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今後期待される環境ビジネス

今後期待される環境ビジネス

 

■講師

同志社大学経済学部教授
郡嶌 孝 氏

 

1.「未来は予測するものではなく選択するもの」
講演タイトルからすると、これからの環境ビジネスに何がよいか予測するのだろうと思われるかも知れません。しかし今や環境ビジネスは大きく広がっていて、環境問題を抜きにしてはいかなるビジネスも考えられない状況になってきています。一般的には、環境動向の予測や景気予測などをしながら新しいビジネスを進めるということかもしれませんが、将来を見通しながらの予測は、必ずしも当たるものではありません。むしろ逆の方向、つまり今から将来を見通すのではなく、将来どういう社会を作りたいか(ビジョン)、それに向けてどう適切な経路(シナリオ)を選択して実行していくか、が重要です。これは明らかに人間のみができる目的を持った意志的行為です。そして、このためには、ビジョンの国民的合意が必要です。

 

2.環境問題?経済問題?それとも政治(政策)問題?
このような明確で実現可能な社会的に共有された目標があれば、方向性ははっきりします。そこに向かって進むことが確実であれば、新たな環境ビジネスを立ち上げるにしても、ある程度将来が見えてきますので、不確実性は減少します。環境ビジネスは、環境の問題であると同時に経済問題でもありますし、政治・政策の問題でもあるのです。これは我々の経済活動が社会の中で行われ、自然を前提としているからです。このことを私たちは忘れがちですが、経済活動はコントロールできない自然の影響を受けるのです。そこでビジョンを考えるとき、人に優しい社会を作っていくということと、自然に優しい経済を作っていくということがでてくるわけです。人に優しいということでは、20世紀には福祉国家を目指すいろいろな試みがなされました。この福祉国家は、ケインズの政策に基づいています。失業者がでてくると、景気を良くするために有効需要を増やす政策がとられます。失業手当を中心とした事後的な対策で福祉国家をめざす方向です。これは、失業を前提として福祉国家を築くということになります。しかし、福祉国家は最終的に財政危機を招きました。人に優しい国家を目指しましたが、見直さざるを得なくなりました。誰がその費用を負担するかという問題がでてきたのです。そうなると、ビジョンは同じでもシナリオを書き直なくてはなりません。1980年代にはいろいろなシナリオがでてきました。ひとつは福祉国家の解体で、レーガンやサッチャーのような新自由主義です。日本にも市場万能主義の人たちがいまだにいます。もう一つは、消費型の福祉国家がだめなら、生産型の福祉国家を築こうとする考え方です。ヨーロッパの社会民主主義の政権がとった道です。失業した人を救うのは事後的対応であって福祉国家ではない。大事なのは予防的措置だとする考えです。雇用を減らさない、失業させない、雇用の確保こそが、最大の福祉だという考え方です。
自然に優しいという環境政策においても、1960年代の環境と経済は対立するという考え方から、次第に環境と経済を両立させるシナリオを探る動きが高まりました。今日では、環境と経済と社会の統合という総合的な環境政策が採られています。このようにビジョンは同じでも、シナリオは異なるのです。次に、シナリオの実施には、官民一体でやるのがいいのか、それとも規制緩和を進めて民間主導でやるのがいいのかといった対立もあります。「大きな政府」という官民一体か、「小さな政府」という民間主導か。国家の規制によって環境ビジネスを作っていくのか、規制緩和で市場に任せて環境ビジネスを作っていくのか、という問題でもあります。「国家対市場」というように理念的には捉えられますが、歴史的に見ると国家によって市場は形成されてきたのです。その過程で、格差の拡大とか、景気の変動といった弊害もでてきました。そこで今度は、国家が市場を規制することになります。これを国家の二重運動と呼んでいます。国家と市場を対立するものと捉えるのではなく、どう組み合わせてより良い社会を作っていくかが重要なのです。つまり国家が「大きい」のか「小さい」のかではなく、「いい規制」なのか「悪い規制」なのかということです。Better Regulationとか、Smart Regulationという言い方がされます。いいか悪いかは、成果が上がっているかどうかで検証します。自己点検、自己評価をしながら政策を進めていかなくてはいけないわけです。EUにはリスボン条約があります。これはヨーロッパの知識産業化の戦略だと言われています。成果主義の名の下に環境ビジネスを作っていこうということも戦略に含まれています。

