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今後求められる環境経営

今後求められる環境経営

 

■講師

日経エコロジー編集長 谷口徹也氏

 

1.2012年の環境動向
昨年の3.11以降、エネルギーの問題は大きく変化しました。また昨年のCOP17で、日本は京都議定書の第2約束期間から離脱するという決定をいたしました。2012年はこうした動きを受けて、エネルギーでは原発に頼らないエネルギー政策を考えなければなりません。これまでの「エネルギー基本計画」も抜本的に考え直さないといけないわけです。さらに放射性物質にも対応しなければなりません。これらが今年の重大な課題ということになります。

 

議論の内容ですが、まず電源構成をどうするのかです。従来のエネルギー基本計画では電力の過半を原子力でまかなうとしていました。震災前、原子力発電は電力全体の26%を占めていました。場合によってはこれをゼロにしないといけないかもしれない、という議論もでています。エネルギー・環境会議が「革新的エネルギー・環境戦略」の、資源エネルギー庁が「エネルギー基本計画」の、そして内閣府が「原子力政策大綱」の見直し作業を行っているところです。また「温暖化ガス削減目標の見直し」というのも始まっています。COPシリーズのもとになった「地球環境サミット」が今年20周年を迎えるということで、6月にリオで大きな会議が開催されます。これに向けて日本は何か対応を打ち出さないといけない立場にあります。

 

2012年の動きを大きな流れで言いますと、前半でさまざまな課題の検討が始まり、年央にはそれを受けていろいろな制度ができてきます。そして9月の国連総会、10月のCOP11(生物多様性条約締約国会議)、12月のCOP18(気候変動枠組み条約締約国会議)といった会議でそれらを世界に発信することになります。新たなエネルギー政策やCO2削減への取り組みなどが決まるのが今年の大きな動きです。
7月には再生可能エネルギー特別措置法により電力の全量固定価格買取制度(FIT)がスタートします。また「ポスト京都議定書」のCO2対策が決められるはずです。さらに放射性物質汚染対策特別措置法(食品中の放射性セシウムスクリーニング法)も施行され企業活動や暮らしに大きな影響を与えると思われます。レアメタル回収を狙いとする小型家電リサイクル法案は4月ごろには施行されるのではないかといわれています。これらについてもう少し詳しく見ていくことにしましょう。

 

2.再生可能エネルギーについて
現在、原発は全54基中2基しか稼動していません。この2基も順次定期検査のため稼動を停止する予定で、このままいくと4月には全原発が停止状態となります。再生可能エネルギーは原発に代替できるのか、また原発はCO2に関しては排出量が少ないとされていますが、これを石油やガスでまかなうとするとCO2対策はどうするのか、これらが課題としてあるわけです。再生可能エネルギーの発電コストは高いとされています。技術革新を含めてここも解決していかなければならない課題です。一方で全量固定価格買取制度がスタートすると、家庭も企業も発電をビジネスチャンスととらえて取り組むこともできます。

 

東京電力は17%の電気料金値上げで動いていますが、原発が停止し火力発電で代替した場合コストアップは避けられません。電気料金の上昇による企業の収益圧迫効果を試算してみますと、卸売・小売業やパルプ・紙、窯業・土石、繊維、石油・石炭製品など、売上高経常利益率の低い業種で減益率が高いことが分かりました。全量固定価格買取制度の導入によっても電力料金は上昇すると考えられていますので、企業はそうした事態に備えておく必要があります。
ミック経済研究所の調査によれば、省エネ支援ビジネスの市場は2020年には3兆円に拡大するとされています。ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)実現のための太陽光発電システムや照明・空調・建築などの省エネ追加投資市場を試算したものです。伸びの大きいのはやはり太陽光発電システムです。省エネ支援サービス市場も拡大します。これはエネルギーの見える化であるとか、エネルギー削減対策サービスなどをいいます。後半には建築への省エネ追加投資も大きく伸びると見られています。

 

