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スマートコミュニティの動向と今後の方向性

スマートコミュニティの動向と今後の方向性

 

■講師

株式会社 日本総合研究所  創発戦略センター所長

井熊 均 氏

 

はじめに
 国内でもスマートコミュニティの取り組みはいくつかあるのですが、今私が取り組んでいますのは、主に海外のプロジェクトです。そうした経験から、海外での現状と、今日本がどういう方向に向かえばいいのかということについてお話をさせていただきます。

 

1.スマートシティ市場の立ち上がり
海外でもスマートコミュニティとかスマートシティの取り組みは盛んです。中国では、農村から都市へすごい人口が移動しています。それで新しい都市をつくるのですが、どんどんエネルギー消費が拡大していきます。そこでエコシティという考え方で環境負荷を下げる方向へ進んでいます。
昨日タイにいたのですが、サイエンスシティを建設しようとしています。そこのインフラをスマート化したいというのです。なぜかというと、インフラや企業サービスをスマート化しないと差別化されてしまうからです。インドネシアとの誘致競争に負けてしまうからです。こういう切実なアジアのなかでの競争があるのです。
中国にはスマートシティといわれる案件が200以上あるといわれています。中国では都市開発は地方政府が行いますが、それを認可するのは国務院です。日本で言えば内閣府をもっと強くしたような省庁です。開発に、エネルギー効率を上げるとか、リサイクル率を上げるといったような、低炭素への取り組みがないと認可されない状況です。

 

スマートシティは世の中のどういうニーズに対応しようとしているかを見てみましょう。新興国のニーズとしては、都市化政策、インフラ整備、環境保全、資源のひっ迫などへの対応です。かつて日本が成長したときと、いまアジアが成長しようとしている状況と一番違うのは、資源のひっ迫度です。日本の成長に対して資源は十分にありました。いまは十分にはないのです。こうした中で新興国は資源効率をあげるのに必死になっているのです。地方政府のニーズというのもあります。地方独自の地域づくりをしようとか、地方が積極的に開発を行って財政的にも利益を上げていこうとしています。企業にもニーズがあります。いま、この製品でなら絶対新興国に勝てるという製品をお持ちの企業は、すごく少ないです。製品の差はなくなってきている。色んな要素を組み合わせて勝負しないと勝っていけない。技術的な背景としては、ダウンサイジングが起こっています。たとえば発電は規模を大きくしないと効率は上がらなかった。いま製造されているガスエンジンの効率は50%近くまでいっています。燃料電池も新しいものは45%になっています。かつてメインフレームのコンピュータがパソコンに変わったように、かなりの部分が分散型の技術でカバーされるようになると思います。そうはいっても大型の発電所がなくなるとは思っていません。技術のダウンサイジングがなければ、スマートシティの話はありえないのです。もう一つはITです。これが劇的に進化しました。10年ほど前に分散型エネルギーがブームになりました。このときはコジェネならコジェネ単体を入れるという議論でしたが、いまはコジェネにHEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)やEMS(エネルギーマネジメントシステム)といった制御機能を一緒に入れます。エネルギーとITの融合が大きな技術革新を生んでいるのです。以上のようなさまざまな要素が集まって、スマートシティという市場が生まれつつあるのです。こういう技術の変遷に乗り遅れたら、企業の未来はかなり暗いといわざるを得ません。

 

2.海外スマートシティプロジェクトの動向
一例として杭州の銭江経済開発区を見てみましょう。ここはコジェネを中心としたエネルギーシステムとEMSが入ることになるでしょう。なぜ工業団地がこういうことをするのかといますと、工業団地の信頼性を上げるためです。スマートシティを導入するとインフラコストは高くなります。その付加価値分をお客様からきちんともらわないとビジネスは発展しません。コスト削減で投資を回収するというのはきれいな話ですが、それでは成長の限界を設けてしまうことになります。新しいエネルギー技術は付加価値を上げるのですから、それで投資を回収するのが発展の論理でしょう。工業団地は企業誘致でコストを回収しますから、企業誘致の競争力を付けるためにこういうことをするのです。

