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日本のエネルギー政策 ~我が国のエネルギー問題の現状と今後の課題~

日本のエネルギー政策 ~我が国のエネルギー問題の現状と今後の課題~

 

■講師

京都大学大学院経済学研究科教授 
植田和弘 氏

 

1.エネルギー政策の転換
 福島の原発事故以来いろいろな議論が行われてきました。3つの選択肢に基づく国民的議論もありました。それで分ったことは、エネルギーの問題は「複雑系」だということです。いろいろな問題が繋がっているのです。原発をどうするかという問題は、廃棄物をどうするかという問題を避けて通れません。廃棄物をどうするかという問題は、核燃料サイクルをどうするかという問題と深く関係しています。それは、アメリカとの関係はどうするというような話にまでつながります。つまり一部の技術的な課題で解決が見えてくるというものではないということです。複雑系全体のソリューションを求めないといけないのです。

 

 これまでの流れを整理してみますと、まず福島原発事故を受けてエネルギー政策を見直すことになりました。民主党政権は2009年にできましたが、2010年に閣議決定されたエネルギー基本計画は、原発大増設計画でした。これは自民党政権から引き継いだものです。いわば政治主導でなく役所主導でエネルギー政策は行われてきたといえます。これが事故を受けて白紙見直しになったのです。総合エネルギー調査会基本問題委員会でエネルギー基本計画を見直し、原子力委員会で核燃料サイクルを見直し、中央環境審議会で気候変動政策を見直すということでした。それぞれがまとめたものを3つの選択肢にして国民的議論をするということで、昨年夏に行いました。確かに国民的議論にはいろいろな問題がありました。しかし、私はさまざまな問題はありつつも国民的議論はしてよかったと思っています。それまで国民全体があまりにもエネルギー問題に無関心でした。全国の経済学部のある大学で、エネルギー経済学という講座や講義のある大学は本当に少ないのが現状です。福島以後いろいろな研究が行われるようになったのは、いいことですし、国民的関心が高まったことも良かったと思っています。そして、国民的議論の結果が、革新的エネルギー環境戦略という形で9月14日にだされました。この中で、2030年代末までに原発稼動ゼロにするために政策資源を総動員すると書かれています。しかしこれを閣議決定してエネルギー基本政策を作るというところまでは行きませんでした。それで、現在、エネルギー基本計画というのは実質的にない状態です。見直した結果どうするのかが明確になっていないわけです。
 2012年5月に原発は全面停止になりました。これを受けて電力需給の問題が巻き起こりました。これにあわせて再稼動問題も議論しました。このことも電力・エネルギー問題に対する国民的関心を高めました。
 2012年7月には再生エネルギー発電固定価格買取制度がスタートしました。これは大きな制度的日本の進展です。本気で再生エネルギーを増やす気になったということでしょう。課題はありますが、今後うまく進行管理していくべきものということで、大きな意義のある制度だと思います。

 

 原発事故の原因について3つの事故調査委員会の報告書がでました。いずれも重要なことを指摘しています。規制する側とされる側の関係の問題とか、人災だとかいろいろな指摘がされていますが、いずれの報告書も原因はまだ全面的に解明されていないといっています。とりわけ原子力規制の問題については、規制する側とされる側が同じ組織にいるのはおかしいということから、新たに独立した原子力規制委員会が作られました。新しい安全基準の原案がでたり、活断層の調査結果などが出ています。この委員会は独立していますので、例えば政府が再稼働を望んだとしてもそれができるとは限りません。ここがどう動くかが今後原発をはじめエネルギー政策に大きな影響を与えるものと思われます。もうひとつ注目されるのが、電力システム改革ではないでしょうか。これについては専門委員会の案がだされています。大きな方向として発送電分離があります。今は工程表をどう具体化するか議論がされています。これがどう進むかで大きな影響がでるのは明らかです。

 