全量固定価格買取制度の対象となっている再生可能エネルギーは、風力発電、太陽光発電、地熱発電、中小規模水力発電、バイオマス発電の5つです。波力発電や潮力発電は含まれていません。再生可能エネルギーの一次エネルギーとしての供給比率は、現在のところ3.2%です。電力全体で見ると約9%になります。
2000年からの供給量推移を見てみますとそれほど伸びてはいません。コストが高いのが理由と思われます。発電コストを見ますと、ざっと原子力が7円、石油火力が14円というときに、太陽光だと40円くらいといわれています。これをいくらで買うかがいままさに議論されているところです。全量固定価格買取制度では、電力会社が「一定期間」、「一定価格」で余剰電力を買い取ることになっています。買い取り価格はいま第三者委員会で検討されています。検討要素としては、発電コスト、設置者が受けるべき利潤、耐用年数です。資源エネルギー庁は、制度開始から3年間は「プレミア価格」をつけるといっています。肝心の価格ですが、太陽光発電では、35円から40円の間で決まるのではという声が多いです。しかしやってよかったと思える程度の価格でないと普及は難しいと思われます。技術面から見ると、変換効率が20%となる2020年には14円、25%となる2030年には7円にまで発電コストは下がると考えられています。FITが導入されると、工場の屋根や農家の休耕地などでの太陽光発電が広がることが考えられます。

 

世界の太陽光発電の伸びを予測した資料を見ますと、ドイツ以外の欧州諸国での伸びが大きいと考えられています。ドイツはもうピークアウトして横ばいと思われます。日本はアメリカなどと比べても伸びが鈍いと見られています。その理由は、企業などが発電事業者として参入していくには、技術だけでは乗り越えられない課題があるからです。第一はやはりメガソーラーで儲かるのかという事業性の問題です。FITの買い取り価格と期間が重要です。二番目は、太陽光発電は太陽の出方によって発電量が変動しますので、電力会社としては不安定な電力はあまり歓迎していません。こうした不安定な電力を電力網に接続できる可能量は1000万kWといわれています。太陽光発電が普及していくにはこうした送電網の改良、電力の安定供給のための技術的革新が必要になってきます。三番目の課題は用地の取得の問題です。現状では工場立地法や農地法などの法規制によって、どこでもすぐに工場や農地で発電できるわけではありません。こうした法改正もこれからの課題です。
太陽光発電の先進国といわれるドイツの例を見ますと、FITの価格を、つければ絶対儲かるという大胆な価格にした結果急速に普及しました。しかし税金など公的負担も増えましたので、買い取り価格の引き下げを行ってコントロールしてきています。これがうまくいかないと太陽光発電バブルが起こって、社会全体で見ると不公平感や非効率が生じてしまいます。日本もFITの導入にあたっては、こうした買取価格のコントロールが重要な課題となるでしょう。

 

もうひとつ再生可能エネルギーで注目されているのが、中小水力発電です。通常水力発電というとダムを思い浮かべますが、中小水力というのはダムを必要としないで、ある程度の高低差を利用して発電機を回すというものです。1カ所当たり最大1万kWくらいの発電量です。これは原発の約100分の1程度です。ボリュームゾーンは1カ所1,000から5,000kWくらいと考えられていますので、いかに数をたくさん集めるかがポイントです。日本全国で約2万カ所、ざっと1,400万kW分の開発余地があると試算されています。特に東北地方は河川が多く「エコ復興」の原動力としても期待できるのではないかと考えています。

 

3.CO2排出量削減について

昨年のCOP17で、日本は京都議定書の第2約束期間に参加しないことに決めました。しかし国際公約として掲げた「2020年に25%削減」という旗は降ろしていません。したがって企業としては、この目標に向かって継続的に取り組むことが不可欠となります。
CO2削減に取り組む視点ですが、「効率」と「総量」の2つの視点から考える必要があります。「効率」というのは、簡単にいうと、100円稼ぐのにどれだけのCO2が発生したかということで、少なければ少ないほどいいわけです。経済発展してもCO2量が増えなかったら、その削減努力は評価されるべきだということでもあります。
「総量」というのは、京都議定書の6%という削減目標や、国際公約である25%削減がこれにあたります。

