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生物多様性と低炭素社会への背景とあらたな動き

生物多様性と低炭素社会への背景とあらたな動き

■講師

KPMGあずさサステナビリティ株式会社 代表取締役社長
魚住隆太 氏

 

【1.地球温暖化】
今からお話しする内容は、温暖化そのものについても色々な意見があり、政治的には決着しているが、科学的には決着していない状況と思います。その色々な意見も紹介したいと思います。

 

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の2007年の第四次評価報告書、これが一番新しいものですが、人為的CO2が温暖化の要因で、その確からしさが非常に強くなった、ということを報告しています。第1作業部会は、人為起源の温室効果ガスが温暖化の原因とほぼ断定。第2作業部会は、温暖化によりすべての地域で不利益を被ると報告。第3作業部会が温暖化ガスの排出は削減できるとし、人類・社会が温暖化対策に舵を切ること(各種規制等が設計される等)が、政治的に明確に決定されました。

 

スターン・レビューレポートというものがあります。これは、元世界銀行のチーフエコノミストである英国のニコラス・スターン卿が行った地球温暖化が経済に与える分析レポートです。温暖化によってどれだけ経済的なロスが生じるかという、温暖化を経済的に評価した初めてのレポートという事で話題を集めました。ポイントは4つあって、温暖化は予想より早く進行している、このままほっておくと年間に世界のGDPが5%~20%損失が生じる、それに対して年間の対策コストは世界のGDPの1%。つまり1%のコストをかければ5%~20%の損失が防げる、そして対策には税、排出権取引、規制が不可欠だ、というものでした。
しかしチェコの現役の大統領・ヴァーツラフ・クラウスがこれに反論しています。「環境主義は本当に正しいか? チェコ大統領が温暖化論争に警告する」というタイトルの本で、日本でも販売されています。(日経BP社) 彼は環境主義、温暖化防止ということが、共産主義と同じように全体主義的で、一律に物事をこっちが絶対正しいとするやり方で進めていくことに非常に反発を感じるといっています。
この本の第四章で、スターン・レビューにおける割引の方法の批判、要するに将来の損失とか対策コスト、それを現在価値へ割り引くのですが、その割引率が非常に低い。スターン・レビューは地球温暖化を緩和するためのコストを1/3に過小評価している、と彼は言っています。そうすると対策の年間コストがGDPの1%というのは3%くらいかかる、3%くらいかけて5%~20%のロスが減る、ということになってきます。
有名なホッケースティック曲線は1998年に発表された温度グラフですが、IPCCの第三次報告書に掲載されました。これを見ると地球の温度変化は、西暦1000年から1900年まではほとんど変化がなく、1900年ごろから急激に温度が上がっています。これがホッケーのスティックに似ている、ということでホッケースティック曲線と言われました。地球温暖化が人為的な原因による根拠とされたのですが、これはかなり捏造しているのではないかという疑問がでました。IPCCの第二次報告書に「気象変動1995」という気候変動のグラフが掲載されたのですが、これで見る限り1200年ごろは中世温暖期とされ、かなり暖かく、1600年ごろはかなり温度が低いわけです。つまり人為的CO2の影響がなくても大きな気候変化を示しているのです。それをIPCCの第二次報告書で発表していて、第三次では、中世はほとんど温度変化していないグラフを掲載しました、ここが批判されたわけなのです。その結果、第四次報告書にはそのグラフは記載していないという流れになっています。

 

クライメートゲート事件いうのがあります。これは、2009年11月17日に英国のイーストアングリア大学の気候研究所のサーバからメール1,073通と3,485の文書がインターネットに流出した事件です。ここはIPCCの中心になっているところなのですが、その人たちのメールと添付ファイルが流出しました。
その内容で明らかになったのは、