もう一つ、タイのアマタサイエンスシティを見てみましょう。アマタはタイ最大の工業団地開発の会社です。タイに所有する工業団地は、いま50平方キロくらいあります。ベトナムやミャンマーにも持っています。これからはさらに付加価値を上げなくてはなりません。それにはデザインセンターや開発センターを入れ、もっとスマート化してそこに来る企業へのサービスを高めなくてはいけません。それでサイエンスシティということでやっているのです。当然コストは上がります。ここでの販売単価は高いです。ですから付加価値の高い企業が入居してくることになります。スマートシティは成長のために導入するのです。成長とは何かというと、それは収入が上がるということです。

 

次にマレーシアの低炭素都市・プトラジャヤとサイバージャヤを見てみましょう。プトラジャヤは霞ヶ関が移転したような大きな街で、2011年時点でほぼすべての官庁及び関係機関が移転を完了している首都機能都市です。ここはデータアグリゲーションも入れて低炭素化を進めています。マレーシアのエネルギー消費量を減らさないといけないからです。マレーシアの最大の収入は天然ガスです。ところが国内での天然ガスの消費量が増えすぎたので、天然ガスを輸出するために天然ガスを輸入するということになっています。エネルギー消費を減らすことは国富に直結するので、低炭素化にお金をかけているのです。こういう経済的なメカニズムがないと高価なインフラはなかなか入れられないのが実情です。

 

3.中新天津生態城
中国政府はスマート化を進めるのにあたって、モデルを作ってやっていこうとしています。それをシンガポールと共同でやろうというのです。中新天津生態城の、中は中国、新はシンガポール、生態城は環境都市ということです。2006年に国務院が要請し、2007年に両国首脳が建設に合意し、基本協定に調印しました。国家プロジェクトとしてやっていくということです。開発面積は30数平方キロ、2020年までに人口30万人を目指すということです。これは多摩ニュータウン規模です。毎年東京都と同じくらいの人口が都市に移動していますので、その受け皿として新しい都市が必要なわけですが、それを低炭素化していこうというものです。

このプロジェクトの推進には天津市当局と、民間企業も含めた開発公社のような組織とが共同してあたっています。賢明だなと思いましたのは、開発指標を作ったことです。エネルギーであれば再生可能エネルギーの利用率を20%以上にしようと言っています。あるいはグリーン交通比率は90%以上です。まず目標を立ててこれをクリアする方策を考えるというやり方です。ここに日本人と中国人のアプローチの差がでています。やり方より先にターゲットを決めてしまうというのは、日本人から見ると相当荒っぽい感じがします。日本人は先にやり方を考えて、いけそうだとなってから進めるのですが、これではスピードは遅くなります。アジアの中では日本人のほうが多分特殊でしょう。走りながら考えるというのが、いまのアジアの普通のやり方です。
私が初めてこの現場に行ったのは2008年でしたが、道路もないただの広大な荒地でした。それが見る間に道路ができ建設が進んで、今マンションが相当建っている状況です。すごいスピード感です。スマートシティは大変お金のかかるプロジェクトです。それで中国もマレーシアも国家が資金を投入して取り組んでいます。コストが高くつくインフラですから、その費用が払える企業に使ってもらわなければ回収できません。キャッシュフローで考えなくては成り立たないということです。これは当然の経済論理です。

 

中新天津生態城の再生エネルギー計画は日本総研が2009年に作りました。太陽電池は高いからあまり使わないで、といわれましたので、いろいろ検討して入れたのは、熱関係のエネルギーネットワークです。コジェネにバイオガスを天然ガスと混ぜて供給するシステムです。これにヒートポンプを加えています。新しく都市をつくるのであれば、これが一番経済的かなと思います。熱に目を向けた開発をしましたが、結果としてどのような再生可能エネルギーが多く使われているかといいますと、一番多いのは河川水などの水熱のヒートポンプです。二番目はバイオマスによる発電・熱供給、次が太陽熱の温水器です。太陽光の比率は0.17%です。熱関係のほうの導入比率が高かったのです。熱は40%くらい再生エネルギー化できます。日本でもコジェネの仕組みを作って、そこに再生資源を入れていくという方法を取るべきではないかと思います。日本は川の多い国ですから川の水熱を使うのも一つの方法だと思います。

 