企業のCO2削減への取り組みは進んでおり、自社の温暖化ガス排出量を公表する企業数は年々増えています。2011年にはCDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)からの質問に答える企業数は3566社と、5年前の922社に比べ3.8倍になっています。大企業から中堅企業へと広がっているわけです。
しかし一企業単体だけで取り組んでいても限界があります。一方で、国際的には新たな視点からの基準づくりがいろいろと行われています。先ほどのCDPやCFP(カーボン・フットプリント)など新しい概念が作られて、これに向けて削減努力をしようというものです。そこで、工場単体ではなく、そこで使っている材料や機械はどうか、あるいは使用時点はどうか、取引先はどうかなど、管理や削減する対象をサプライチェーン(SC)やライフサイクル(LS)に広げて考える動きが広がってきています。特に工場を海外にもっていって生産すると見かけ上日本のCO2は削減されます。こうしたいわゆるカーボン・リンケージが問題になってきています。企業の社会的責任という観点から見れば、どこで生産するにしてもCO2削減には取り組まなければならないわけで、その意味からもSCアプローチに関心が高まってきています。

 

4.「スコープ3」
ここで出てきているのが「スコープ3」という考え方です。「スコープ1」は、CO2の直接排出に対応するものです。「スコープ2」は、たとえば電気を使っていれば発電のためのCO2も考慮にいれるというように、エネルギー利用の間接排出も範囲に含めようという考え方です。そしてこの「スコープ3」では、原材料から生産、販売、利用、廃棄まで、上流・下流の間接排出もすべて範囲に含めて対処しようという考え方です。ISOにも、1企業で取り組むISO14001だけでなく、こうしたライフサイクルに対応したISO14044(ライフサイクルアセスメント)や、ISO14067(製品のカーボンフットプリント、2013年発行予定)、ISO14046(ウォーターフットプリント、2014年発行予定)など、新しい管理基準が考えられてきています。こうした流れの中で挑戦的な中長期的総量削減目標を掲げる企業も増えてきており、2050年まで見据えて目標を掲げているところもあります。

 

「スコープ3」の実例を見てみましょう。
日本興亜損保では、CO2削減がコスト削減に通じるとの観点からCO2削減に取り組み、オフィス内でのエネルギー節約だけでなく、オフィス以外でのCO2排出、たとえば営業、出張、印刷、廃棄物、物流、通勤などに範囲を広げて取り組み、27億円のコスト削減を達成しました。
キリンHDもSC全体の排出量のうち自社製造部分は16%であることから、対応可能範囲を輸送・流通や廃棄処理に広げて取り組んでいます。
パナソニックは、別の考え方をとっています。2005年を基準年として、その年生産していた製品を2012年まで販売し続けたとして、業績の伸びに合わせてCO2量を換算します。実際には省エネ製品を開発したことによってCO2排出量はその換算値より少なくなっていますので、この差分をCO2削減貢献度として評価しようというものです。太陽光発電パネルのような創エネ製品を生産すればこれも削減に貢献しているといえるとしています。このようにして2018年には1億2000万トンの削減貢献を目指すとしています。
東レは、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)で作られる航空機のライフサイクル全体でCO2削減をとらえています。従来の原材料で製造する場合よりも、構造部材の50%にCFRPを使用したほうが、製造時のCO2は増えるものの、機体が軽くなった分、組立てや使用時のCO2が削減されるため、LCA全体では7%近く削減できるとしています。
東芝の例では、ファクターという考え方がとられています。一定の環境負荷からどれだけの付加価値が生まれたかを示したものが環境効率です。ファクターとは、評価製品の環境効率を基準製品の環境効率で割ったもので、どれだけ環境効率が改善されたかを示しています。東芝の液晶テレビ「レグザ」は、2000年の製品に比べファクターは9.07になっています。2050年までに東芝は、世界でファクター10を達成することが必要と考え、2025年にファクター5を、2012年度はファクター2.3を目指しています。
花王は、シャンプーなどを作っているわけですが、ライフサイクルから見ると、使用時のCO2排出が最も多いことが分かりました。そこで利用時に使われるお湯や水も含めてCO2を削減しようと考えました。そこでできるだけそれらが少なくて済む節水型の製品開発を行い、売上高を原単位にして2005年度比で35%減らすことを目指しています。