  • 違う見解の論文の原稿審査を妨害したり、学術誌編集長の追放を画策した。
  • 情報公開法により不正行為がばれそうになったときにメールの消去を話し合った。
  • 「懐疑派に渡すくらいなら消去する」と書いた気温データは現在も紛失中。元データはどこにあるかわからない。(スティーブン・モンシャー+トマス・フラー、渡辺正(訳)『地球温暖化スキャンダル』2010年)

 

ということです。さらに、・データの改竄でプログラムの真ん中あたりに「気温の下落傾向に対し非常に人為的な補正を施す」という英語の注釈があり、その下に数字が並んでいるのですが、これは1904年からのデータを5年刻みでどれだけ意図的な修正(?)しているかを示したものです。(田中宇、地球温暖化めぐる歪曲と暗闘(1)(2) 田中宇の国際ニュース解説  http://tanakanews.com/) こうしたことも暴露されています。

 

また、いわゆる「温暖化懐疑論」を唱えている赤祖父俊一さんは、アラスカで日本人なのにオーロラ研究とかをやっている人ですが、著書の「正しく知る地球温暖化」(誠文堂新光社)から紹介します。

  • 温暖化は起きているが、それは1800年頃から始まっている
  • 現在は1400年頃から1800年頃まで続いた小氷河期からの回復期である可能性が高い。
  • スーパーコンピュータの計算には、この原因不明の周期的な寒暖変化を組み込んでいない。
  • 運転中炭酸ガスを出さない原子力発電の推進のため温暖化の炭酸ガス犯人説は好都合。
  • 一度研究予算がつけば、地球規模の研究だけにその金額は莫大。あとはその既得権益の確保のため、迎合的な研究がドンドン進む。
  • 温暖化は炭酸ガスだけでなく、太陽活動や地球の周期現象などが関係する複雑極まる事象で、個々の事象の専門家はいるが全体を見渡せるような研究者がいない。
  • 環境保護団体も、温暖化防止を大義名分とした「広告塔」として活動できるため、科学的な検証はさておき賛同した。こういった流れに対し科学的に反論すると「人類の敵」の烙印を押されてしまう。
  • 加えて、マスコミはセンセーショナルな記事しか取り上げない。「危機である」はニュースになるが、「たいしたことはない」ではニュースにならない。
  • 結論:炭酸ガスのみを犯人と決め付けることなく、地球温暖化についての科学的な議論を続けるべきである。炭酸ガスが主犯ではない場合、進行中の温暖化は止められない(そうなる可能性が高い)。むしろ、その対策にこそ労力と予算をつぎ込むべきである。
  • また、炭酸ガス排出規制などに血道を上げて日本の国力を落としてはならない。世界各国のしたたかな対応(本音=経済発展と、建前=環境保護)の上手な使い分けを学ぶべき。
  • 国際関係にあっては真面目すぎたり、過度に正直であればバカにされるだけで、国益を損なう。

と言っています。
ただし、このような意見は、あくまで少数派であり、学会等の多数派は、これらの意見にすべて反論をしているのが現状です。

 

【2.原油の動向】
ピークオイルと言う言葉があります。これはシェル石油の研究者が1956年に発表した言葉で、石油生産がピークに達することです。米国の石油生産は1970年ごろにピークに達すると予測し、実際1970年にピークを迎えて以降減少しました。カナダでは1973年にピークに達し、以降減少しました。世界全体では、2005年に来るだろうとか、もう既に来ているだろうと言われています。ピークオイルといっても、生産量がピークを超えるだけで、なくなるわけではなく、高値で生産が維持するという形で続いていきます。

 

資源の埋蔵量ですが、確認可採埋蔵量(その時点での採掘技術で採掘して採算が合う埋蔵量)を年間生産量で割り算すると可採年数がでます。ざっと石油は40年、天然ガス60年、石炭200(140)年、ウラン60年、というふうになります。
確認可採埋蔵量は、採掘技術が向上すれば確認埋蔵量は増える、エネルギー資源が高くなれば、採算の合う鉱山とか油田が増えてくるので確認可採埋蔵量は増える、また新たな資源が発見されても当然増大する、ということです。