 国民的議論では、2030年の電力発電量に占める原子力の割合により、1.ゼロ、2.15%、3.20~25%の3つが選択肢として提示されました。私はこうした選択肢の提示の仕方はよくなかったと思っています。なぜなら、もし需要家が電源を選択できるようになったら、多く希望される電源を増やしていくしかないでしょう。ということは、電源構成に占める原発の比率は選択の結果ということになるので、そういう電源を選べるシステムを作るかどうかがより重要だということです。ということは問われるべきは、電力・エネルギーシステムの選択なのです。パーセンテージはその結果です。原子力の割合という分かりやすい選択問題にしたのでしょうが、日本のエネルギー問題の将来を選ぶということ、どんなエネルギーシステムを選ぶかということとは少し違っていました。
 ここで総選挙が行われ政権交代が起こりました。9月にでた革新的エネルギー戦略が、そのまま実行されることはないということは、はっきりしています。しかし予算を見ますと、風力関係に900億円近くだされているなど、再生エネルギーの推進にかなりの予算が組まれています。これからすると、「省エネ・再エネ・国づくり」という柱は、ある程度そのままあると見ています。

 

2.エネルギー:挑戦的課題
 現時点でエネルギー問題は、大変チャレンジングなテーマです。再生可能エネルギーへの期待は大きいです。しかし基幹的エネルギー源になるのかという疑問があります。2012年にドイツでは再エネの占める比率が25%までになっています。これは基幹電源になってきている段階だと思います。日本は福島原発事故の前まではいわゆる再エネは1%程度しかありませんでした。省エネの期待も大きいです。これもどこまでできるかという問題があります。原子力エネルギーについては、なによりも安全性の問題が課題でしょう。あるいは制御可能性やコストの問題です。現状は化石エネルギーに圧倒的に依存しています。実績もあり安定してはいますが、CO2の問題は避けて通れません。それぞれが課題を抱えているということです。しかも単純には選べないのです。私は廃棄制約と呼んでいますが、たとえば、福島で除染をやっています。その地域からは除くことができるでしょうが、なくなるわけではないのです。どこへ持っていくか。持って行く場所がなくて困っているのです。電気エネルギーを作るときには廃棄物が出るのです。CO2も廃棄物です。廃棄物抜きには電気エネルギーは作れないのです。CO2については国際制度の枠組みがあります。2060年のGDP予測がでていますが、中国とインドで46%くらいを占めるそうです。全体としてアジア地域は圧倒的な成長の源です。中国はいま石炭がエネルギーの70数パーセントを占めています。インドの1人当りCO2排出量はアメリカ人1人当たり排出量の約15分の1です。インド人がアメリカ人なみの排出量になったら今の15倍になります。どうすれば世界的な低炭素発展が実現できるか、これが決定的に重要です。廃棄制約をどう克服するか、これが課題なのです。その点再生エネルギーは、もともとが風や太陽、水といった廃棄制約フリーのものが源ですからいい。放射性廃棄物のような最終処分地の決められないようなものを稼動させるのは難しいと思います。今仮に原発をやめても、残っている廃棄物をどうするかという問題は続きます。
 電力システム改革がどうなっていくかによっても日本の将来は大きく変わります。発送電が分離され、すべての発電費用を民間事業者が払うという前提の下に自由競争が行われたら、電源構成は大きな影響を受けるでしょう。

 

