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エネルギー問題の今後を展望する

エネルギー問題の今後を展望する

 

■講師

京都大学大学院経済学研究科教授
植田和弘氏

 

1.エネルギー・コンセプトの再構築
エネルギー問題への関心は、震災・原発事故の前と後とでは全く変わりました。マスメディアにも、とりあげられるようになった。エネルギー問題をどう考えるのか、これをエネルギー・コンセプトといっています。日本全体がこれを考え、これに取り組む必要があるわけです。

 

私自身は、この震災の前からエネルギー問題に取り組んでいますが、そのきっかけからお話しましょう。一つは「アーヘン・モデル」と呼んでいるものです。これはドイツのアーヘン市で最初に取り組まれたことです。ドイツは都市経営の考え方が強く、エネルギーや交通は都市が経営するという考えに立っています。アーヘンの市民は、電気代が高くてもクリーンな電源にしてほしいと考えました。電源を選びたいというのです。ドイツでは無農薬野菜でも同様のことがありました。高くてもいいから無農薬で作ってほしいというわけです。こうした傾向は広がっていきました。すでにヨーロッパにおける幾つかの国では電源選択ができるようになっています。風力電源の電気を何パーセントというようにして電気を購入するのです。いずれ日本にもこの流れは来ると思います。電気も作り方で違うということですから。電源選択権ともいえるこの考え方に私はインパクトを受けました。

 

もう一つは、デンマークの風力発電です。ある本を読んでいましたら、デンマークでは農家が3軒集まると発電所を作ろうと相談する、というように書いてあったのです。まさかと思いましたが、実際に行って見るとその通りでした。なぜ農家が3軒集まると発電所を作るのかというと、これは投資なのです。日本でもこの夏から施行される固定価格買取制度をデンマークではいち早く取り入れました。農家が発電所を作るのは、風という自然エネルギーを電気に変えて、農業以外で所得を挙げることができるということなのです。そういう地域政策的要素が入っているのです。風力発電設備を作っている工場へも行きましたが、ここは以前は農機具メーカーだったそうです。風力発電は大変部品点数が多く、2万点くらいあるそうです。自動車が3万点ですから、これに次ぐ裾野の広い産業なのです。ですから産業政策でもあるわけです。再生可能エネルギーは温暖化防止ということですが、やはり地域と産業を考えた対策でもあることが大切だと思います。デンマークの風力発電比率は、もう20%を越えたのではないでしょうか。

 

ドイツのアーヘン・モデル、デンマークの風力発電の見学体験、この二つが大きな契機となってエネルギー問題に取り組むようになりました。そして今度の震災・原発事故です。これを受けて、私なりにどう問題を整理すべきかを考えて見ました。多くの人が、電気が足りない、どうすべきかと考えています。そして再生可能エネルギーだ、いや原発の再稼働だとなっているのですが、これはすべて供給側の話です。需要側の問題を考えなくていいのでしょうか。節電・省エネはこれまでも言われていましたが、いまひとつ力が入っていませんでした。需給調整という発想も、これまではありませんでした。電気は夏の電力ピーク-ほんの数日数時間の電力需要量-に合わせて施設が作られています。こういう財は他にありません。普通は供給より需要が多いと価格が上がるのです。価格で需要が抑制されるのです。そういうメカニズムを働かせないで施設を作ってきたのです。安定供給責任という理由ですが、効率としては悪いでしょう。どういうメカニズムがいいか、これも合わせて供給システムの再構築を総合的に議論することが必要だと思います。つまりエネルギーシステムのあり方を議論しないといけないのです。これには電力事業のあり方や、分散ネットワーク型、スマートシステムなどさまざまな議論がでています。さらに、いつするのかという時間軸上の問題も考えないといけません。

 