 

世界の原油・天然ガスの可採年数を見ると、石油はずっと40年ほどで来てますし、天然ガスもずっと60年ほどで来ていて、あまり変化していません。
とはいえ原油の方は、確認埋蔵量は減ってきています。石油・天然ガスの専門誌Oil & Gas Journal(OGJ)が公表している原油埋蔵量は、2007年末現在で1兆3317億バレル、可採年数は50年となっています。可採年数で一番長いのはカナダで185年です。1973年にピークオイルを迎えたのに何故かといいますと、カナダの埋蔵量にはオイルサンド1732億バレルを含んでいるからです。軽い油分が蒸発して砂と重油がくっついたようなもの(オイルサンド)を含んで大きな数字が作られています。石油関係の方は、枯渇はもっと先ということを言いたい節があるような感じがします。原油は40年でも、オイルサンドとかオリノコタールとかオイルシェールとかを全部足せば280年というような数字を出しています。
しかし、オイルサンドにしろオリノコタールにしろ、採掘するのにすごく水と熱を使うので、原油のように簡単には取り出せません。取り出すためのエネルギー消費量を考えると半分から1/3くらいを使って1のエネルギーを取り出しているという説もあります。
最近アメリカで特に話題になっているのがシェールガスです。これは堆積岩の一種であるシェール層に貯留された天然ガスで、19世紀末に一度採掘しましたが、採算が合わないため商業化されませんでした。しかし、シェール層領域を拡げる水平掘削と、シェール層にひび割れを生じさせる水圧破砕を併用する技術が開発されたことにより一気に注目を集めました。シェールガスの全世界の埋蔵量は450兆m3という試算もあり、天然ガス埋蔵量の2.5倍に相当します。本当であれば天然ガスの60年、これ以外に2.5倍の150年がまだあるということになります。米国での生産量は1998年から07年の10年間で約65%増加、全米での天然ガス生産量の50%に達します。米国のシェールガス生産量は、07年の340億m3から10年には900億m3に増加、15年には1800億m3に達し、米国のLNG輸入量はたったの10億m3に減るとの予想もあります。
ただし、水圧破砕の水は微量のポリマーを含んでいるため、地下水汚染など環境への影響を指摘する意見などもでています。他方、地下水に大量の化学物質が混じり、そのため体調不良になったとか、また井戸水にガス成分が混じって、くみあげた水道の蛇口をひねって火をつけたら燃えるというようなこともあって問題になっていると、一部のマスコミは報道しています。しかし、それほど大きな社会問題にはなっていない感じです。
日本に持ってくると天然ガス、クリーンガスなのですが、現地で掘る時はかなりの地下水汚染や被害が起きているという状況が実態としてあるようです。

 

【3.低炭素社会に向けて】
持続可能な社会であるためには、食糧とエネルギーの自給が必要だと思います。食糧は基本的に再生可能資源です。鉱物資源も採掘量とリサイクル量をあわせて使用量より多ければよいでしょう。エネルギーは、究極は枯渇性エネルギーから再生可能エネルギーに切り替える必要があると思います。それを脱炭素社会というなら100年200年先にはそれが必要になるでしょう。そして通過点として低炭素社会を実現する必要があります。2050年には人為的な温室効果ガス排出量を1990年の半分にするという事がIPCCの報告書等を参考にされ、COP(気候変動枠組条約締約国会議)などそういう方向で話しが進んでいます。
しかし世界で半減ということには発展途上国の反対が非常に強い。何故かというと、2000年頃から世界の温室効果ガスの半分は途上国が出している訳です。途上国と先進国が100ずつ出していて合計200。それを2050年に100にするのですが、先進国が排出ゼロにして、途上国が現状維持なら半減します。しかし先進国が100をゼロにするのは困難なので、80%削減といっているわけです。80%削減なら、まだ20は残る。差引、途上国は100を80にする必要がある。あわせて2050年に80と20で100になる。それで半減だというわけです。しかし中国とかインドとかがどんどん伸びていて、今よりも下げるのはほとんど不可能に近い。だから先進国が80%減らすから世界で半減するのに協力してくれと途上国、新興国に言っても、新興国はうんと言わないというのが実態であります。