 そこで、アメリカ、韓国、ドイツがどのような環境戦略をとっているか、エネルギー戦略を例にとって少し見てみたいと思います。

 

3.オバマのGreen New Deal?
オバマが第一期目に就任したとき、オバマのGreen New Deal政策といって環境に熱心な大統領だといわれました。しかし、日本総研の寺島実郎氏が言っていますが、オバマは自らの政策をGreen New Dealと言ったことは一度もないのです。アベノミクスも同様です。安倍首相は自らの政策をアベノミクスとは言っておりません。いずれも、マスコミの造語です。オバマは大統領選挙運動中のミシガンの演説以降、「グリーンエネルギー革命」と言っています。オバマはイリノイ州の出身です。イリノイ州は有数の石炭の産地ですが、質が悪く環境問題は言いにくい土地柄です。支持基盤を考えるとイリノイ炭を悪いとは言えない。そこで、クリーンコールの開発を言います。彼が尊敬するイリノイ出身のレーガンは、強いアメリカを求めました。オバマもエネルギーの自給・自立、つまり海外依存の脱却による強いアメリカを国際的には望んでいました。そのためには、国内的にはブッシュ政権で弱体化した中間階級を再構築することが重要でした。経済の再建が国内的課題です。そして、何よりも、中間階級が、中間階級らしい生活のできる賃金を得られるような仕事(Decent Work)を作っていくことが必要でした。それには、Green Jobsだというわけです。オバマのエネルギー革命はクリーンコール、原発、海洋石油開発に再生エネルギーの推進を加えた総花的なものでした。太陽光や風力発電というGreen Jobsは作れましたが、中間階級らしい生活ができるだけの賃金を手に入れることはできませんでした。これは「Green Jobsの神話」といわれています。太陽光や風力発電が海外製品で、アメリカは組立てをするだけだったからです。確かに米国での製品作りも行われたのですが、大手のソリンドラ社やエバグリーンソーラー社は倒産してしまいました。そこでさらなる競争力をもった技術開発の必要性が言われるようになりました。幸いしたのはシェルガスです。これを頁岩から安価に取り出すことができるようになったわけです。おかげで今世紀の終わりまで、アメリカはエネルギーを海外依存しないで済むと言われています。問題は、シェルガスやサンドオイルをグリーンエネルギーと見るかどうかです。サンドオイルは、アメリカよりむしろカナダに多く産出します。そこからパイプラインで運ぶとなると、森林破壊とか地下水汚染といった問題がでてきます。このためオバマを支持していた環境団体の中でも分裂が起きています。

 一方、中東に依存していた石油が自前で賄えるようになりましたので、中東へのアメリカの介入は少なくなります。欧州向けの中東の石油価格が下がったため、欧州ではロシアからの天然ガス輸入量は減少しています。それで、ロシアは日本へ天然ガスを輸出しようと、北方領土と天然ガスを絡めた形で日本に売り込む戦略になってくると考えられています。日本向けの中東石油は、3.11以降足元を見られる形で上昇しています。アベノミクスによる円安もあって、石油支払いは多くなってきています。アベノミクスは、円安で景気がよくなって収益が上がってくる、それで所得が上がって、消費が増えて、さらに景気がよくなるという旧態依然たるケインズ政策に頼ろうとしているのです。果たしてその通りいくのでしょうか。せっかく上がった収益が、石油の支払いに回ってしまっては何にもならないのです。いま大手企業に賃金のアップを要請していますが、中小企業にまで恩恵が及ばないとますます賃金格差が広がっていくことになります。これが望ましい社会のシナリオなのかどうか。安倍首相はアメリカにシェルガスの輸出を要請したり、メタンハイドレートの採掘技術開発を進めたり、再生エネルギーの拡大・多様化を求めたりしています。アメリカのエネルギー政策が、いろいろな国のビジョンや政策に大きな影響を与え始めたわけです。環境問題が政治や社会問題にまで大きく係わっていることの現われです。