3.再生可能エネルギー活用の多面的意義
 今後、再生可能エネルギーの活用が大きく進むことは間違いないと思っています。固定価格買取制度が再生エネ促進の起爆剤になるでしょう。事業者に投資の確実性を与えるものです。産業育成という課題や産業の競争力をつけるという面もあります。この制度は続けることが目的ではなくて、制度が不要になることが目的なのです。再生エネは原発の変わりになるのかという議論をしがちですが、新たな電力供給源ですから、そうした議論も必要でしょうが、もともと再生エネは気候変動防止の手段として注目されてきた面があります。低炭素発展の手段なのです。石炭発電より安い再生エネができたらみんながそれを使うでしょう。アメリカのようにシェールガス革命のようなことが起こるわけです。
 それと大規模集中型の電源が持つリスクも明らかになりました。そうすると分散ネットワーク型の電源のほうがいいわけです。屋根の上の太陽光と原発を比べても何の意味もありません。ITと組み合わせたイノベーションが起こって家がスマート化し、他の電源と一緒になって大きな意味を持つわけです。グリーン・イノベーションの源です。これを推進することは国力そのものだと思っています。またこれはあまり議論されていませんが、再生可能エネルギーは、エネルギー施設と地域社会の関係を変えていくのです。原発は交付金というお金を出していました。地域に受け入れられるためには、金をださないといけないというのは、そのこと自体に問題があると思います。再エネというのは地域資源です。ですから地域の農業や林業、水産業とは本来親和的です。とはいえ洋上風力などでも漁業権の問題などがでています。やり方によっては魚が増えることもあるようですから、最初からきちんと協議会のようなものを作って、地域の人とWIN WINになるような進め方をしないといけません。デンマークの風力発電はうまくやっています。オウナーシップ(Ownership)といわれていますが、出資により自分の発電所にさせています。リターンがあるから出資するのですが、電気が買い取られてはじめてリターンが生まれるのです。日本でも風力があちこちで作られました。福島原発事故以前で1700基ありました。建てるときに補助金がでるので、いろんなところにできましたが、ランニングコストがかかったり、メンテナンスに費用がかかったりで停まっている風車が多かったのです。買取制度があると、動かすことに熱心になります。発電しなけれれば収入にならないわけですから熱心になるのは当然です。動かすと騒音がでます。騒音と利益が一緒に来るわけです。騒音と利益が別々の人に行くと問題が起こりますが、同じ人に行きますから、デンマークでは騒音が音楽のように聞こえたりすると言われるように、改良したりしますし、このように社会的な仕組みの中で問題を解決していくことが大切です。みんなが参加していけば社会関係が変わるのです。日本でも買取制度で実績がでましたので、2012年が再エネ元年といえると思います。土地利用規制の問題や連携系統強化の問題、国民の負担の問題など課題はありますが、それらを克服しながら発展させていくというのがこれからの方向だと思います。

 

4.電力需給問題からの教訓と課題
 昨年夏は電力需給の問題が起こりました。電力需給の検証が行われ、電力需要の抑制と電力供給の確保ということが問題になりました。需要のほうはどれくらいになるか分かりません。夏の温度が何度になるかなど誰にも分かりません。それで高めに見積もるしかないわけです。過去60年間で最も暑い夏、つまり2010年の夏を参考にしました。電力需要は、温度と経済活動で決まるからです。電力の供給力は、前年からどれだけ増えたか、減ったかを見れば分かるので、それで検証しました。電力需給だけが問題ではなく、電力事業のシステムのあり方も問われました。今、日本は地域独占の9ないし10電力体制ですが、もっと融通できるのではないかといったことです。つまり今の仕組みの中で節電をするというだけでなく、仕組みやインセンティブとしての節電・需給調整が考えられたわけです。デマンドレスポンスという言葉でいわれたのですが、夏の昼間の電気代を高く設定して需要を抑制したり、電力ピークのときに電力を提供してくれたら普段より高く買うといった仕組みがあれば、もっと効率よく需給調整ができるわけです。こういうことは、働き方や暮らし方にも関係します。夏の暑い時期なら需要自体をカットするということも考え方としてあるということです。ヨーロッパにはバカンスがあり、クーラーをつけて無理して働くということ自体を減らすことも考えたらよいと思います。ITを使ってもっとスマートな機器と仕組みが住宅や地域・都市に広がっていけば、より大きなポテンシャルとビジネスチャンスが生まれる可能性があります。ドイツではすでに実績があがっていますが、デ・カップリングです。元々はCO2を削減しながら経済成長するということで、脱汚染成長ということです。経済成長するけれども廃棄物やCO2は減らすという状況を作るわけです。日本でも硫黄酸化物については、すでにそうなっています。ドイツではエネルギー消費量も減ってきています。経済成長するけれども汚染物質やエネルギー消費量は減るというのは、グリーン成長です。