 

ピークオイルの後のエネルギー源は普通に考えると可採年数がまだ100年程度ある石炭や原油、歩留まりは悪いですが原油以外の石油資源もあります。
にもかかわらずEUが2050年に半減すべきだといって、低炭素社会を急ぐのは何故か。
EUが2050年での半減をそこまで急ぐ理由として、「産業革命以降2℃以上温度が上がるとポイントオブノーリターンで取り返しのつかないことが起きる。だからなんとしても2℃以内に抑えないといけない。それには2050年度に半減しないとダメだ」、と気候変動対策として低炭素社会を急ぐ必要があるということです。
他方で、ピークオイルによる原油価格の高止まりがあります。英国の北海油田ももうなくなってロシアから輸入したり、アメリカも大嫌いなチャベス大統領のベネズエラから輸入したりしています。中近東(サウジ等)からの輸入は、そのお金がタリバンやテロ組織に流れるとしてアメリカも中近東からは買いたくない。EUは、安全保障の観点からロシアからのエネルギー自立を目指したい。また、化石燃料を使用することは、外部不経済であるという考えを広め、その結果、化石燃料でなく再生可能エネルギーの使用せざるを得ない状況を作り、EUの世界での経済ポジションの向上と雇用の促進を狙っているのではないか、という見方もあります。再生可能エネルギーのような薄く広いエネルギー源、それも変動するエネルギー源でそれをコントロールするというのには高い技術が必要です。産業転換に向けての高成長が想定される技術分野への集中投資をして、EUの技術優位の確保・維持を図ったり、2050年世界で半減、先進国で80%削減ということで、CO2を出さない(運転中は)原子力発電やCCS(CO2の分離・回収・地中貯留。主に石炭火力発電で)をやっていかないと駄目だ、といって大型ビジネスや投資ビジネスというようなそういうビジネスも考えたりしているのだと思います。

 

エネルギー安全保障については、EUは2020年にGHG排出量20%削減し、再生可能エネルギー比率を20%に高めるといっています。再生可能エネルギー比率を20%に高めるという事は、天然ガスや石油のロシアからの購入分を減らすことになると思います。米国も中近東、ベネズエラからの石油輸入を10年以内にゼロにするといっています。また、2基の原発新設に7200億円の政府保証を実施し、原発建設支援の融資枠を540億ドル(4兆7千億円)に拡大すると昨年発表しています。

 

地球温暖化対策(2050年半減)の緊急度という観点でものごとを考えると二つに分かれるかと思います。
地球温暖化対策の緊急度が高いと考えれば、IPCCの報告書に基づいてCOPで言っているような2050年で半減しないと地球は大変なことになる、それには、とても再生可能エネルギーへの切り替えでは間に合わない。であれば、原発もやむなし。CCSもやる。という方向です。
他方、地球温暖化対策の緊急度がそれほど高くないと考える場合、原発とかCCSは、ウラン、石炭の枯渇性資源を使用しており、いずれウランはなくなる。石炭もなくなる。原発はリスク、CCSは効率の観点から増設、新設、開発は不要という考え方も出来ます。CCSについて、石炭火力で今最高効率は発熱量の50%くらいを電気に変えられるのですが、その1/3から半分くらいのエネルギーを使って排ガス中のCO2を分離して回収して、運搬して、パイプラインで地中に圧力かけて保存しないといけません。

 