 

4.韓国のスマートグロース
韓国のビジョンは「スマートグロース」と呼んでいます。これはOECDがそういう委員会を作っています。潘国連事務総長は、Global Green New Dealについて検討するよう国連に提案しました。OECDはこれを受けて「Smart Growth」委員会が作られ、環境問題と経済成長を両立させるための政策を各国に求めました。この委員会の委員長は韓国の首相でした。国際的に影響を与えながら、自国の政策を推進しています。韓国の政策はGreen New Deal政策と言っています。これは国際的な了解の下に韓国の戦略を作っていくということです。その戦略とは環境輸出戦略です。たとえば国連の「緑の交通体系」という提案では、モビリティ(可動性)とアクセシビリティ(接近性)を区別しています。先進国では移動することが重要です。そこで個人の移動手段として電気自動車が重視されます。しかし韓国が重視するのはアクセシビリティです。途上国においては個人の移動よりも、職場へのアクセスが重要だからです。所得の低い人々が、職場に通える交通手段としての公共交通が重要なのです。そこで韓国は、天然ガスを使ったバスやトラックを開発しました。これにインフラとGPSを使ったIT化バス停をつけて公共交通システムとして輸出しているのです。ソウルのすべてのバスは天然ガスバスになりました。ワールドサッカーの会場となった南アフリカでは、選手の送迎バスは韓国製でした。新しいものを売るにはまず法律を作ることが必要です。水を売るのなら、健康を守るために水質基準を定めた法律を作ることから始めるのです。法律ができれば、基準をクリアしている水しか売れなくなり、大きな企業が市場を独占することも起こりうるのです。さらに、韓国は原発を推進しています。安いエネルギーの供給による国際競争力を持った製品作りと原発の輸出が戦略です。さらに、隣国の中国は、いま石炭での環境汚染がひどくなっています。中国がエネルギー問題を解決するには、原発を増やす方向へ行くでしょう。原発の安全性の議論は、日本国内だけにとどまらないということを忘れてはならないでしょう。

 

5. ドイツの新エネルギー政策
ドイツは2009年に新エネルギー政策を発表しました。しかしこれはビジョンではありません。ドイツは、これからの環境政策はすべて将来世代への責任であるとしています。これが彼らのビジョンです。そのために再生エネルギーに取り組んでいましたが、福島の事故を受けてこれを加速し、2050年までに再生エネルギー比率を80%にするとしています。風力発電設置の補助もあって、設置数は世界一です。しかし補助金目当てもあって、風が吹かないところにも設置されたりしています。数の割には電力が増えないといったことも起きています。固定価格買取制度もありますが、消費者の負担が大きく増えてきましたので、国民の不満も大きくなってきています。同じ政策をとったブルガリアでは国民に踏まんが爆発し内閣が倒れました。不満解消のため、ドイツでは、電力に占める再生エネルギーの割合を増やす政策に転換しようとしています。この政策は、実は日本が以前に採っていたものです。日本はドイツがもうやめようとしている制度(固定価格買取制度)を新たに取り入れたのです。ドイツは日本がもうやめた政策を取ろうとしている。さらに、日本はドイツに続いてカナダが固定価格買取制度を取ろうとした時には抗議をしていましたが、その口がふさがらないうちにこの制度を採用しました。こうした点にも日本のエネルギー政策のビジョンのなさが現れています。
ドイツの新エネルギー政策は、所得再配分政策としては成功したのではないかと思います。風力発電があるのは北部の農地や牧草地です。つまり農家の副収入源になりますので、南部の工業地帯に電力を供給する農家に補助金を与える仕組み、という評価に変わってきています。ただ北部から南部へ電力を送るために送電線網が必要です。そのため森林の破壊が起きたり、風力発電の騒音問題が起きています。ここでも環境団体の評価は別れます。必ずしも再生エネルギーが環境に優しいとは言えなくなったのです。それで風力発電は海にでていき、洋上風力が増えています。もう一つの問題は、再生エネルギーは出力が変動することです。電圧や電磁波が一定でないと精密加工はできません。このため工場が海外へ移転するという事態が起こります。そうした中で、地熱発電は不安定さが少ないので、ドイツも地熱発電に力を入れようとしています。日本でも地熱発電への期待は高く、これからの環境ビジネスとして注目されています。