2.今後のエネルギー政策
今後のエネルギー政策がどう決まるかということですが、これは福島の事故を受けて当時の菅首相がいわれたように、エネルギー基本計画は一から見直すことになっています。2010年に閣議決定している計画があって、これは電力供給の中心を原子力にするというものでした。エネルギー基本計画の見直し自体は、総合資源エネルギー調査会基本問題委員会で議論が行われています。しかし原子力政策の見直しは、ここではなくて原子力委員会でやることになっています。エネルギー問題は温暖化防止の問題と繋がっています。それは中央環境審議会地球環境部会でやっています。この3者がそれぞれ選択肢をだして、これをとりまとめるのが、官邸に作られているエネルギー・環境会議です。ここがまとめた選択肢を国民に示して議論してもらう、ということになっています。この3者すべてに参加している委員は一人もおられません。


他に私が重要だと思っていますのは、総合資源エネルギー調査会のもとで電力システム改革という特別委員会を作って検討していることと、国家戦略室の中にコスト等検証委員会が置かれて、ここで電源別の発電コストを分析していることで、検証委員会からはもうすでに報告書がでています。


どういう選択肢がでてくるかはもちろん重要ですし、これについて国民的議論をするということになっていますが、どうやって国民的議論をするのかも重要な問題になると思います。

 

3.電力・エネルギー「需要」
電気の需要ということについて少し考えて見ましょう。昨年の夏、東京駅も節電で暗かったです。しかし文句を言う人はほとんどいませんでした。なぜでしょう。それまでは電気はお金さえ出せばいくらでも買えました。しかし震災後はそうではなくなりました。自分がたくさん使うと、他の誰かが使えなくなる状況になったのです。電気もCommon-pool資源(みんなで分かち合わないといけない資源)になったのです。地域の水などはその典型です。渇水になったとき水を分け合わないといけません。電力も同様に分かち合わないといけないのです。調べて見ると日本人の1人当たり照明に使う電力は、ヨーロッパのそれに比べて4割ほど多いです。かなりいらないところに使っているともいえます。コンビニなんかでサービスの質を落とさずにほんの少し照明を落とすことで、電気代が節約できますし、その分発熱量も減って冷房の電力も節約できます。経営的にもコストダウンできるわけです。


アメリカのエネルギー学者・エイモリー・ロビンズは、こうした考えを「節電所」という形で提唱しました。省エネ機器を導入することで、50使っていた電気が30で済むなら、節約された20の電気を生み出したことになる、というのです。節電によって創電する。この考えはドイツで「ネガワット」という言葉になって広がりました。発電所を建設するには、大変な時間と費用がかかります。節電所ならすぐできます。建設しないでいいんです。どうすれば効果的に節電できるかという知識と、節電しようという動機付けがあればいいのです。節電所のデータベースと動機付けが社会に組み入れられると、節電メカニズムが働くのです。これは今までなかったことで、もっと抜本的に考えて見る必要があると思います。昨夏の節電は大変だったという声もありますが、日本の企業や社会は適応力があるということを示しました。これは公害対策が求められた時に硫黄酸化物削減への対応などでも見られたことです。国際的に比較して見ても、硫黄酸化物の削減を急速に達成し得たのは日本でした。日本は、問題がはっきりし、対応しなければいけないとなったときの組織力、計画性、工夫は本当に優れています。省エネを定着させていくことが、エネルギー効率の高い社会を作るうえで重要だと思うのです。WLB(Work-life Balance、「仕事と生活の調和」)や生活の質ということとも関係してきます。夏の暑い盛りに冷房をつけて無理して働くことが本当に必要なのか。それが根本的な問題です。ドイツと比べると400時間くらい多く日本人は働いています。ヨーロッパはバカンスで休んでいるのです。日本も夏は長期休暇をとって農山漁村で過ごすということをすれば、地域経済にも貢献できます。そういう大きな将来ビジョンとも結びつく話だと思います。

 