CCSについての私の見解ですが、各国とも石炭火力はこれからももっと増やしたい、ということだと思います。米国で50%、中国80%、インド70%が発電電力に占める石炭火力の割合です。自国で露天掘りで採れる石炭は安いのです。だから石炭火力は今後とも増やしたい。しかし原発を建設してでもCO2を削減しないと地球は大変なことになるといっているのに、他方で発熱量当たりのCO2排出の多い石炭を使うということは矛盾するわけです。その矛盾を解消するためにCCSを研究開発していますというのです。しかし研究開発しなくてももう実用化しているものもあります。
例えば、天然ガスの中にはCO2がたくさん混じっています。そのCO2を分離して天然ガス田の周りに穴を掘り、そこにCO2を圧力かけて入れるというのは、石油や天然ガス増産の方法として既にやっていることなのです。CO2の代わりに水や海水や空気も使われています。
そういう石油や天然ガス増産のやり方としてならCCSも意味があると思いますが、日本のように、岩盤が背斜構造になっているところに穴を掘って圧力かけてというのは、ムダな気がします。もちろん、制度として炭素排出のコストが非常に高くなれば、コスト見合いで行われる可能性はあるでしょうが。

 

ここでゴア副大統領のことをちょっと見ておきます。ゴア副大統領は京都議定書のときにも頑張って京都メカニズムをアメリカとして強く主張しました。京都メカニズムというのは、共同実施(JI)、クリーン開発メカニズム(CDM)、排出量取引(ET)、という3つの排出量削減を補完する経済的仕組みのことで、排出量取引をぜひ入れるべきと主張したのがゴア副大統領です。
2004年にゴア副大統領はジェネレーション・インベストメント・マネジメントという環境関連株の投資目的の資産運用会社をロンドンに設立し会長に就任しています。その環境関連株というのは原発メーカーゼネラル・エレクトリック社(GE)への投資があります。2005年に米国で「包括エネルギー法」成立。ここでバイオ燃料の普及、原発の新規建設が発表されました。要は中東からの原油輸入をやめ、その代わりバイオ燃料と原発の新規建設という法案を通したわけです。
2006年に三菱重工とフランスのアレバ連合が原子力分野で協調に合意。東芝が米国のウエスティングハウス連合を買収。日立製作所と米GE連合が原子力事業の再編・合併に合意。
これらが全部2006年に行われています。
2007年にゴア副大統領とIPCCにノーベル平和賞が受賞されます。
2008年3月末でGIM社は米国証券取引委員会にGE株50億円相当保有の届出を出しています。8月時点では全株売却。売却が何故分かったかというと、週刊朝日が2008年の時に調査して、現時点では原発株、GE株は持っていない、と回答があったとのことです。週刊朝日の8月15日号で「これがホントの“不都合な真実”ゴア元副大統領は原発推進の回し者だった!」「ゴア元副大統領の“原発利権”」と題して記事を掲載しました。

 

気候変動対策というのが何かといいますと、産業構造の転換です。低炭素社会の実現ということ。要するに枯渇性エネルギーの消費からそうでない形にもっていくということだと思います。
EUの方向性がそのまま世界の動きとなれば、そっちに向いてやっているところには大きなビジネスチャンスですし、遅れをとったところはビジネスリスクになります。
エネルギー転換で考えると日本も1960年前後に石炭から石油に切り替えました。法律で炭鉱をつぶしていった。それは石油のほうがエネルギーコストとして安いからです。EUは炭素規制を強化し、補助金でイノベーションを図っています。EUが実験的に先にやったことを世界のルールにすることでアドバンテージを取っていきたいということです。気候変動対策として炭素規制を強化する、それとともに技術開発を支援する、そこでイノベーションを誘発させる、そしてEUの規制(キャップアンドトレードの制度や炭素税)を世界の標準にもっていく。

 

人為的要因による地球温暖化論争については、政治的には決着しています。個人的には、枯渇性エネルギーではなく再生可能エネルギーに移っていかないといけない必然性はあるけれど、2050年に半減するというのはちょっと極端すぎるのではないかと思っています。しかし、世界が政策的に低炭素社会実現に向けて、産業構造の転換を目指している以上、CO2を減らすための産業構造の転換に向けての動きに対応した戦略が必要です。

