射です。もうひとつは都市で使われたエネルギーの廃熱、すなわち人工的に作られた熱です。このうち大気に移っていくのが大気熱負荷です。大気熱負荷には潜熱と顕熱の両者があります。顕熱は温度として見える熱です。潜熱は蒸発に使われた熱をいいます。植物を植えると温度が下がるのは、植物が顕熱を潜熱に変えてくれるからです。科学的にはいろいろな議論があるでしょうが、ヒートアイランド対策を進めるためには、顕熱だけを考えればいいと私は考えて思います。

 

3.地球温暖化対策との比較による対策計画のあり方

地球温暖化との相違点も少しお話しておきます。地球温暖化は二酸化炭素等の環境負荷、ヒートアイランドは大気熱負荷の削減が課題ですが、二酸化炭素は総量が問題なのであって、いつ、どこで削減するかは問題ではありません。一方の大気熱負荷は、「いつ、どこで」が大切なのです。熱負荷の総量だけではなく拡散能などを考慮しないといけません。地表面の温度がいくら高くても、夜間放射などで熱が上空へ逃げていってくれたら何の問題もないのです。そこで一部の地表面で熱負荷を増減させて気温がどれくらい変わるかを解析してみます。熱負荷を出す時間と場所、都心か郊外か、高さは低いか高いか、など条件を変えてその影響をチェックします。
都心として大阪市の淀屋橋地区を、郊外として富田林地区を選び、20W/㎡の熱を連続的に付加したときの気温上昇への影響を解析しました。その結果から1Wあたりの気温変化--熱負荷の限界気温感度といいます--をみてみますと、昼間は都心と郊外に差はなく、感度は比較的小さい。しかし夜になると郊外での温度変化は大きくなり、都心と約7倍もの差ができることがわかりました。つまり夜のほうが、わずかな熱でも気温に大きく影響し、それは郊外で大きくなります。
関連して、過去50年の大阪市の1日平均気温がどれだけ上昇しているかといいますと、1.5℃上昇しています。日本の都市以外の平均は0.7℃上昇、地球全体では0.6℃上昇しています。では昼と夜の都市気温の上昇はどうか。最高気温と最低気温でみますと、最高気温は1℃、最低気温は2℃上昇しています。日本の平均が0.7℃ですから、昼の上昇分の内、都市の効果は0.3℃、夜の上昇分の内、1.3℃が都市活動によるものだということになります。つまりヒートアイランドによる気温の上昇は、夜間は日中の4.3倍ということです。
このように、ヒートアイランドの時間特性として、ヒートアイランドは主として夜間の現象であるといえます。なぜそうなるかといいますと、夜間は拡散性が悪く熱が地表近くに滞留するからです。日中は拡散性が良好で熱は上空へ拡散してくれるわけです。ヒートアイランド対策は夜間を主として考えるべきだということになります。

 

現代の都市の熱的構造は重いといえます。アスファルトやコンクリートでできた都市は熱を溜めます。日中の熱を溜めて拡散性の悪い夜間に持ち越すのです。日本のような温帯から亜熱帯地方の都市は、熱的に軽い都市にしないといけません。「熱代謝への配慮」が都市の要件であるべきだと思います。
同様の例として、夜間の蓄冷と蓄熱の評価があります。ヒートポンプ技術と蓄熱技術は、これからの省エネ社会のキー技術の一つです。ヒートポンプを使って、夜間に冷熱をつくる夜間蓄冷と、夜間に温熱をつくる夜間蓄熱がいま注目を集めています。夜間蓄冷は、夜大気へ熱を捨てて日中に大気から吸熱します。夜間蓄熱は、夜大気から吸熱してお湯を作って日中に放熱します。ヒートアイランドから見ると、夜間蓄冷は夜大気へ放熱しますから「悪」です。夜間蓄熱は夜大気から吸熱しますから「善」ということになります。

 

4.大気熱負荷を基礎情報とする定量的計画のすすめ

ヒートアイランドの原因と対策には二つのカテゴリーがあります。
1)熱負荷増加(低減)型
大気への熱負荷の増加(太陽熱と人工熱による)が原因。これに対しては省エネ、表面の改善、潜熱化などの対応が考えられますが、いずれも当面なすべき対応です。
2)熱の拡散悪化(改善)型
建物がたくさん建って拡散が悪化するのが原因。これに対しては風の道の創出、建物配置の改善などがあり、これらは都市計画的な長期的対応となります。

 

ヒートアイランド現象に関する議論は一杯ありますが、対策の推進のためにはターゲットを絞り込んで割り切って対処することが必要だと思っています。大気熱負荷については顕熱だけをカウントするとか、夜間と日中に大別して考え、日中は拡散悪化型で、夜間は熱負荷増加型に対する対策をとっていこうということです。対策ターゲットとしては、「日中は都市の中にクールスポットを創出」「夜間は熱帯夜の低減」が対策ターゲットとなります。熱帯夜対策は典型的な熱負荷増加型の問題であり、当面夜間の顕熱を主として計上して、その削減に向けていろんな施策を行っていくのが良いと思います。