4.電源別発電単価と再生可能エネルギー
国家戦略室のコスト等検証委員会で、電源別の発電単価を推計したということを先ほどお話しました。原子力は発電コストが安いという議論がありました。2010年版のエネルギー基本計画では、原発を増設していくということになっていました。その論拠は、安価だということと準国産だということだったのです。福島の事故の前から、原発は安価ではないという研究がありました。各電力会社の有価証券報告書に基づいて実績値を研究されたのです。どの費用がどの電源に使われたかを仕分けしていったのです。その結果、実績値で見ても原子力が一番安価とはいえないということになったのです。実は、発電の費用は電力会社が支出しているものだけではない、ということが重要な問題です。一つは、政府から交付金のようなものが各電源立地地域にでています。これがないと原発が動かせないなら、この交付金も発電コストに含めないといけないでしょう。ただ、実績値に関する研究は参考にはなりますが、これからの電源選択を考えなければならない時に、それだけで決めていいか疑問が残ります。実績値で見れば大型水力発電が一番安価です。しかしこれからそういう大型水力を建設していけるかというと、これはかなり難しいと思います。

 

国際機関が採用している発電単価を決める方法があります。これは運転年数発電単価方式と呼ばれています。OECDとIEA、NEAが共同で開発した方式で、1983年に発表されました。たとえば2020年に発電プラントを作るとして、その発電単価がどれくらいになるかを算出します。つまりこれから建設するモデルプラントを想定して算出するのです。ですから、今後どんな発電プラントをつくるべきか、発電コストを見るならこの方式だと思います。コスト等検証委員会も基本的にこの方式で計算しています。


その公式は、
発電単価=発電に要する費用(資本費+燃料費+運転維持費+環境費用+補完費用)÷発電電力量


このうち環境費用と補完費用は、国際機関のものにはなくて、私が付け加えたものです。大変分かりやすい公式ですが、モデルプラントを想定して計算するとなると、問題は設備の耐用年数を何年にするか、稼働率をいくらに見るか、ということです。これによって数値は大きく変わるのです。2010年版のものでは、原子力発電所の想定稼動年数は60年となっています。世界で60年動いている原発はまだありません。2005年版では、想定年数は40年でした。稼働率も85%とされていますが、日本の実績はもう少し低くて69%くらいです。稼働率を85%とするか70%とするかでは発電単価はずいぶん変わってきます。2010年版の火力発電を見ますと、CO2価格がついています。トンあたり30ドルとなっています。CO2の出るプラントは、二酸化炭素価格を費用に加えないといけないということになっているのです。2005年版では、これはありませんでした。つまり発電コストはだんだん環境コストを含むように広がっているわけです。


もう一つ重要なことは、発電の仕方によって費用の内訳が異なるということです。原子力発電は資本費の比重が大きいです。資本費の大きなものの発電コストを下げるには、長く使うことです。火力発電のような化石燃料での発電は燃料代が大きいです。これを安くしようと思えば、買ってくる燃料代を安くするしかありません。調達力や交渉力の問題になります。再生可能エネルギーは、自然条件によって大きく変わります。風力発電もいい立地で稼働率がよければ安くなります。コスト等検証委員会もこうしたさまざまなことを踏まえて算出しています。パラメーターの数値を変えて誰もが算出できるようになっています。これはコール・フォー・エビデンス(意見募集)という英国の方式を取り入れたもので、国民的議論への基礎資料の一つですので、分かりやすくなっています。発電単価推計には難しい点も多々ありました。例えば化石燃料の将来価格はどのようにして予測すればいいのでしょうか。これにはIEA(国際エネルギー機関 (International Energy Agency)というところの予測を使いました。原発の事故がどれくらいの確率で起こるのか、これも難しい問題です。原発については民間の保険会社に保険をかけることはできません。基礎となる対数の法則が働くほどのデータがないからです。
原子力や化石燃料での発電は、どこにプラントを作っても基本的に同じです。しかし再生可能エネルギーは、どこに作るかで全く異なってきます。地熱発電が一番分かりやすいでしょう。地熱のあるところでなければ意味がありません。日本では有望ですがほとんどが国定公園の中ですので、規制があって開発は容易ではありません。このように再生可能エネルギーは地域の資源という面を持っています。