 

鳩山政権がCOP15(2009年12月コペンハーゲン)に向けて25%削減を言い出したときに本当にできるのかという議論がありました。COP15でてきたのが二国間クレジット制度です。どういうものかといいますと、日本が得意とする省エネ製品を途上国に輸出します。この省エネ製品の購入でどれだけCO2が削減できたかを算定し、減らした分を二国間クレジットにします。クレジットの取得割合は事前の話し合いで決めておきます。日本が先方の分も買い上げることもできますから、これを日本の削減目標の達成にあてようというものです。麻生政権の時に言った削減目標の15%を実際に削減し、あとの10%くらいをこういうクレジットでまかなうのが妥当なシナリオだという意見もあります。ただ今回の原発の問題でどうなるかわかりません。火力発電でとなるとCO2はどんどん出るので、京都議定書はとても達成できないでしょうからIPCCにペナルティなしで認めてくれと、地震直後にいいましたが、これは拒否されています。

 

【4.生物多様性について】
生物多様性についてですが、要はこれも経済戦争です。スタートしたときは科学者が純粋に考えていいことをいってアメリカも係わっていました。しかし昨年のCOP10では、アメリカは生物多様性条約を批准していません。京都議定書も批准していません。COP10での結果として、遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)に関する「名古屋議定書」と、2011年以降の新戦略計画「愛知目標」が採択されました。ABSとは先進国企業が途上国の遺伝資源で医薬品などを製造した場合、途上国に利益を分配するルールです。まさに先進国と途上国の遺伝資源・生物資源をめぐる経済戦争です。温室効果ガス、水に続いて。

 

【5.エネルギー政策について】
原発について少しお話します。原子力発電所の今後の選択肢としては、(1)即停止、(2)新設なし、既存炉は寿命まで、(3)新設あり、の3つがあると思います。推進派は(3)を、反対派は(1)を推すでしょう。(2)はその中間ですが、今作りかけているものをどうするかという問題が残ります。
別の選択肢として、あまり知られていませんが、トリウム炉という原子炉があります。トリウム炉だと安全性が高い、燃料棒不使用で発電作業効率化、核兵器物質(プルトニウム)が不発生、廃棄物の低減、豊富な在庫(世界に数十万トン)と、いわれています。中国科学院も今年の1月25日に、“戦略的・先端科学技術特別プロジェクト”として、トリウム溶融塩炉の研究開発を行うと公式に発表しました。「日経ビジネス」(2011年4月7日谷口正次氏)によると、「トリウム溶融塩炉は、もともと米国が研究開発していたものだ。しかも、1965年から1969年まで無事故で成功裏に実証試験を終えているのである。しかし、米ソ冷戦時代、核兵器をつくるのに必要なプルトニウムが出ない原子燃料では困る。それに、燃料棒の取替えで儲ける仕組みになっているのに、液体燃料の溶融塩炉では企業としてうまみがない。当時、議会の公聴会で米ゼネラル・エレクトリック(GE)の社長が証言したそうだ。」とのことです。「特に中国、インドはウラン資源はないがトリウム資源は豊富で、エネルギー独立のための国家戦略として力を入れているのは当然である。」と言われています。

 

【6.まとめ】
・国家や企業のレベルで、つぎのようなことが言われています。
三流(国)は、モノをつくる。(三流企業は、製品で売る。)
二流(国)は、技術を開発する。(二流企業は、ブランドで売る。)
一流(国)は、ルールをつくる。(一流企業は、標準で売る。)

 