要するに大気熱負荷にもとづく対策体系というものを作らなくてはいけないと思います。どうするかといいますと
●気温目標と整合性のある大気熱負荷の削減目標の設定=行動目標
大阪の中でどう分配するかという問題もありますが、私は一律でいいと思います。
●目標達成を確実にする制度的対応
●各技術を大気熱負荷削減能で相互評価
●各技術の熱負荷削減能に関するデータベースの構築
●建築等を含む敷地からの大気熱負荷の目標値を満足させる設計の普及
例えば、土地面積1㎡当たり12Wの熱を削減すれば30年前の状態に戻れるとすれば、それを敷地の開発要件とするわけです。そうするとデータベースから各社の技術が参照されて、設計に生かされていくのではないかと思います。

 

目標達成の制度的対応としては、削減量を開発要件に加えたり、容積率ボーナスといったインセンティブや補助金、義務化と排熱権取引のような経済的手法の導入などが考えられます。大気熱負荷削減能の技術評価ということでは、その技術でどれだけ熱負荷が削減できるかをきっちりとおさえることが大事です。しかし、技術の比較にはいろいろと問題があり、単なる熱負荷の削減量だけでは不十分です。例えば、屋上緑化と地上緑化の比較をする場合には、前者はビルの高いところで、後者は地表で熱負荷を削減しますが、地表付近だと人間の住む領域に近いわけですから、同じ削減量であれば、地上緑化のほうがいいわけです。このときには「高さ補正係数」といったものが必要になります。
また、「日射高反射塗料」と「外断熱」を比較しようとすると、大気熱負荷削減の時間が異なります。こうしたことを織り込んで比較する必要があります。昼間に減らした熱と夜間に減らした熱とを比べるのですから「時間補正係数」が必要というわけです。
このように、ヒートアイランド問題には、対策ターゲットに応じたいろいろな情報を用意する必要があり、この点は前述した地球温暖化対応と大きく異なる点です。

 

5.木材外壁での実験

私どもは昨年の1月に産官学協働のグループ「国産材を活用したヒートアイランド対策協議会」というのを発足させました。これは林野庁の助成金でビルの外壁や屋上に間伐材を張ってヒートアイランド対策効果を測定し、評価しようというものです。180~240℃で加熱処理したサーモウッドという木材を使います。こういう処理で防腐性や寸法安定性が向上しますので、国産材の屋外長期使用が可能になります。これを既存のビル外壁に張りコンクリート面と比較しました。
その効果はどうだったかといいますと、木材外壁の日中の温度は上がりました。しかし夕方から温度は急低下し、夜間は気温とほぼ同じか低くなりました。つまり熱負荷をださない状態になったわけです。一方、コンクリート面は夜間でも気温より数度高いため熱を出し続けました。すなわち、木材外装は都市を熱的に軽くするのです。また、木材外装は内部のコンクリート温度を低くし、建物への冷房負荷を低減することも定量的に確認できました。
実測によって得られたパラメータでシュミレーションしますと、大阪の本町地区を1970年代の大気熱負荷レベルに戻すのに必要な木材外装の普及率は47%でした。つまり半分のビルに木材外装すれば達成できるわけです。これを屋上緑化で達成するには普及率が74%でなければなりません。また高反射塗料を屋上に塗って同様の効果を挙げるには100%以上でなければならないことになります。

 

6.優良技術が採用され貢献できるために

大気熱負荷を用いたヒートアイランド配慮計画手法での街づくりということで、建築や地区開発に対して「通常設計と比べて1平方メートル当たりの大気熱負荷削減をこれだけ実現する」ということを開発要件に加えることを普及させたいと思います。CO2の削減目標を決めてする街づくりは私たちが計画に参画した南千里丘の開発で実例があるのですが、これからの地区・建築等の開発の基本姿勢は「地球に、都市に住まわせてもらう義務を果たす街」をめざすのでなければならないと思います。
ヒートアイランド、地球温暖化配慮の地区・建築の計画・設計手法を普及させるには、対象地区からの発生熱負荷計算プログラムが必要となります。これは大阪HITECが作っています。今後、各社技術の熱負荷さく削減性能のデータベースを用意しそれを参照できることが重要です。
大気熱負荷についてはまだまだ市民に理解されていません。環境家計簿の中にもヒートアイランド項目はありません。自分の家庭から出す大気熱負荷の程度を市民に認識させることが重要です。大気熱負荷によって計量的なヒートアイランドの削減ができるバックグラウンドは十分整っていますので、広く啓蒙をはかるとともに、大阪府・大阪市にもさらに前向きに取り組んでいただけるよう皆様のご支援をいただきたいと思います。

 

ご清聴ありがとうございました。

 

 <参考図書>
「ヒートアイランド対策(都市平熱化計画の考え方・進め方)」 表紙イメージ
「ヒートアイランド対策(都市平熱化計画の考え方・進め方)」
空気調和・衛生工学会編(2009年4月)
B5 228頁・ISBN 978-4-274-20695-5
オーム社刊 3500円(税別)