再生可能エネルギーの単位エネルギー当たりのコストがどれくらいかという研究は、まだまだ十分とはいえません。ドイツも再生可能エネルギーに力を入れて固定価格買取制度を実施しましたが、かなり電気代は上がりました。費用対効果を計算しますと、この買取制度の半分は太陽光につぎこまれました。しかし、太陽光でできた電気は、この制度全体で生まれた電気の10%でした。ドイツはこの前に風力に相当力を入れました。日本の10倍くらい風力が導入されています。バイオマスやコジェネも相当入っています。で次にということで太陽光に力を入れたのです。日本もこういう点を学んでいく必要があるのではないでしょうか。

 

4.スマートシティへの参入戦略
国内・海外のプロジェクトを比較して考えますと、日本企業は個別の技術やアプリケーションはすごく良く考えられています。しかしアジアの新興国を対象にスマートシティでビジネスをしていくのなら、日本での技術やシステムをどうやって海外で事業化するかを考えないと、投資採算性は成り立たないのではないでしょうか。
海外のスマートシティがどういうプロセスでできているかというと、まずビジョンを作る段階、二番目は基本計画作成の段階、三番目はエネルギーなどの具体的な計画を作る段階、4番目は計画に従って施設の設計を作る段階、最後はそれに従って施設を建設したり事業を立ち上げたりする段階の5つがあります。ここへどうやって入っていくのか。今までは、一番最後の第5段階で商売をしていたわけです。第4から第5へいくところで公募が行われて、これに対応して見積もりを作成し、入札するのがこれまでの物売りの事業スタイルです。そこで自社のビジネスを有利にするために、こういう技術があるという売込みをして仕様書に書き入れてもらう、いわゆるスペックインのために第4段階に働きかけてきました。そうではなくて、いろいろなものを組み合わせて売っていくということになると、第2段階から第3段階に働きかけないといけないのです。たとえばこの地域にマイクログリッドを作るということが、どこで決まっているかというと、第2段階か第3段階で決まるのです。第4段階はそういう決定に沿って個別に設計するだけです。つまりもっと上の段階への提案力がないと、これからの日本企業は思っているような事業展開はできないということです。

これを中国の政府レベルから見ていくと、まずビジョンを決めるのは中央政府です。基本設計を作るという段階で天津市が入ってきます。こうして大枠が決まれば、あとは開発公社のような開発事業体の役割となります。では民間企業はどうからんでいるかというと、結構バラバラなのです。アメリカのトップレベルのコンサルタント会社が、北京市や天津市のアドバイザーとして入っているケースがあります。第2段階では設計会社とコンサルタント会社が一緒にマスタープランを作っています。天津市の場合は、アラップというイギリスのエンジニアリング・コンサルティング会社が、マスタープランを描いています。第3段階ではいろんな会社が入っています。日本総研もここから入っているわけです。これ以下の段階になると、企業によって入り方はさまざまです。

 

ではどうやって上に上がっていくかですが、日本ではあまり練習の場がありません。日本ではスマートシティを官民共同で研究しています。海外では上の階層に入っていくのには、猛烈な競争があります。日本のような共同研究ではどうしても競争という意識にはなりません。日本企業の部長や役員が直接海外を歩きませんが、海外ではだいたいゼネラルマネージャかディレクターが動いています。片方は役員が来ていて、もう1社が課長クラスだったら、いくらこの課長が優秀でも弱いです。これでは海外の市場は開けないです。開けないと投資回収はできません。シンガポールは、首相が中国に来て政治的に引っ付いていますから強いです。アメリカや欧州もかなり前段階から来ています。日本はまだまだ上のほうからのアプローチの経験がありません。だんだん日本も官庁などが動いてくれるようにはなってきていますが、経験もインフラもなく明らかに劣勢です。この遅れを埋める戦略や政策が必要です。官民共同で埋めるということでもいいと思います。スマートシティは、絶対公共がからむ案件です。たとえばそこで大阪市が行けば、向こうもそれなりの人を出してきます。日本は談合などの問題から、過度に官と民に壁が作られているのではと思います。

 

最近私がだした本に、『性能限界』(日刊工業新聞社)というのがあります。製品には必ず性能があって、性能には必ず限界がある、永遠に性能が上がるということはありえない、ということを書いています。いま、いろいろなものがそういう所に来ているのではないか、と思うのです。性能には、理論的な限界と知覚的な限界があります。発電機の効率でいえば、当然上限があります。永遠に上がり続けるものではありません。もう上限に近づきつつあるのです。ところが技術者はそういう風には思っていない、そこが問題なのです。