・危機についての考察
リスクアセスメントというのがあります。リスク(危機)が起きた時にどれくらいの被害がでるのか(被害の大きさ)、それとリスクの可能性(発生確率)を掛けて算出します。これが許容値より大きければリスク予防の対策が必要ということになります。リスク予防が行われれば潤う産業がでてきます。発生確率や被害額の算定というのは大学などの研究者にやってもらいます。そのときに潤う産業がそのための資金を提供したり、します。資金をもらうと、発生確率や被害額がどうしても、許される範囲で、資金提供者の望む方向にバイアスがかかります。この場合は、大きめの数字になります。実際にあった例ですが、イギリスのブタインフルエンザで被害状況を予想する委員会(英政府の緊急事態に関する科学顧問団SAGE)の委員20人のうち、11人がワクチンメーカーからお金をもらっていたということが判明して、大問題になったことがあります。したがって、○○危機という言葉が出た時は、予防的に潤う産業はどこか等考えることも大事かと思います。

 

・目的達成の手段(ルール)の作成
目的(理想)があって、その実現のための手段(ルール)があり、結果(現実)が生まれます。結果には直接的な結果と、副次的な影響とがあります。CO2の削減という目的があって、手段としてキャップ(キャップアンドトレード制度)をかけるとか、炭素税を導入するとします。するとCO2が削減されるということ以外に、GDPや雇用などにも影響がでます。ルールをつくるときに、ルールを主導的に作る国は、この副次的な影響もシミュレーションしていると思います。熱帯雨林が減っている問題でも、過去に熱帯雨林から木材を伐採して沢山輸入した国がより多く負担すべきだ、というルールになると日本のような外材をたくさん輸入した国は困るわけです。しかし、何が熱帯雨林を破壊しているのかというと、実際には主に欧米の資本が行っているパーム油生産で、プランテーション開発のため熱帯雨林の皆伐(かいばつ)がおこなわれるわけです。熱帯雨林を伐採した先進国(資本)が負担すべきだというルールにすれば、全然話は変わります。

 

・手段(ルール)作成へのスタンス
目的と結果ということですが、理想と現実、環境と経済、建前と本音なども同じと思います。国際的な交渉では、やはりどちらも大事と思います。結果ばかり、経済的なことばかり、現実ばかり見て主張すれば、かつてのエコノミックアニマルといわれたように他国から尊敬されません。といって理想だけ、きれいごとだけでもダメでしょう。それでルールを決めたら日本経済が破綻することもありえます。ですから両方を理解した上でのルール作りが大事であり、そのスタンスで日本は主張をすべきでしょう。

 

・これからの世界
欧米は、長期的には世界政府の樹立を考えているのではないかとおもいます。世界政府と言っても、まず最初に国家間の金融取引に薄く広く課税することを通して。それで先進国から途上国へ資金を回そうというわけです。COP15で、先進諸国は官民で、2020年までに毎年1000億ドルの資金を用意し、途上国の温暖化対策費用に充てる、としています。2010~2012年は300億ドル供与し、うち日本が110億ドル供与しますと鳩山さんはいってきたのです。2013年以降は先進諸国の拠出は、半分にもならないと考えられていて不足分は全世界の国際金融取引に微小な比率の課税を行うとしています(トービン税)。つまり、先進国の拠出金とトービン税収を、G20と傘下のIMF・世界銀行が温暖化対策を名目に、途上国に資金を分配する機能を持つ、こういう世界政府に一歩近づくような構想を、COP15の合意文書の中で出てきています。
これに呼応するかのように、(財)日本総合研究所会長の寺島実郎が、日本政府に対し、国際連帯税実現に向けた要請文を発表しました。その中で「私たちは、金融機関に金融危機の社会的費用を公正に負担させると同時に、貧困、感染症対策、気候変動といったグローバルな課題を解決していくために、これまで全く課税されていなかった国境を越えるさまざまな経済活動(国際金融取引、国際航空路線等)に課税する国際連帯税の導入が必要であると考えます。」と述べています。
貧困と気候変動に対応するために薄く広く課税するといったらいいことなので、なかなか反論しにくいわけです。
ポイントは、その集めたお金を誰が、どういう風に配分するのか、そこに日本は参加できるのかどうか、というところです。ここのルール作りで、日本もしっかりからんでほしいと思います。