 

5.放射性物質への対応
放射性物質に対して安心を担保するには、転ばぬ先の杖として測るしかないのではないかと思っています。きちんと測って隠さずすべてを情報開示する、これしかないのではないでしょうか。チェルノブイリの例で見てもそうですが、放射性物質はどんな経路でやってくるかわかりません。空気、水、あるいは食品であるかもしれません。となると、やはり測り続けて、きちんと知らせることしかないと思います。雪国まいたけは、いち早くQRコードを活用して携帯電話で放射性物質の検査結果が見られるようにしました。こういう取り組みが消費者の信頼を売るには大切でしょう。
この4月には新たな基準値の食品衛生法が施行されることになっています。昨年11月には食品中の放射性セシウムをどうやって測るかを定めたスクリーニング法が改正されました。食品を扱う企業は、これは安全ですという方法を考えていかなければなりません。昨年3月の原発事故直後に出た放射性ヨウ素とセシウムの暫定基準値は非常に評判が悪かったです。安全という根拠に乏しく、納得のできるものではありませんでした。この4月の新しい食品衛生法では、ものによってはこれまでの20分の1という低い規制値でスクリーニングをしようとしています。

 

一口に放射性物質といいますが、物質の種類によって放射能の半減期が異なっています。核種といいますが、これをきちんと識別して測らないとあまり意味がないわけです。ところが、現在出回っている放射能測定器の性能は測定方式によって大きく差があります。もっとも高性能なゲルマニウム半導体式のものは大型で価格も1500万円から2000万円ほどします。一方数千円から数十万円程度のものはハンディですが、シリコン半導体式の一部の機種を除き核種の分析まではできません。測定感度も高いとはいえません。国民生活センターに寄せられた相談件数を見ても、低価格品はリスクが大きいといえます。測定誤差もありますから、測定器を選定するときは慎重に行ったほうがいいでしょう。一度信頼を失うと回復は容易ではありません。
意識の高いところは昨年からすでに自主基準を決めて取り組んでいます。大潟村あきたこまち生産者協会は暫定基準値の500分の1という厳しい基準で行って注文が殺到したそうです。雪国まいたけ、ラディッシュボーヤ、イトーヨーカ堂などもそれぞれ検出限界値や暫定基準値の10分の1といった自主基準を決めていました。こうした厳しい取り組みが新たなビジネスチャンスを生み出すということもあります。

 

6.小型家電リサイクル法
これはレアメタルに関して、いわゆる都市鉱山といわれる廃棄物と資源の問題を同時に解決していこうとするものです。三菱マテリアルの予測では、2019年度には、エアコンと洗濯機からネオジム104トン、ジスプロシウム21トンが回収できる見込みです。また金・銀・銅・亜鉛・鉛といったベースメタルが、小型家電から年間300億円回収できるとされています。ビジネスとしては、いかにコストをかけずに回収し、処理するかがポイントとなります。

 

7.まとめ
以上見てきましたように、今年はさまざまな環境がらみの法的規制の変化や国際的な動きがあるわけです。こうした改正や改定をアクティブに捉えるかパッシブに捉えるか重要だと思います。新たなリスクとなるのか、ビジネスチャンスとなるのか。先ほどの放射性物質のスクリーニングで自主的に高い基準で取り組んだ例のように、法規制は先んずれば「武器」になるという側面があります。また企業がやらなくてはと思う需要の裏には必ず供給があるわけですから、そうした意識で取り組んでいくことが、2012年の環境ビジネスのあり方を考える上で大切なのではないかと思います。

ご清聴ありがとうございました。