 

5.地域エネルギーマネジメント
これまではエネルギーを電気として話をしてきましたが、エネルギーの最終消費形態は、熱の形が多いのです。ですからエネルギーのマネジメントを考えるというときは、熱をどうするかということを考えるということが重要です。もう一つ重要なのは、エネルギー需要というとき、電力でもいいですが、グロスで考えがちです。しかしエネルギーには質があります。A・ロビンズは「電動のこぎりでバターを切るな」といいました。需要の質と供給の質を考えることが重要です。電気は質の高いエネルギーです。ですから本当に質が必要なところで使うべきです。そういう使い方をすれば大幅にエネルギー効率が上げられるわけです。電力・エネルギーの供給源別特徴と、需要源別特徴を活かして、支えあうネットワークづくり、融通の仕方や調整の仕組みをつくる、つまりそれはシステムの再設計ということです。そういう発想が大切でしょう。

 

この7月から固定価格買取制度が動き出すことになっているのですが、それには何よりも買取価格や買取期間がはっきりすることが重要です。ところがこれらがまだ決まっていません。どういう制度が作られるかということも大事ですが、技術もまた日進月歩です。そこでこの制度の移行過程を的確に管理するということがとても大切なのです。さきほど再生可能エネルギーは、地域資源だといいました。つまり、これは一種の地域開発なのです。地域の産業と繋がったり、いろいろなことをしていかないといけません。地域エネルギー経営のようなことを進めていかないといけないと思うのです。そうなると誰がやるのかという主体の問題と、お金をどうするかというファイナンスの問題を考えなければならないでしょう。

 

6.エネルギーシステムの再設計
いろいろな論点をあげましたが、大事なのはエネルギーシステムの再設計ということです。再設計の結果としてエネルギーミックスが決まってくるのです。市場的要素が入れば入るほどそうなるでしょう。長期的に見ると、エネルギーシステムは持続可能性の原則を満たすものでなくてはならないと考えます。アメリカの経済学者:ハーマン・デイリーの3原則で示されたように、廃棄物は環境容量の範囲内でないといけません。また、資源には再生可能資源と再生不能資源とがありますが、再生不能資源、つまり使ったら減っていくものについては、再生可能資源で補える量だけ使用する、そして再生可能資源は再生可能な量だけ使用する、ということです。デイリーの3原則は、人間活動が自然との関係で守らないといけない原則といえます。化石燃料も原発の燃料であるウランも、いつか枯渇する資源です。その意味ではどちらも過渡期のエネルギーなのです。

 

もう一つ重要なのは、国連の「環境と開発に関する世界委員会」、通称ブルントラント委員会が「持続可能な発展」の定義で述べた世代間衡平や世代間倫理の観点です。現在世代が使いすぎて将来世代が使えなくなる、あるいは将来世代に負債を残すようなことをエネルギーシステムでやってはいけないということです。


3つめに大事だと思うのは、持続可能な地域発展です。デンマークの風力発電などはその典型です。地域の産業や地域経済にポジティブな効果を持つようなエネルギー源というものが求められるのです。

長期的にはこういう観点を満たすエネルギーシステムに変えていかないといけないのですが、その移行過程が重要になってきます。時間軸の問題です。今すぐといっても難しいでしょうが、しかし長期的には持続可能性の原則を満たす方向へ向かってエネルギーシステムをマネジメントしていくものでなければなりません。そのためのエネルギーインフラを再構築することも求められます。
こういったことがエネルギー選択肢の中に組み込まれたものが提示されて国民的議論が行われ、システムを国民が選択するというようになるかどうかです。電力改革や需給の調整ということもお話しましたが、電源の選択権というようなものを満たすためにはもう少し市場的要素が広がったほうが良いのではないかと思っています。これまでは計画的要素が強かったと思います。エネルギー政策にはある程度の計画性も必要ですが、市場的要素がもっと大幅に広がって、バランスをとることが重要なのではないかと考えています。

 

ご清聴ありがとうございました。