 

5. 火力と原子力
 火力発電については、CO2をいかに削減するかという課題があります。原発については、除染と廃炉、放射性廃棄物の処理、これとずっと付き合っていかなければなりません。廃棄のことを生産の段階で考えるということが重要です。家電でいえば、最後は自分のところに戻ってくるという前提で設計しないといけないのです。拡大生産者責任という考え方です。今、機器の中に鉛のハンダは使われていません。リサイクルのときに困るからです。廃棄物に関しては、隠してはダメです。表に出して議論しないといけません。そこにイノベーションの源もあるわけですから。

 

6. 電力システム改革の方向性
 電力システム改革専門委員会の報告書案がでました。また電力規制改革の工程表もでてきました。第一段階は2015年までに、送電網の広域系統運用機関を設立すること、電力市場の競争状況を監督する業界監督新組織を設置すること、となっています。第二段階(2016年)では小売の自由化が念頭に置かれています。これは簡単ではありません。完全に自由な市場ということになると、無数の需要者と供給者がいて、一人ずつの需要者、供給者は価格の決定に影響がないということでなければなりません。本当にそういう市場が作れるのかどうか。自由化というのであればそういう市場作りを徹底しないといけないことになります。うまくいけば、家庭が電力会社を選べるということですし、競争のメリットがでてくるわけです。第三段階(2018~2020年)では、「発送電分離」の実施、料金規制の廃止、が想定されています。この通り進んでいくということであれば、このこと自体がエネルギーの選択に大変大きな影響を与えると思います。

 

7. 複雑系ソリューションは?
 まとめになりますが、電力・エネルギーシステム改革の方向性と廃棄制約への対応が問われているのです。原発のパーセンテージが問われているのではありません。エネルギー(ベスト)ミックスというのは、結果にすぎません。それは大規模電源をイメージしたものです。大きな発電所がどこか遠いところにあって、送電線を通じて電気はやってくるものだというイメージですが、それは大きく変わるのではないでしょうか。一般市民の方が太陽光発電をつけて毎日売れたかどうかで一喜一憂しておられます。見える化していますので、家電機器のスイッチを入れると消費量がピッとあがります。この機器はこんなに電気を消費するのだということが分かるのです。自宅で発電して自宅で消費すれば、地産地消的要素があります。極めて小規模な発電ですが、先ほどもいいましたように、再エネというのは小さな電気を集めたり、貯めたり、組み合わせたりして大きな力を発揮させることができると思います。将来的には再生可能エネルギー発電といわなくなるかもしれません。今は十羽一からげで言っていますが、性質はそれぞれかなり違っています。太陽光や風力は変動性があるといわれています。しかし地熱はほとんどベース電源的です。日本の地熱のポテンシャルは世界第3位です。洋上風力も日本はポテンシャルが高いです。バイオマスも少し異なります。もともとマテリアルや熱としての利用がまずあって、さらに発電するということです。こうしたそれぞれの特性を踏まえた上で利用を考えるということが大事でしょう。買取制度で価格は毎年見直すとされていますが、区分も変わる可能性があります。制度は進化していきます。的確に進行管理することが大事なのです。太陽光はすぐできますが、地熱などは時間がかかります。もう一つ重要なのが、システム改革をすすめる移行の時間軸の管理です。工程表ともいわれているものです。

 

 電力・エネルギーシステム改革の問題は、日本の社会経済ビジョン、産業ビジョンとも繋がっている話です。大きな一翼をこの分野が担っていると思います。エネルギー問題や政策は複雑系と申し上げましたが、政治・経済・社会・地域問題、さらに国際関係問題でもあるわけです。経済的に見れば、これは新しいビジネスを拓く機会でもあります。少し大げさな言い方をすれば、人類史的・世界史的に意義のあるグリーン成長を実現するということです。廃棄制約を克服しての成長です。そのために改革の方向性を考えていくということなのです。政権が変わってもこういう大きな方向は変わらないのではないかと思っています。

 

 ご清聴ありがとうございました。