 

日本が生き残るためには、3つの要素を考えなくてはならないと思います。一つは事業プロセスのもっと上流にアプローチするということです。二番目はポジショニングの戦略を考えるということです。シンガポールが中国に強いのは華僑のネットワークがあるからです。欧米も植民地の歴史があって長い根をはっています。すぐには真似できません。日本なりのポジションを考えないといけないと思います。三つ目はキラーコンテンツを持つということです。日本の得意な「組み合わせ」力を活かせる商品作りが必要です。
ローカル・グリッドを作るとして、マスタープランなどからのトップダウンアプローチには、相当な競争力と地方政府とのネットワークが必要です。これは日本企業には難しいです。日本企業は、水とか交通とかエネルギーといったネットワークを個別に検討しています。モジュールベースから入っているわけです。これはこれで強みが活かせる分野があります。欧米と同じようにはできませんから、差別化させる考え方を持ったほうがいいと思います。

 

スマートシティの基盤となるのはエネルギーネットワークですから、そこから入っていくのが一番妥当だと思います。水にもネットワークはありますが、使われているお金が違います。日本での上水の市場は3兆円弱です。電力の市場は15兆円です。これにガスなどを加えるとエネルギー市場は水の10倍近くあります。海外だとこの差はもっと広がるでしょう。データ量で比べれば圧倒的にエネルギーのほうがたくさん取れます。データが少ないということは、データを分析して改善する余地が少ないということなのです。

 

日本が生き残るポジションというのは、中流だと思います。上流は欧米が圧倒的な競争力を持っています。シンガポールのような超上流からというのは、まずないと思います。下流の設備や機器のレベルというのは、韓国や中国との競争がますます激化していくでしょう。なぜなら中国はこれからもっとグローバル化するからです。中国の成長が落ちるということは、中国企業が海外に市場を求めていくということです。下流の勝負はますます厳しくなると思います。スマートシティの中流というのは、ハードとソフトの接点みたいなものがあります。これでいいシステムを作っていくには、需要家の意見を聞いたり、行政の意見を聞いて作ることが重要です。そういうことのできるエンジニアを豊富に抱えているのは日本だと思います。ここに日本の強みがあるのではないかと考えています。

 

シンガポールのシステム開発を例に取ると、水での課題は、水の原水の利用率を50%にするというものです。つまり残りはリサイクル水や雨水でまかなうということです。シンガポールには水がないからです。いまはマレーシアから水がきています。これを将来ゼロにしようとしています。水ビジネスでは、日本は日本の技術が売れる場所を探せばいい、世界には一杯ある、と以前本で書きました。例えば淀川というのは、200キロ弱しかないのですが、そこへ上水と下水が混在しています。こんな川は世界にありません。日本は、技術が高い、住民のモラルが高い、行政の協調性が高い、こういうパワーをうまく使っています。これを売ればいい、ということです。

 

エネルギーで言えば、私は著書のなかで「需要家主導のエネルギーシステム」ということをいいました。いま、いろんな技術革新は、供給サイドではなく需要家サイドで起きています。小型のダウンサイジングの技術とかエネルギーのマネジメントシステムとか、そこでビジネスモデルを作っていけばいいと思っています。
その一つの例としてスマートハウスに注目してはどうかと思います。スマートハウスは、PV(太陽光発電)、FC(燃料電池)、蓄電池などの分散エネルギー機器や、HEMSなどのエネルギー制御機器などを設置して、うまくマネジメントするシステムですが、これはアジアで売れるのではないかと思います。関連企業と一緒に、こういうスマートハウスがネットワークされた街区のビジネスモデルを、「スマート・レジデンシャル・スクエア」と名前を付けて研究会をしました。個別では実現しにくいサービスを街区としてシェアし、リーズナブルなコストで高付加価値なサービスを提供するという構想です。こういう都市開発で一番高いのは土地です。スマートインフラを入れたマンションにしたら、3000万円のものが5000万円になるかといったら全然なりません。上がる費用は10%以内だと私は思います。ここなら他より快適・便利で安心・安全で環境的にもいいとなれば、コストがかかっても住みたいという人たちはいると思います。これをアジアに持っていけば、きっと売れるでしょう。日本のスマートシティの取り組みが、海外にも広く展開できることを願っています。

 

ご清聴ありがとうございました。