 ドイツの例を見ても環境ビジネスは、取り組んで初めて課題が見えてくるという側面があります。課題があるから止めるのではなく、課題を克服することでビジネスになるということです。つまり、ビジョン→シナリオ分析→課題発生による見直し→チャンス=問題解決の提案という形で成果を生むのです。ここでも、環境イノベーションが期待されます。補助金による普及策はあまり効果を上げていません。

 

6. 日本のレアメタル戦略
日本のレアメタルは、中国に大きく依存していました。ところが政治的な理由から、中国への依存から脱却しなければならなくなりました。そこで中央アジアの国々など、調達国の多様化を図りました。またレアメタルと同じ機能を果たす代替素材の開発に取り組みました。さらに今年の4月から小型家電リサイクル法により、レアメタルのリサイクルを強化する施策も始まります。これは最終的には地方自治体が集め、リサイクル業者に渡すことになっています。その成果はこれからですが、既に調達先の多様化や脱レアメタルのイノベーション政策は効果を上げており、小型家電リサイクル法は屋上奥を重ねる政策だという人もいます。ヴィションのなさはエコポイント制度によるエコ家電普及策にもあります。補助金によるエコ家電の普及は大型テレビへの買い替えや一軒あたり台数が増えただけで、CO2の減少には繋がらなかったのではという指摘もあり、検証することが求められます。そして、日本の家電メーカーがテレビから撤退をすることになったのは皮肉なことだと言って済まされるものではありません。エコや環境をお題目にした普及政策の危うさです。

 

7. まとめ
みんなが共有できるビジョンを早急に作ることが重要です。そしてビジョンを実現するための適切な経路を発見し、そこにビジネスのシーズがあるかないかを見極め、技術・経済性・社会的受容性を検討し、実施するのです。課題がでてくれば、これを克服しなければなりません。多いのはコンフリクト(対立・衝突)の発生です。TPPを例にとると、農業は反対し、産業は賛成しています。対立があると、ビジョンの共有はできません。両方の利害関係が一致しなければならないのです。Win-Win戦略です。環境と経済の同軸化です。同じ方向へ向くということです。TPPなら産業界のメリットの一部を農業にまわすというようなことをして、お互いがWINWINの関係になるようにすることが重要です。環境ビジネスを立ち上げても、参入を認めないさまざまな規制があったりします。販路ができにくいといったこともあります。これらをどう解決するかも問題です。
リスボン戦略の中でヨーロッパは、IT化(知識産業化)を同時進行で進めていかないといけないといっています。IT化は、より効率的な形でグリーン革命を進めていくのに必要なのです。これは、Green Tech革命と呼ばれています。環境とITを結びつけてどうビジネスを進めていくかが重要だというのです。現在の産業構造の変動を見据えた上で、環境ビジネスは進んでいるのだということを忘れてはいけません。結論的にいうと、「環境ビジネスは予測するものではなく、作り出すもの」です。官民一体となった形で環境立国を目指さなければならないのです。「適切な規制が産業の国際競争力を強化する」といったのは、アメリカの経営学者マイケル・ポーターで、ポーター仮説と呼ばれています。規制には、将来の情報が詰め込まれているというのです。規制が示す方向性や確実性に沿って実現を図っていく、これがEUの環境戦略です。規制は市場の活力を削ぐものではなく、適切な規制は将来を導くものなのです。日本が環境立国を目指すには、そうした適切な規制が必要なのではないかと考えています。

 

 ご清聴ありがとうございました。